みなさんは「美は手に入れられるもの」と考えるでしょうか、それとも「美は生まれつきのもので、努力ではどうしようもない」と考えるでしょうか?
実はこの「美」への考え方がリスク行動と大いに関係していることが明らかになりました。
ポルトガル・ノヴァ経済経営大学(NOVA School of Business and Economics)の最新研究で、「美は努力次第で手に入れられる」「自分はもっと美しくなれる」と考える人は、リスク行動を積極的に取りやすいことが示されたのです。
一体なぜでしょうか?
研究の詳細は2025年4月2日付で学術誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されています。
目次
- 「美しさは手に入る」と考える人ほど、身を危険に晒しやすい
- なぜリスク行動を取りやすいのか?
「美しさは手に入る」と考える人ほど、身を危険に晒しやすい
今や、美への欲求が私たちの生活に与える広範な影響を認めないわけにはいきません。
2023年時点で、美容コンテンツは音楽とライフスタイルに次いで、Instagramにおける世界のインフルエンサーたちの中で3番目に人気のあるカテゴリーとなっています。
こうした背景から、化粧品産業は世界中で成長を続けており、美容整形やスキンケアといった「美しくなるための努力」は、ごく一般的な選択肢になっています。
これほど多くの美容法が身近にある今、ふと立ち止まって考えることはないでしょうか?
それは「見た目の美しさは本当に努力で高められるものなのか? それとも美しさは生まれつきのものであり、努力ではどうしようもないのか?」という問題です。
この問いに対する考え方は人それぞれでしょう。
「見た目のよさは生まれつき決まっており、どれだけ美容を頑張っても限界がある」と考える人もいますし、反対に「整形や化粧の仕方で美しさはどうにでもなる。自分は今よりもっと美しくなれる」と考える人もいます。
別に、どちらが正しくて、どちらが間違っていると決めることが重要なのではありません。
そうではなく、研究チームは今回、「見た目の美しさ」に対する考え方がリスク行動とどのように関係しているかに焦点を当てました。

チームは4000人以上の参加者を対象に実験を実施。
美に対する信念とリスク行動傾向との関連を調べた結果、興味深いことに、「美しさは手に入れられる」と強く信じている人は、「美しさは変えられない」と考える人よりも、ギャンブルや危険行動を含むリスク行動を取りやすいことが明らかになったのです。
たとえば、意思決定のシナリオでは、「200ドルを得られる確率80%、何も得られない確率20%」という選択肢よりも、「800ドルを得られる確率20%、何も得られない確率80%」という選択肢を好む傾向が見られました。
これは経済的リスク選好の一例です。
また、危険な登山道に挑戦したり、やや危険なスキーコースを滑ったりする可能性も高くなるなど、身体的リスクに対しても積極的になる傾向が確認されました。
では、なぜ「美しさは手に入れられる」と考える人は、リスク行動を取りやすいのでしょうか?
なぜリスク行動を取りやすいのか?

チームは調査結果の分析から、リスクをとる行動が増える背景には「楽観主義の高まり」があることを観察しました。
具体的には、「美しさは努力で高められる」と信じる人はそもそも、「人生におけるどんな難題も努力次第で良い結果が得られるはずだ」と考える傾向にありました。
つまり、物事をポジティブに考える性質を持っていたので、身体的・経済的にリスクのある行動も「なんとかなる」と考えて、積極的に危険に身を晒していたと考えられるのです。
実際に、美容整形といった外科手術も少なからず常にリスクがあります。
しかし「自分は今よりもっと美しくなれる」と信じている人たちは、良い結果を期待してリスク行動を取れるのだと考えられます。
今回の研究は、「美しさは変えられる」という信念が、単に美容へのモチベーションを高めるだけでなく、人生全般への姿勢や意思決定にまで影響を及ぼしていることを示しています。
その一方で、過度なリスクテイク行動や楽観主義が、危険な事故や怪我を負うリスクを高めることは確かです。
人生においてリスクを取ることは大事ですが、身の破滅に繋がらない、程よいバランスを見極めることも大切でしょう。
参考文献
Belief in the malleability of beauty makes people take more risks, study finds
https://phys.org/news/2025-04-belief-malleability-beauty-people.html
元論文
The Growth Mindset of Beauty Promotes Risk-Taking Propensity and Behavior
https://doi.org/10.1177/01461672251327605
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部