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どんなものもサイコロにできる技術が開発される


米カーネギーメロン大学の研究チームが、どんな形状の立体物でもサイコロのように振り、意図した確率で特定の面を出す技術を開発しました。この技術は、物体の重心や凸包を用いて転がりの静止状態を純粋な幾何学計算で予測し、従来の物理シミュレーションに比べて大幅に高速化された方法です。研究チームはこの技術でドラゴン型やネコ型などユニークな「サイコロ」を3Dプリンターで作製し、理論と実験でその精度を確認しました。この成果はボードゲーム開発からロボット工学まで多岐にわたる応用が期待されています。

サイコロといえば普通は六面体の立方体を思い浮かべますが、もし「ネコの置物」や「ドラゴンのフィギュア」をサイコロのように振っても公平にランダムな目が出せるとしたら――そんな夢のような技術が現実になりました。


アメリカのカーネギーメロン大学(CMU)で行われた研究によって、どんな形状の立体物でも、転がしたときに最終的にどの向きで止まるかを純粋な幾何学計算だけで予測し、さらに好きな確率で特定の面が出る形状を設計できる方法が開発されたのです。


研究チームは実際に3Dプリンターでユニークな形の「サイコロ」を作製してテストし、この方法の精度を確かめました。


まさに「あらゆる物体がサイコロになる」驚きの成果であり、ボードゲームから工業デザインまで幅広い応用が期待されています。


研究内容の詳細は『ACM Transactions on Graphics』にて発表される予定(印刷中)です。




目次



  • 転がりの予測はなぜ難しい?
  • ドラゴン型の3面サイコロを設計できる
  • 広がる「サイコロ化」アイデア

転がりの予測はなぜ難しい?


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図は計算を基に豚のフィギュアがどの角度で静止するかを、それぞれの確立を示しています。/Credit:Putting Rigid Bodies to Rest

普段何気なくサイコロを振れば、コロコロと転がってやがて止まり、ある面が上に出ます。


この「転がって静止するまでの挙動」を正確に予測するのは一見簡単そうですが、実はとても複雑な物理現象です。


特に形がいびつな物体の場合、どの向きで止まるかを調べるには従来、コンピュータ上で物理シミュレーションを何千回も繰り返し、統計を取る必要がありました。


しかしシミュレーションには計算時間がかかるうえ、パラメータの調整や接触計算の不安定性など課題も多く、複雑な形状ではなおさら困難でした。


一方で、普通の立方体のサイコロでは6つの面がすべて等確率(各1⁄6)で出ます。


しかし実は必ずしもサイコロは立方体である必要はありません。


出にくい目に価値を高く設定するなどの方法で、あえて不均一なサイコロが求められるケースもあります。


歴史的には、羊の足の関節骨(アストラガルス)をサイコロ代わりに使った例もありますが、この「くるぶしサイコロ」では各面の出やすさは均等ではなく、骨の形状によって偏りが生じました。


研究者のキーナン・クレイン氏(米カーネギーメロン大学)は「古代の人々が使った不揃いなサイコロでは、各面の出る確率は1⁄4ずつ等しいわけではなく、その特有の形状によって決まっていました。人々は経験を重ねる中で、どの面が出やすいか直感的に見抜いて賭けていたのです」と説明しています。


つまりサイコロの確率は形次第であり、逆に言えば形を工夫すれば確率を操れる可能性があります。


この点に着目したのが今回の研究です。


研究チーム(カーネギーメロン大学やNVIDIA研究所、Adobe研究所、トロント大学の共同研究)は「物理シミュレーションに頼らずに形状の情報から直接、転がりの結果(静止する向き)の確率を計算できないか」と考えました。


その目的は、デザイン段階で物体の安定性を即座に評価したり、意図した出目の確率分布を持つサイコロ形状を自動設計したりすることです。


例えばテーブル上で倒れにくい製品の設計や、ユニークなボードゲーム用サイコロの開発に役立つでしょう。


研究チームの1人であるクレイン氏はXへの投稿で「たとえば立方体ではないドラゴンの形をしたサイコロでも、公平に作れます。私たちの手法ならそれが可能なんです!」と語っており、従来は困難だった“どんな形でもサイコロ化”という野心的な目標の実現に意欲を見せています。


ドラゴン型の3面サイコロを設計できる


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上の図のような様々な形状の物体をサイコロ化してどの角度で静止するかを計算することが可能です/Credit:Putting Rigid Bodies to Rest

では研究チームはどのようにして、物体が止まる向きを計算しているのでしょうか?


ポイントは重心の高さと凸包(とつほう)です。


物体が転がって最終的に安定するのは、重力によって重心ができるだけ低くなる向きで止まるためです。


言い換えれば、重心の位置が他より低い姿勢は安定しやすく、それが物体の「出目」に相当します。


研究チームはまず物体の形状全体を外側から包む最小の凸型の多面体(凸包)を考え、次にその凸包が各面・辺・頂点で地面と接したときに物体がどんな向きになるかを系統立てて整理しました。


具体的には、物体を様々な角度に傾けた際に重心の高さがどう変化するかを単位球上にマッピングします(ガウス写像と呼ばれる手法)。


球面上のある点は物体の特定の向きを意味し、その点の高さに対応する重心の高さを計算することで、「どの向きで重心が最低になるか」「その向きでは物体のどの部分が下になるか」がわかるのです。


この重心高さの分布(球面上の関数)を解析し、傾きに応じて物体が転がっていく経路をすべて追跡すれば、初期のランダムな向きから出発して最終的にどの面で安定するかの確率を計算できます。


