starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

日光を浴びると免疫システムが強化されていた!


ニュージーランド・オークランド大学の研究チームは、日光が免疫システムを強化することを発見しました。好中球という白血球の一種が昼間に日光を浴びると活性化され、病原菌に対する殺菌能力が向上することを明らかにしました。研究では、ゼブラフィッシュを用いて実験を行い、時計遺伝子「Per2」が昼間に活性化され、好中球の殺菌能力を強化することが確認されました。また、Per2のパートナー遺伝子「Cry1a」は免疫を抑制する方向に働くことも発見されました。この研究は日光が体内時計を整えるだけでなく、免疫システムを昼間仕様に切り替える役割を持つことを示唆しています。今後、人間の免疫細胞でも同様の仕組みが確認されれば、光療法や新薬の開発が期待されます。

太陽の光を浴びると、気分が晴れやかになったり、明るくなることは誰しも経験があるでしょう。

しかし今回、科学者たちはそれだけではない、日光が「免疫システムそのもの」を強化するという驚きの仕組みを明らかにしました。

ニュージーランド・オークランド大学(University of Auckland)の研究チームは、白血球の一種である免疫細胞「好中球」に着目し、日光によって殺菌能力が高まる分子メカニズムを解明したのです。

研究の詳細は2025年5月23日付で科学雑誌『Science Immunology』に掲載されています。

目次

  • 昼間に免疫力UP!ゼブラフィッシュで実証
  • 光を浴びることは、免疫にとっての「目覚まし時計」

昼間に免疫力UP!ゼブラフィッシュで実証

今回の研究で注目されたのは、私たちの体内で最も多く存在する免疫細胞「好中球(こうちゅうきゅう)」です。

好中球は、病原菌が体内に侵入すると真っ先に現場へ向かい、細菌を飲み込んで殺す「ファーストレスポンダー」として知られています。

研究チームは、ゼブラフィッシュという小型の淡水魚を用いて実験を行いました。

この魚はヒトと遺伝子構造がよく似ており、また体が半透明なため、生体内での免疫反応をリアルタイムで観察するのに適しています。

画像
Credit: canva

実験では、昼間に細菌感染させた魚のほうが、夜に感染させた魚よりも高い生存率と強い殺菌力を示しました。

特に、朝の活動初期に感染させた場合、免疫応答がピークに達していたのです。

この現象の裏にあるのが、時計遺伝子「Per2(パー・ツー)」の働きでした。

Per2は、概日リズム(サーカディアンリズム)を調整する重要な因子で、昼間にその発現量が高まります。

研究チームがこの遺伝子を欠損させた変異体では、たとえ昼間に感染しても免疫反応が弱くなり、生存率も大幅に低下しました。

さらに興味深いことに、Per2を好中球だけに復活させたところ、ふたたび殺菌能力が高まり、生存率も改善されたのです。

つまり、光によってPer2が活性化され、それが好中球に昼間であることを「知らせるスイッチ」の役割を果たしていると考えられます。

光を浴びることは、免疫にとっての「目覚まし時計」

では、Per2はどのようにして好中球の殺菌能力を強化しているのでしょうか?

研究では、好中球が細菌を殺すために利用する「活性酸素種(ROS)」の産生能力を測定しました。

その結果、Per2が欠損した細胞では、ROSの生成量が通常の1/8以下に低下していました。

さらに、好中球の中でPer2が免疫活性遺伝子「hmgb1a」の発現を促進することも判明しました。

この遺伝子は、感染時に細菌の標的となる分子パターンを認識し、免疫反応を高める働きを持っています。

驚くべきことに、このhmgb1aのプロモーター領域(=遺伝子の発現を制御するDNAの領域)には、「BMAL1」と「NF-κB」という2つの転写因子の結合部位があり、光によってそれらが協調して働くことが明らかになったのです。

これにより、光が差す時間帯にだけhmgb1aの発現が高まり、好中球の攻撃力が最大化されるという、まさに光と免疫が直結したメカニズムが浮かび上がりました。

画像
Credit: canva

さらに研究は続き、Per2のパートナーである「Cry1a」という別の時計遺伝子が、なんと逆に免疫を抑制する方向に働いていることも明らかにされました。

Cry1aを欠損させた魚では、好中球の殺菌能力が著しく上昇し、hmgb1aの発現も大幅に増加。

つまり、Per2が免疫を促進し、Cry1aがブレーキをかける――この二者のバランスが免疫リズムの鍵を握っていたのです。

この研究は、日光がただ単に体内時計を整えるだけでなく、免疫システムそのものを「日中モード」に切り替える役割を持っていることを実証しました。

好中球の中に内蔵された光感受性の時計が、昼間になると殺菌遺伝子のスイッチを入れ、体を感染から守る態勢を整える――それはまるで、私たちの細胞ひとつひとつに目覚まし時計が備わっているかのようです。

これからの研究では、人間の免疫細胞でも同様のしくみが働いているかどうかが検証される予定です。

もしかすると将来、免疫力を高める「光療法」や、時計遺伝子をターゲットにした新たな薬が登場するかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Exposure to Daylight Boosts The Immune System, Study Suggests
https://www.sciencealert.com/exposure-to-daylight-boosts-the-immune-system-study-suggests

Daytime boosts immunity, scientists find
https://www.eurekalert.org/news-releases/1084686

元論文

A light-regulated circadian timer optimizes neutrophil bactericidal activity to boost daytime immunity
https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.adn3080

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.