体育の時間、身長順に並んだとき「背が高い子は勉強もできそう」と感じたことはありませんか。
背が高いというのは1つのステータスのように扱われがちですが、実際背の高い人は頼もしく見えたり、勉強ができそうに見られることが多くあります。
そんな日常の印象をデータから検証しようと、米国シラキュース大学(Syracuse University)の経済学者ステファニー・コフィー(Stephanie Coffey)氏らは、ニューヨーク市の公立校に通う約50万人の小中学生を対象に“身長と学力”の関係を徹底調査しました。
10 年近くにわたって毎年測定された身長データと標準テスト(英語と算数)の成績を突き合わせたところ――「わずかながら背の高い子ほどテスト結果が良い」ことが見えてきたのです。
その“差”はどれほどで、なぜ生まれるのでしょうか。
この研究の詳細は、2025年5月に科学雑誌『Economics &Human Biology』に掲載されました。
目次
- 背が高い方が有能?経済学の「身長プレミアム」
- 背が高いと成績も少し高い
背が高い方が有能?経済学の「身長プレミアム」

背の高い大人は、平均して高い賃金を得たり、管理職に就く割合が高かったりする。
このような傾向はアジア圏ではあまり報告されませんが、特に欧米において顕著な傾向が見られており、「身長プレミアム」と呼ばれる現象として、経済学や社会科学で古くから知られてきました。
しかし、これがいつ、どこで生まれるのかはよく分かっていませんでした。
今回の研究は、「すでに学齢期の成績に小さな差が出ているのではないか」という仮説からスタートしました。
ニューヨーク市では、全校共通で標準化された英語(米国においての国語)と算数の学力テストが毎年実施されると同時に、児童の身長・体重測定(Fitnessgram)も行われています。
研究チームはここに注目し、身長の測り方を三通りに整理しました。
第一に、同じ学年・同じ学校・同性の平均からどれだけ高いかを示す「学年内身長偏差(Zスコア)」。
第二に、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の成長曲線に基づく「年齢別偏差」。
第三に、クラスでの背の順番を百分位ランクで表した指標です。
一方、学力テストの結果も標準化され、学年ごとの平均点をゼロ、標準偏差を1とすることで、学年間や科目間で比較しやすくしました。
もちろん、身長と成績の関係を見るだけでは十分ではありません。
ただ単純に比較しても、貧困率や家庭で英語を話す傾向など、背景要因が入り混じってしまい、もっとも影響を比較したい身長の影響が隠れてしまいます。
そのため研究者たちは、家庭の経済状況、家庭内言語、障がいの有無、誕生月(学年内での年齢差)など十数項目を統計モデルに投入し、それぞれの影響をできるだけ取り除きました。
さらに、同じ子どもを何年にもわたって追跡する「パネルデータ」の強みを生かし、子ども固有の「持って生まれた資質」、たとえば幼児期の栄養状態や家庭環境の違いを固定効果として差し引きました。
これにより、「その年に背が伸びた子は、成績も伸びたのか?」という視点から、より純粋な影響を見ることができたのです。
ではこの研究の結果はどうなったのでしょうか?
背が高いと成績も少し高い

細かい調整をすべて加えたうえでも、背が高い子どもはわずかに高い学力テストのスコアを記録していました。
具体的には、学年内平均より約7センチ高い子ども(1標準偏差上)で、英語のスコアが平均して0.04〜0.06標準偏差、算数で0.03〜0.05標準偏差高かったのです。
標準偏差と言われてもわかりにくいですが、これはイメージするならクラス(30人規模)での順位が1〜2番ほど上がることに相当します。
また、最も背の高い2.5%と最も低い2.5%を比べると、英語ではおよそ0.2標準偏差、つまりクラス順位にして2~3番の違いが生じていました。
また、健康状態(肥満の有無や学校の欠席率など)や「生まれ持った背景」(家庭環境や遺伝的要素)の影響を排除すると、順位差は縮まりましたが、それでも背が高い子どもにわずかな学力上昇が残るという結果は変わりませんでした。
特に興味深いのは、絶対的な身長だけでなく、「クラス内でどれくらい背が高い位置にいるか」という相対的位置も、特に英語のスコアに独立した効果を持っていました。
同じ背丈だったとしても、そのクラス内の背丈の順位が一番高い子は、一番低い子に比べ、英語でスコアが高かった(最大0.05標準偏差)のです。
これは、教師からの期待や周囲の扱われ方が微妙に違うことが、子ども自身の自己評価や学び方に影響を及ぼしている可能性を示唆しています。
もっとも、算数ではこの影響は見られず、またその差も決して劇的ではありません。
では、この結果は、子どもの将来にどの程度の影響を与えるのでしょうか。
別の大規模研究では、小中学生の標準テストスコアが1標準偏差上がると、将来の収入が約12%増えると推計されています。
今回の「背の高さ効果」はそこから見れば、たった0.6%程度の収入差にとどまります。
そのため、今回の結果からは、身長プレミアムの効果が子供時代の身長差と学力の影響から生じているとは、言えないかもしれません。
しかし、今回の研究は非常に大規模なデータを検証しており、そこには僅かな差であるとは言え、一貫して身長が高いほど成績順位が上がる傾向を示しているというのが興味深い点です。
また、この研究が示した身長の絶対値ではなく特定集団内での身長順位(相対的身長順位)が一部の科目で成績順位に影響していたという結果は、「身長で社会的にどう見られるか」がパフォーマンスに影響している可能性を示しています。
アジア圏では、身長プレミアムがあまり見られず、欧米でこの効果が顕著な理由もここにあるのかもしれません。
参考文献
Taller students tend to perform slightly better in school, new research finds
https://www.psypost.org/taller-students-tend-to-perform-slightly-better-in-school-new-research-finds/
元論文
Towering Intellects? Sizing up the relationship between height and academic success
https://doi.org/10.1016/j.ehb.2025.101488
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部