「もっと上手に話せたら…」「あの時ああ言わなければ…」と、やりとりの後にモヤモヤが残るのは、多くの人が通る道です。
なぜ会話は、こんなにも難しいのでしょうか?
その問いに答えてくれるのが、アメリカ・オッターベイン大学(Otterbein University)の認知心理学者ロバート・N・クラフト氏です。
彼は言語学と心理療法の原則を応用して、日常会話を改善するための7つの基本を提案しています。
本記事では、“会話のコツ”を、わかりやすく解説していきます。
そこには日々のやりとりがもっとスムーズで、気持ちよくなるためのヒントが詰まっています。
目次
- 会話は自然にできるものではない?会話の基本1~3
- 会話力は“気づき”で変わる!会話の基本4~7
会話は自然にできるものではない?会話の基本1~3
読み書きやプレゼンの方法は学校で習うのに、なぜか会話のやり方は学びません。
実際には、会話はとても繊細で高度なスキルを要求される行動です。
「話すタイミングを見極め、相手の関心を推測し、自分の話に適切な文脈を添えて伝える」
それらをリアルタイムでこなさなくてはなりません。
意識せずに話していると、うまくいかないのは当然なのです。

では、どうすれば会話を改善できるでしょうか。
クラフト氏が示した7つの基本のうち、まずは前半の3つを見ていきましょう。
1. 交互に話す
会話の基本中の基本は、「お互いが順番に話すこと」です。
しかも、その“話す量”がある程度釣り合っていることが理想です。
一方が延々と話し続け、もう一方は聞いてばかり……という状況は、聞き手に強いストレスを与えます。
例えば、あなたが友人に「最近どう?」と尋ねたら、30分間ずっと相手の近況報告が続いたとします。
あなたの話すチャンスは訪れず、結果的に「ただの報告会だったな」と感じてしまうかもしれません。
そんな時は、「そういえば〇〇の話、聞かせて?」と相手に自然に返したり、「他のみんなはどう?」と周囲に目を向ける発言で、会話の“ターン”を調整することが大切です。
ちなみに、クラフト氏の父は、家族の会話に割って入るとき「ちょっと黙ってくれ、今オレが割り込んでるんだから」と冗談まじりに言っていたそうです。
こうした軽妙なユーモアは、場を和ませるだけでなく、自然にターンを引き寄せるテクニックとしても使えます。
2. 話題をつなげる

良い会話には“流れ”があります。
直前に話された情報に、新しい情報を加えるのが、自然な展開です。
例えば、「最近雨が多いね」という話に、「私はラム肉が食べたいな」と返すのはNGです。
これは“新しい情報”同士が衝突してしまい、会話の糸が切れてしまいます。
逆に、「そうだね、洗濯物が乾かなくて困ってるよ」と返せば、会話はスムーズに続きます。
また、15分も前の話題に突然戻るのも避けた方が無難です。
短期記憶の範囲を超えているため、相手に「何の話?」と思わせてしまうことがあります。
3. 自己表現ではなくコミュニケーションの意識を持つ
会話には、「伝えたいことがあり、それを表現し、相手に届く」ことが求められます。
しかし時に私たちの言葉は、単なる“自己表現”になってしまうことがあります。
例えば、職場で「今日は本当にひどい一日だった!」と一方的に愚痴をぶつけ続けた場合、それは「コミュニケーション」ではなく、単なる「発散」です。
もちろん、時には感情の吐き出しも必要です。
でも、それが一方的に続けば、聞き手は消耗してしまいます。
感情を出した後は、「あなたはどうだった?」と聞き返すなどして、相手の発散を受け止めましょう。
ギブ&テイクの関係、双方向のやりとりを意識することが大切です。
会話を改善するコツはまだまだあります。次項でそのポイントの4~7を紹介します。
会話力は“気づき”で変わる!会話の基本4~7
会話の後半をうまく運ぶには、“相手の反応に気づく力”が重要です。
ここからは、クラフト氏の提案する残りの4つの基本を見ていきましょう。
4. 相手を観察する

セラピストが優れた会話を行えるのは、言葉だけでなく相手の非言語的なサインにも目を配っているからです。
相手が身を乗り出したり、目を合わせてきたら「話したいサイン」かもしれません。
「手を動かして何かを言おうとする」サインも見逃さないようにしましょう。
一方、視線をそらしたり、そわそわしたり、スマホを触り始めたら「退屈しているサイン」です。
会話しながらも、相手の姿勢・目線・沈黙などに注意を払い、「そろそろ話を切り上げようかな」「ここで話を振ってみようかな」と調整していくことが、会話をうまく運ぶ鍵になります。
5. 視点の違いに気づく
日常会話では、私たちは無意識のうちに「自分の視点」で話しています。
例えば、旅行の話をするときに「例のあの温泉さ!」と言っても、相手がその場所を知らなければ、会話は通じません。
温泉の存在は分かっていても温泉に入ったことがなければ、あなたの話についていけないかもしれません。
こうした“視点のズレ”を防ぐには、「相手がこの情報を知らないかもしれない」という意識を持つことが大切です。
全部を丁寧に説明する必要はありませんが、相手の知識や背景を想像して言葉を選ぶようにすれば、誤解や食い違いを減らすことができます。
6. わかりやすく話しているつもりが一番危険
自分では「ちゃんと説明したつもり」でも、実際には相手に伝わっていないことがよくあります。
ある研究では、こちらが「これなら伝わるはず」と思って話しても、半分の確率で誤解されていたというデータも出ています。
それは相手に伝えた言葉が、2つの意味にとれる曖昧な文章だったからです。
例えば日本語では、「いいです」という返事には「承諾」と「断り」の2つの意味があり、この言葉だけではお互いの意思を掴みづらくなります。
だからこそ、「ええ、いいですよ」もしくは「いやいや、そんな、いいですよ」と、少し付け加えるだけでも意思を明確にできます。
「自分の話は伝わっているか?」と、相手の反応からこまめに確認する姿勢が大事です。
7. 自分の話をしたい欲求とバランスをとる

人の会話の最大40%は自分自身についての話だと言われています。
そして、人は自分の話をすることで、脳の報酬系が活性化します。
だからこそ個人的な満足感を求めて、欲求だけに従うと、自分の話ばかりになってしまいます。
しかしそれは会話の失敗に繋がります。
相手は置いてけぼりにされ、あなたとの会話をつまらないと感じるでしょう。
相手にも自分のことを話したいという欲求があるからです。
そのためバランスを取ることが大切です。
「今日はどんな一日だった?」などと相手が自由に答えられる質問を投げることが効果的かもしれません。
相手が自分のことを話しやすくなるだけでなく、良好な関係を築けるというメリットもあります。
ここまでで7つの会話の基本を考慮しました。
会話が苦手だと感じる人は、まずはこの7つの基本のうち、どれか1つでも意識して取り入れてみてください。
きっと、あなたの会話は今よりも気持ちの良いものになるはずです。
参考文献
7 Essentials for Improving Conversations
https://www.psychologytoday.com/us/blog/defining-memories/202505/7-essentials-for-improving-conversations
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部