止まらぬ日本の人口減少。
日本の人口は2011年以降ずっと減り続けており、このままのペースでいくと、2055年を超えるころには総人口が1億人を下回ると予測されています。
では、人口が減り続けると日本の景観はどのように変わるのでしょうか?
名古屋大学、長崎大学らの共同研究チームはこのほど、2100年までの日本の人口や世帯数、そして住宅地の広さまでを詳細にシミュレーションしました。
さて、2100年の日本の未来はどうなるのでしょう?
研究の詳細は2024年7月8日付で日本の学術誌『土木学会論文集』に掲載されています。
目次
- 未来を描く地図帳、日本人の暮らしはどう変わる?
- 2100年の日本の景観はどうなってる?
未来を描く地図帳、日本人の暮らしはどう変わる?
2100年、日本の風景は今とどれだけ変わっているのでしょうか?
高層ビルが立ち並ぶスマート都市? それとも、誰も住まない空き家だらけの静かな町?
そんな疑問に答えてくれるのが、今回の研究です。
気候変動はもちろん重要な問題ですが、それと同じくらい深刻なのが日本の人口減少と高齢化です。
現在、日本では急速な少子高齢化が進行中で、すでに多くの地域で空き家問題が顕在化しています。
国土交通省の調査によれば、2018年時点で全国の住宅の13.6%、実に約849万戸が空き家とされています。
では、もしこの流れが続いたら、日本はどんな姿になるのでしょう?

これまで、将来の社会構造を予測する際には、世界規模の「共有社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways, SSPs)」が使われてきました。
これを日本に特化してダウンスケールしたのが「日本版SSPs(Japan SSPs)」です。
今回の研究は、このJapan SSPsの改良版とも言えるもので、これまでの推定方法の弱点を乗り越えるために開発されました。
研究者たちは、世帯構成や空き家の推移も加味した現実的な推定を行い、日本全体を1km四方の地図に分割して、未来の家族構成と住宅需要を描き出したのです。
では、それに従うと、2100年の日本の未来はどうなっていたのでしょうか?
2100年の日本の景観はどうなってる?
研究の中心となったのは、2015年から2100年までの世帯数と建物用地面積の将来予測です。
人口の変化に加えて、男女別・年齢5歳階級別・家族類型別といった詳細な社会構成要素を使って、5年ごとに世帯数の推定が行われました。
その結果、2100年には総世帯数は2015年の約0.35〜0.68倍にまで減少する見込みであることがわかりました。
これは人口減少と世帯主率の低下が主な要因です。
一方で、特筆すべきは「85歳以上の単身世帯」が今後急増することです。2100年には最大で約190万世帯と、2015年と比べて約1.9倍になると推定されました。
そして、この人口・世帯数の減少に伴い、住宅が余ってしまう状況が深刻化します。
研究によれば、2100年には全国で空き戸数が最大で約4300万戸になる可能性があるとされています。 これは2015年比で約4.2倍に相当します。

住宅用の建物用地面積も縮小し、2100年には約3600〜5700平方キロメートルと、2015年比で最大約0.42倍まで減少するという推計結果が出ました。
つまり、住む人がいないのに建物だけが残るという未来が、日本各地で現実になっていくかもしれないのです。
こうした空き家の増加は、単に建物が無駄になるだけでなく、景観の悪化、防災面でのリスク、そして地域コミュニティの崩壊など、さまざまな社会的問題を引き起こすおそれがあります。
今回の研究は、こうした未来をただ悲観的に語るものではありません。
むしろ、それをあらかじめ可視化し、対策の方向性を検討するための「未来の地図帳」を提供する試みといえるのです。
2100年の日本は、今の私たちの選択次第で大きく変わります。
空き家があふれる未来は、避けられない結末ではありません。
それはむしろ、「今」から考え、「今」から備えることで回避できる未来なのだといえるでしょう。
参考文献
~2100年の将来像を提示~ 日本における気候変動影響評価のための日本版SSPsに付随した社会経済シナリオデータを開発
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/03/2100-ssps.html
元論文
日本版SSPsに付随したデータ開発のための用途別建物用地面積の将来推計
https://doi.org/10.2208/jscejj.24-27049
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部