フードデリバリーの配達員は、1件1件注文を受け取り、時間通りに届けて報酬を得ます。
そういう地道な仕事をコツコツと積み重ねるのです。
しかし、そんな真面目な労働の裏側で、驚くべき手口によって数億円を騙し取った男が現れました。
元配達員の彼は米フードデリバリー大手のDoorDashから、約250万ドル(約3億5千万円)を不正に取得していたのです。
2025年5月13日、アメリカ合衆国司法省はこの事件の詳細を明かし、彼が有罪を認めたことを発表しました。
目次
- フードデリバリーとはどんな仕事か?その裏で起きた異常な”報酬”とは?
- 配達していないのに報酬が? 3億5600万円を騙し取った驚きの手法とは?
フードデリバリーとはどんな仕事か?その裏で起きた異常な”報酬”とは?
近年、アプリを通じて注文された料理を自宅まで届ける「フードデリバリー」業が、世界中で急成長を遂げています。
注文者と飲食店、配達員をつなぐプラットフォームとして、DoorDashやUber Eatsといった企業がその中核を担っています。
配達員は独立した個人事業主として登録され、アプリに表示される注文を受け取り、飲食店で商品をピックアップして依頼主に届けます。

1件ごとの報酬は決して高くはありませんが、件数をこなすことで収入が積み上がっていく仕組みです。
もちろん、雨や雪の中でも配達する必要があり、決して楽な仕事とは言えません。
このドライバーの誠実な行動を前提としたこのシステムにおいて、DoorDashの元配達員は、不正なアプローチで巨額の利益を得ました。
その配達員とは、サイー・チャイタニヤ・レッディ・デヴァギリ(Sayee Chaitanya Reddy Devagiri)という30歳の男性です。
なんと彼は共犯者3人と共に、実際には誰にも料理を届けることなく、巨額の報酬を得ていました。
しかも合計250万ドル(約3億5600万円)もの報酬をDoorDashから不正に獲得していたといいます。
まるで都市伝説のような話ですが、これはれっきとした事実です。
では、いったい彼はどうやってこの不正を成し遂げたのでしょうか?
配達していないのに報酬が? 3億5600万円を騙し取った驚きの手法とは?
DoorDashのシステムでは、配達員が注文を受け、配達を完了すれば報酬が発生します。
その構造を利用したのが、犯人の手口でした。
彼はまず、偽の顧客アカウントを作成。架空の高額な注文を行いました。
そして、DoorDash従業員の承認情報を使用し、自分自身が作成した配達員のアカウントに手動でその高額注文を割り当てたのです。

その後、彼らはその注文を「配達完了」と報告。配達料を受け取っていました。
もちろん、実際に料理を注文した顧客も、届け先も存在しません。
すべてが架空の構造の中で、システム上”注文”と”配達完了”が成立していたのです。
そして、このプロセスを繰り返すことで、犯人は架空の配達履歴を残し、それに応じた報酬を着実に獲得していきました。
このようなシステム上の処理が何度も繰り返された結果、犯人たちは最終的に約3億5600万円以上にもなる巨額の配達料を受け取ることに成功しました。
ところが、こうした犯罪を隠し通すことは難しかったようです。
FBIの操作の結果、犯人は、2024年8月に通信詐欺罪(wire fraud)で起訴され、2025年5月13日にはその罪を認めました。
彼らには、最長20年の禁錮刑および最大25万ドル(3560万円)の罰金が課される可能性があります。

今回の事件は、配達員制度が悪用されるとどうなるかを如実に示しています。
技術が日々進化する中、ビジネスモデルも常に更新され、最適化されていきます。
しかしその変化のスピードは、時に犯罪者にとって好都合な”隙”にもなり得るのです。
私たちもまた、便利なサービスの裏にある仕組みを正しく理解し、不審な挙動や情報には敏感である必要があります。
テクノロジーの恩恵を享受しながらも、それに巻き込まれない”注意深さ”が求められる時代なのです。
参考文献
Former Delivery Driver Pleads Guilty To Defrauding San Francisco Food Delivery Company Of More Than $2.5 Million
https://www.justice.gov/usao-ndca/pr/former-delivery-driver-pleads-guilty-defrauding-san-francisco-food-delivery-company
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部