宇宙には、私たちの想像をはるかに超えたスケールの現象が存在します。
その一つが太陽の数億倍もの質量をもつ「超巨大ブラックホール」という宇宙最強の重力源の一つです。
超巨大ブラックホールは通常、数億光年の間隔でしか存在していません。
しかし今回、国立天文台や東京大学を含む国際研究チームの観測により、ある特定の宇宙領域に密集した11個もの超巨大ブラックホールの集団が見つかったのです。
研究の詳細は2025年5月20日付でプレプリントサーバ『arXiv』に公開されています。
目次
- 超巨大ブラックホールの集団を発見!
- 2種の異なるガス領域の「境界」に位置していた
超巨大ブラックホールの集団を発見!
今回の発見の舞台は、地球から「くじら座」の方向、およそ108億年前の初期宇宙です。
ここで合計11個の超巨大ブラックホールが一斉に輝いているという、極めて特異な構造が見つかりました。
超巨大ブラックホールは、ガスや星間物質を猛烈な勢いで取り込みながら莫大なエネルギーを放出します。
この活動的な状態は「クエーサー」として観測され、遠く離れた宇宙からでもその強い光が捉えられるため、「宇宙の灯台」とも呼ばれています。
とはいえ、クエーサーはあくまで宇宙に点在するものであり、通常は数億光年離れてポツンと存在するのが一般的です。
しかし今回観測された11個のクエーサーは、なんとわずか4000万光年という範囲に密集していたのです。
このような密集は、これまでの観測で一度も報告されたことがなく、もし偶然だとすれば、その確率は10の64乗分の1未満という、もはや天文学的という言葉すら霞むレベルです。
研究者は、この異常な密度を「これまで知られていた宇宙の姿とはまったく違う」と語っています。

さらに日本が誇る大型望遠鏡「すばる望遠鏡」による観測データを分析したところ、これらのクエーサー集団は銀河の中心から約2500万光年も離れた場所に位置していることがわかりました。
普通、ブラックホールは銀河の中心で成長すると考えられているため、銀河が密集する場所にクエーサーが集まっているのが自然です。
そのため、今回のクエーサー集団はブラックホールと銀河の関係についての従来の理解を大きく覆すものであり、「なぜブラックホールが銀河の外れに集中しているのか?」という新たな謎を突きつける結果となりました。
2種の異なるガス領域の「境界」に位置していた
チームはさらに、クエーサー集団とその周囲の環境との関係を調べるため、銀河間ガスの三次元的な分布を描き出しました。
結果は驚くべきものでした。
クエーサー集団は、ガスが最も密集している場所にも、最も希薄な場所にも存在していなかったのです。
それらが位置していたのは、銀河間に広がる「中性ガス」と「電離ガス」のちょうど境目だったのです。

これはブラックホールが、進化しつつある何らかの巨大構造の“縁”に沿って分布していることを示唆します。
たとえば、2つの銀河団が重力によって接近しつつある場所、あるいは宇宙のフィラメント構造が交差する地点などです。
チームはこの構造を「宇宙のヒマラヤ(Cosmic Himalayas)」と名付けました。
それはまるで、山脈が大地の境界にそびえ立つように、異なる宇宙の構造の“境界”にこのクエーサー集団が並んでいるからです。
この構造が特別な場所だったのか、それとも“宇宙の節目”のような一瞬の出来事だったのか――その答えはまだ出ていません。
今後は、すばる望遠鏡に新たに導入される「多天体分光器(PFS)」を活用した観測が予定されています。
これにより、より広範囲・高精度で銀河やガス、ブラックホールの分布を解析でき、今回の発見が宇宙全体でどれほど一般的かを見極めることができるでしょう。
参考文献
【プレスリリース】宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見――宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける――
https://research-er.jp/articles/view/145008
元論文
Cosmic Himalayas: The Highest Quasar Density Peak Identified in a 10,000 deg2 Sky with Spatial Discrepancies between Galaxies, Quasars, and IGM HI
https://doi.org/10.48550/arXiv.2404.15963
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部