ツンとした態度でマイペースに過ごすネコたち。
でもネコたちは飼い主の「匂い」をきちんと覚えていて、知らない人との違いを嗅ぎ分けていたようです。
東京農業大学の最新研究で、ネコが匂いだけで「飼い主」と「赤の他人」を識別していることが明らかになりました。
また、右の鼻と左の鼻を使い分けるという高度な行動も見られ、ネコの嗅覚と脳の関係にも新たな光が当たっています。
研究の詳細は2025年5月28日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。
目次
- ネコは“匂いで人を識別”していた
- 右の鼻と左の鼻で役割が違う?
ネコは“匂いで人を識別”していた

研究チームは今回、30匹の飼い猫(オス11匹、メス19匹)に対し、以下の3つの匂いを提示しました。
・飼い主のにおい(既知)
・見知らぬ人のにおい(未知)
・無臭の空白サンプル(対照)
匂いは、被験者の耳の後ろ、脇の下、足の指の間などから綿棒で採取され、チューブに入れてネコに嗅がせます。
実験はネコが普段暮らしている自宅で行われ、リラックスした環境下で行動が記録されました。
その結果、ネコは明らかに「見知らぬ人の匂い」に長く注意を向ける傾向を示しました。
具体的には、未知の匂いには平均4.8秒、既知の匂いは2.4秒、空白のチューブには1.9秒という差が見られたのです。
これはネコが匂いによって人間の「親しさ」を判断している可能性を示します。
つまり「飼い主の匂いは慣れた匂い」として、特に調査する必要がないと認識されているのです。
さらに興味深いのは、ネコがこの“匂い調査”の際に、左右の鼻孔(右・左)を使い分けていたことでした。
右の鼻と左の鼻で役割が違う?
チームは、ネコがどちらの鼻孔を使って匂いを嗅いでいるかも記録しました。
その結果、ネコは未知の匂いに対しては、まず右の鼻孔を優先して使う傾向が見られました。
そして、匂いに慣れてくると、次第に左の鼻孔を使うように変化していったのです。
このような「鼻の使い分け」は、脳の左右差に基づく行動と考えられています。
犬や馬、魚や鳥でも同様の現象が報告されており、右脳は新しい情報を処理し、左脳は慣れた情報や日常行動を担当するというパターンが共通しています。
つまり、ネコが最初に右の鼻で「これは知らない匂いだ」と警戒し、慣れてくると左で「もう大丈夫」と判断している可能性があるのです。

また、嗅いだあとに顔をチューブにこすりつける“マーキング”行動も観察されました。
これはネコが自分の匂いを上書きするように、対象に対して所有感を示す行動とされており、匂いを嗅ぐ→確認→マーキングという一連の流れがあると考えられます。
加えて、性格と行動の関連も発見されました。
神経質な性格のオス猫は何度も同じ匂いを嗅ぐ傾向があり、協調性の高い猫は落ち着いて少ない回数で済ませていたといいます。
メス猫ではこの傾向は見られませんでした。
この研究は、ネコが「人間を匂いで識別できる」という新たな証拠を提示しています。
私たちが思っている以上に、ネコは嗅覚を通じて人との関係を築いているのかもしれません。
参考文献
Cats recognize their owner’s scent, study suggests
https://phys.org/news/2025-05-cats-owner-scent.html
Your cat probably knows your smell
https://www.popsci.com/environment/cat-knows-your-smell/
元論文
Behavioral responses of domestic cats to human odor
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0324016
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部