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世界で最も研究されている「雑草」で驚くべき発見


シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、実験植物として世界で最も研究されている雑草であり、名古屋大学の研究により「種子サイズを左右するゲート」が発見されました。このゲートは、受精の成功により栄養が種子に効率よく運ばれるメカニズムとして働きます。研究は、カロースという成分が受精成功時に分解され、養分の流入を促進する構造であることを示しました。この発見は、他の作物の種子サイズ制御にも応用可能で、農業革新に貢献すると期待されています。

地面すれすれに咲く小さな雑草、シロイヌナズナ。

ぱっと見は何の変哲もないその植物が、「世界で最も研究されている植物」と言われていることをご存じでしょうか。

実は、遺伝子解析から宇宙ステーションでの実験まで、その短いライフサイクルと扱いやすさを武器に、驚くほど多くの研究に貢献してきました。

名古屋大学生命工学研究センターで行われた研究により、そのシロイヌナズナで今回、新たに「種子サイズを左右するゲート」が発見されたのです。

果たしてこの仕組みは、私たちの食卓を支える作物にも大きなインパクトを与えるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年4月7日に『Current Biology』にて発表されました。

目次

  • なぜ“世界一研究される雑草”なのか?
  • 種子サイズを支配する仕組みを発見! 農業革新への一歩

なぜ“世界一研究される雑草”なのか?

なぜ“世界一研究される雑草”なのか?
なぜ“世界一研究される雑草”なのか? / Credit:Canva

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、小さな葉と白い花を咲かせる、どこにでも生えていそうな雑草です。

ところが、動物実験の世界で「マウス」がエースとされるように、植物実験の世界では「シロイヌナズナ」がエースとなっています。

世界中の研究者が、この小さな雑草を使って遺伝子の働きや植物の発生のしくみを深く探究してきました。

その理由は、シロイヌナズナのゲノム(遺伝情報)がコンパクトで解析しやすく、種子ができるまでのライフサイクルがわずか数週間しかかからないからです。

また、背丈もあまり高くならず、実験室のスペースを大きく取らないため、大量に育てて突然変異体を集中的に調べることが可能なのです。

今現在も宇宙ステーションでの生育実験や、新しい遺伝子を導入してその働きを確かめる研究など、実に幅広い分野で活躍してきました。

中には、“謎の花の形”をした突然変異体を観察したり、地上と宇宙で育てた場合の違いを調べたりと、まるで植物界のショウジョウバエのような使われ方もされています。

一方、農業や食料生産を考えるうえで欠かせないのが「種子」。

作物の収量や品質は、種子の大きさに大きく左右されることがあります。

実際、「どうすれば大きく健康な種子を作ることができるか」は、作物育種にとって永遠の課題といえるでしょう。

植物の種子は花粉が受粉し、胚珠(種になる部分)の細胞が受精して初めて育ち始めますが、受精が失敗したときに種子が全く育たなかったり、うまく受精していてもなぜそこまで大きさに差が出るのかについては、まだはっきりとわかっていない部分が多く残されていました。

これまでにも、「あるアミノ酸を運ぶ遺伝子がうまく働かないと、種子が小さくなる」といった個別の例は見つかっています。

けれど、植物が必要とする栄養素はアミノ酸だけではありません。

砂糖、ミネラル、水など様々な物質がバランスよく運ばれてこそ、種子は大きく育ちます。

そこで研究者たちの頭に浮かんだのが、「そもそも種子に入ってくる栄養の“入り口”自体を植物はどう開閉しているのか?」という疑問でした。

まるで高速道路の料金所のように、何らかの“ゲート”があって、受精が成功したときにだけ栄養をドッと流す仕組みがあるのではないか――そんな仮説が提唱されたのです。

シロイヌナズナは育成サイクルが速いだけでなく、受粉から受精、さらに種子ができ始める初期段階を顕微鏡で観察しやすいという特性があります。

NASAの実験では、重力がほとんどない宇宙空間でも受粉から種子形成まで本当に進むのかをテストし、「地球上より少し特殊な環境でも種子の成長を観察できる」という大きな利点が確認されています。

しかし、仮に“ゲート”らしきものが存在したとしても、それが具体的にどこにあり、どうやって開閉しているのかは未解明のままでした。

そこで今回研究者たちは、シロイヌナズナを使って「受精が成功した場合と失敗した場合、それぞれで栄養の流れや種子の成長がどう変化するのか」を丹念に調べ、ゲートの存在とそのメカニズムを明らかにすることにしたのです。

研究の舞台は地味な雑草にも見えますが、シロイヌナズナだからこそわかることがまだまだたくさんあります。

研究者たちは一体、どんな方法を使ってこの“大事な料金所”の秘密を暴いたのでしょうか。

種子サイズを支配する仕組みを発見! 農業革新への一歩

種子サイズを支配する仕組みを発見! 農業革新への一歩
種子サイズを支配する仕組みを発見! 農業革新への一歩 / Credit:Canva

研究者たちは、まずシロイヌナズナが「きちんと受精した場合」と「受精がうまくいかなかった場合」で、種子のもとになる胚珠がどう変化するかを丁寧に比べました。

イメージとしては、受精した場合には「玄関のドアが大きく開いて、養分をどんどん運び込める状態」になるのに対し、失敗すると「ドアに頑丈なカギがかかってしまい、必要な栄養が届かない」という違いが出るのです。

この“ドア”を詳しく見てみると、カロースという成分が立体的なフタのように存在し、受精が成功すると分解されて姿を消します。

一方、受精失敗ではそのフタがそのまま残ることがわかりました。

また面白いのは、カロースを分解する酵素(論文ではAtBG_ppapと呼ばれています)の働きを弱めると、受精後でもフタが開き切らず、種子が小さくなってしまうこと。

一方、この酵素をフル稼働させると、ドアが開きっぱなしになり、種子がどんどん大きくなるという結果が得られました。

つまり、シロイヌナズナの胚珠には「養分を出入りさせる仕組み」があって、受精が成功すると一気に“ウェルカム状態”になるわけです。

なぜこの発見が革新的かというと、「受粉さえ成功すれば自然と栄養が届く」と思われていたところに、“物理的なゲート構造”と“それを制御する遺伝子”の存在が明確に示されたからです。

また、イネをはじめとする他の作物でも同様の“ゲート”がある可能性が示唆されており、この仕組みを利用して種子の大きさを調整できるかもしれません。

ゲート開閉の働きをより詳細に追究すれば、「そもそも植物がどのように“受精完了”を検知しているのか」という根本的な謎にも迫ることができそうです。

今回の研究は、地味な雑草に見えるシロイヌナズナが、実はきわめて効率的な資源配分戦略を持っていることを示し、それを応用すれば持続可能な農業や次世代の食料生産技術にも貢献できるかもしれないという明るい展望を与えてくれました。

言い換えれば、「受精」というイベントを合図に、植物がどのように玄関のドアを開け閉めし、貴重な栄養を届けているのかを初めて具体的に捉えたともいえます。

今後ゲートの構造をさらに細かく調べることで、私たちの暮らしを支える食卓の姿が大きく変わる可能性もありそうです。

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元論文

Fertilization-dependent phloem end gate regulates seed size
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.03.033

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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