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【なぜ組み立て不要?】生まれてすぐ歩き出すソフトロボットの開発に成功


エディンバラ大学の研究チームは、3Dプリンタで印刷された直後から動き出すソフトロボットを開発しました。"フレックス・プリンタ"という技術を用い、逆さまに3Dプリントすることで、柔らかい素材でも正確に積層し、組み立てなしでロボットを製造可能にしました。このロボットは、材料に熱可塑性ポリウレタン(TPU)を用い、流体素子による空気圧制御で動作します。従来の複雑な組み立てなしで、外部からの空気圧だけで動作し、電子部品を使用しないため、特殊環境でも作動可能です。この技術は災害現場や宇宙探査、医療分野での応用が期待されています。

ロボットといえば、まず部品を組み立てて、配線して、プログラムを組んで…と、多くの工程を経てやっと動き出すのが常識です。


完成したその日に動かせるだけでも十分早い方でしょう。


しかし、今回紹介するロボットは違います。


まるで生物のように、3Dプリンタで印刷されたその瞬間から、外部の空気圧を与えるだけで自ら立ち上がり、歩き出すのです。


この驚くべき研究成果を発表したのは、英エディンバラ大学(The University of Edinburgh)の研究チームです。


彼らは「Flex Printer(フレックス・プリンタ)」と名付けた独自のオープンソース3Dプリント技術を用いて、まったく新しいソフトロボットの製造方法を実現しました。


この成果は2025年5月13日付の『Device』誌に掲載されました。




目次



  • 従来の常識を覆す「逆さまのソフトロボットの製造技術」
  • 3Dプリントされてすぐに歩き出すロボット!その仕組みとは?

従来の常識を覆す「逆さまのソフトロボットの製造技術」


ロボットは精密な部品や電子回路、モーターなどが複雑に組み合わさって作られる機械です。


なかでも「ソフトロボティクス」という分野では、硬い金属ではなく、シリコンやTPU(熱可塑性ポリウレタン)などの柔軟素材を使って、人や繊細な物体と安全に接触できるロボットが開発されます。


しかしこの分野には、いくつかの大きな壁が立ちはだかっていました。


その1つが、「組み立ての難しさ」です。


柔らかい素材は加工や接着が難しく、特に流体圧で動くタイプのソフトロボットでは、わずかな気密性の問題で動作不良が起きてしまいます。


また、近年では3Dプリンタによる製造も試みられていましたが、柔らかすぎる材料は重力により垂れてしまい、きれいに積層できない、いわゆる「つぶれ問題」が頻発していました。


そんな課題を一気に解決したのが、エディンバラ大学の「フレックス・プリンタ」です。


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逆向きに3Dプリントすることで柔らかい素材でも崩れない / Credit:Maks Gepner(The University of Edinburgh)et al., Device(2025)

このシステムは、既存のFDM(熱溶解積層)方式プリンタを改良したもので、最大の特徴は「逆さ印刷」を採用していることです。


通常の3Dプリンタは下から上に積層していきますが、フレックス・プリンタでは部品を上から吊るすように形成します。


この方式により、柔らかい素材が垂れたり潰れたりすることなく、非常に薄くて繊細な構造も正確に印刷できるというわけです。


そして、このプリンタシステムにより、なんと「1つの素材・1つの工程」で、骨格、筋肉、配線、回路に相当する機構まですべてを一体成形することに成功したのです。


ロボット本体の材料は、柔軟なTPUフィラメント1種のみで構成されており、追加部品や接着工程は不要です。


では、生まれたばかりのロボットが歩き出す姿を見てみましょう。


3Dプリントされてすぐに歩き出すロボット!その仕組みとは?


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3Dプリント後、すぐに歩き出せるロボットを開発 / Credit:Maks Gepner(The University of Edinburgh)et al., Device(2025)

動画のように、新しく誕生したロボットは、チューブを繋ぐだけですぐに歩き出すことが可能です。


では、このロボットは、なぜ印刷された直後に歩けるのでしょうか?


その秘密は、内部に組み込まれた「流体素子(fluidic logic)」という仕組みにあります。


流体素子とは、気体や液体といった流体を利用して、電気回路のスイッチングのような動作を実現する部品です。


安定した空気の流れに、ごくわずかな制御流を加えるだけで、流れの方向や経路が劇的に変化するという性質を活かしています。


そのため、バルブのような機械的な動作部品を使うことなく、空気の流れだけで信号の切り替えや制御が行えるのです。


この仕組みによって、空気圧を“信号”として使い、ロボットの各部位に順番に命令を送ることができます。


まさに「空気で構成された論理回路」と言えるでしょう。


今回のロボットには、空気圧によって順番に信号を出す回路が内蔵されています。


これが3つの足のアクチュエーターに一定のリズムで信号を送り、左右の足を交互に動かしながら、実際に前進していきます。


この機構もすべてTPU素材で構成され、本体には電子部品を一切使用していません。


つまり、外部から空気圧を供給するだけで、ロボット歩き出すことが可能なのです。


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空気を流すだけで足が動き、「歩く」 / Credit:Maks Gepner(The University of Edinburgh)et al., Device(2025)

この設計が持つ利点は計り知れません。


まず、完全一体構造のため、組み立て工程がゼロ。精密な手作業も不要で、誰でも再現可能です。


さらに、電子部品を使っていないので、電磁波に強く、MRI内や宇宙空間など特殊環境でも動作可能です。


また、材料は1種類だけで済むため、将来的には再利用やリサイクルも視野に入れた設計が可能かもしれません。


今後、災害現場での即席ロボット、宇宙探査時の現地製造ロボット、医療現場での埋め込み型柔軟デバイスなどへの応用が期待されています。


研究チームはオープンソースとして設計図や製造ノウハウを公開し、世界中の研究者・開発者との共同開発を進める方針も示しています。


このロボットは、単なる一つの機械ではなく、「次世代ものづくり」の可能性そのものを象徴しているのです。



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参考文献

Robot is 3D-printed upside-down in one piece, then walks out of the printer
https://newatlas.com/robotics/3d-printed-soft-robot-walks/

World first soft robots walk off machine that makes them
https://www.ed.ac.uk/news/world-first-soft-robots-walk-off-machine-that-makes-them

元論文

A standardized platform for translational advances in fluidic soft systems
https://doi.org/10.1016/j.device.2025.100800

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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