こうした純粋に幾何学にもとづく計算法により、従来の物理シミュレーションに比べ大幅な高速化が達成されました。


研究論文によれば、計算速度は従来比で単純な形状では約400倍、複雑な形状でも60倍にもなり、たとえばブタの形をした玩具サイコロ(有名なパーティーゲーム「Pass the Pigs」ではブタのミニチュアを振って出目を競います)の6通りの静止パターンと確率もわずか0.003秒(3ミリ秒)で計算できたと報告されています。



これほど高速であれば、リアルタイムに近い形でデザイン中のモデルの安定性をチェックすることも夢ではありません。


研究チームは次に、この計算法を応用した「逆問題」に取り組みました


なわち、「指定した確率で止まるサイコロの形状を自動で設計する」という挑戦です。


研究チームはこの発想を実装し、確率と頂点座標の勾配をリアルタイムで計算できる設計ツールを開発しました。


例えば、「コイン2枚を投げたときと同じ確率で表の枚数が出る3面体」や、「6面ダイス2個の合計と同じ確率分布を持つ11面体」(出目2~12が出る確率がちょうど2個サイコロの場合と一致する)をこのアルゴリズムで自動生成できることを示しています。


つまり多少形が複雑でも等確率化できるサイコロにでき、逆に好きなように確率を偏らせた不公平なサイコロも作れるわけです。


従来の職人芸的なバランス調整では到底見つけられないような形状のサイコロも、この方法なら発見できると研究者らは述べています。


実際、古典的なサイコロ設計では避ける「追加の不安定な面」をあえて持たせることで、見た目が自然なのに狙った確率でしか止まらないサイコロ形状など、ユニークな例が数多く示されました。


研究チームはこうして設計した「特殊サイコロ」を3Dプリンターで実際に造形し、物理的に転がして結果を検証しました。


例えば、ネコやアルマジロの立体モデルをベースに、それぞれ3つの安定面を持つサイコロに変形したものがあります。


そのほかドラゴン型やウサギ型など様々な形状で、公平・不公平含め思い通りの確率特性を持たせることに成功しました。


実験では、こうした造形サイコロを実際に300~1000回ほど繰り返し転がして統計を計測しました。


その結果、多くの試作品で理論計算どおりの確率分布に非常に近い実測結果が得られ、手法の有効性が確認されました。


例えば「2個のサイコロ合計を再現する11面体」を転がした実験でも、出目2~12の出現頻度が期待値にほぼ合致したとのことです。


計算による事前予測が、そのまま現実のサイコロにも適用できたわけです。


ただし、転がす際にあまり強くバウンドすると、跳ね方など運動量の影響で予測からズレる場合も観察されました。


(※思い切り地面に叩きつけるような異常なバウンドをすると、ドラゴン型サイコロの足や翼などがモデル予測を超えた曲がりや反発が起こるためだと考えられます)


またモデル予測の精度は100%にはまだ届いておらず、全体で3~4%程度のズレもみられました。


この点について研究チームは、今後より精緻なモデルで改善していきたいと述べています。


広がる「サイコロ化」アイデア


ドラゴンのサイコロを試験している様子
ドラゴンのサイコロを試験している様子 / Credit:Tired of boring old dice? Roll some dragons and armadillos!

この研究が示すように、もはやサイコロの形は自由自在です。


ゲームデザイナーや愛好家にとっては、自分の創造したキャラクターやオブジェクトそのものをサイコロとして使える未来が開けたと言えるでしょう。


クレイン氏はSNSでも「ドラゴンのような複雑な形でも公平なサイコロにできる。それがまさに我々の達成したことだ」と強調しています。


見た目がユニークでありながら確率的にフェアなサイコロや、逆に見かけは普通でも狙った目が出やすいサイコロを作れるのですから、ボードゲームやテーブルトークRPGの世界では大きなインパクトがあるでしょう。


例えばTRPGのダンジョンズ&ドラゴンズではドラゴン型のサイコロ、すごろくや双六ではマスコットキャラ型のサイコロ、といった具合にテーマ性の高いグッズ展開も夢ではありません。


さらに、サイコロ以外への応用可能性も考えられます。


物体の安定性や転がり方を制御する設計技術として見れば、製品開発やロボット工学にも役立つかもしれません。


たとえば梱包材やおもちゃを設計する際に「必ずこの面が上になるような形状」に作ることで、中身が破損しにくくしたり見栄えを保ったりできる可能性があります。


実際、研究チームは「自然なシーンをCGで生成する際に、置かれたオブジェクトがどんな配向で落ち着くかを確率分布として与える用途」なども提案しています。


乱雑に物をばらまいたようなシミュレーションでも、各物体があり得る安定姿勢で配置されれば現実感が増すでしょう。


今回の技術は、数学的な解析とコンピュータグラフィックスを組み合わせることで、偶然任せだった「転がり」の振る舞いを思い通りにデザインできることを示しました。


「どんなものでもサイコロになり得る」という発想は私たちの直感を覆すものです。


クレイン氏は本研究について「物理シミュレーションでは到底見つからない新しいタイプのサイコロを発見できた」と述べており、今後さらなる形状の探求に意欲を見せています。


私たちの身の回りのあらゆる物が“運命を占うサイコロ”になる日が来るかもしれません。


科学と遊び心が融合したこの研究は、確率とデザインの新たな可能性を切り開いたと言えるでしょう。


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元論文

Putting Rigid Bodies to Rest
https://www.cs.cmu.edu/~kmcrane/Projects/RestingBodies/PuttingRigidBodiesToRest.pdf

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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