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「重力がエントロピー起源」であることを示す革命的理論が発表


ロンドン大学での最新研究により、重力がエントロピーに起因するという革新的な理論が提唱されました。エントロピーとは、コーヒーとミルクが混ざるように物質が元に戻りにくくなる性質を指します。この研究は、時空の曲がりだけでなく、物質の状態が持つ情報的な側面(量子相対エントロピー)も重力の起源として考慮すべきだと示唆します。理論によると、時空の計量と物質の計量のズレが重力を生み出す可能性があり、ブラックホールや宇宙の膨張と関連するかもしれません。こうした視点は、重力の解釈を情報理論的に再定義する新たな道を開く可能性があります。

「そもそも重力って、なぜあるんだろう?」――そんな疑問を抱いたことはありませんか。

リンゴが木から落ちる瞬間を見てニュートンが“万有引力”を思いついたように、私たちの身の回りには重力が常に働いています。

しかし、ブラックホールの熱的な性質や量子情報理論との関わりが指摘されるにつれ、「引き寄せる力」という単純なイメージを超えた奥深い仕組みがあるかもしれないと考えられてきました。

今回イギリスのロンドン大学(University of London)で行われた研究によって、重力がエントロピー起源であるとする革命的な理論が提唱されました。

エントロピーは私たちの身近な例でいうと、コーヒーをかき混ぜているうちにミルクと混ざり合って元の状態には戻りにくくなる、あの“乱雑さ”や“不可逆”の度合いに似た概念です。

このエントロピーが、なんと重力の根源と結びつく可能性があるというのです。

論文著者のビアンコに氏は「この研究は、量子重力がエントロピー起源であることを提唱し、重力場が暗黒物質の候補となる可能性を示唆しています」と述べています。

さらに研究者たちは「時空の曲がり具合」を表す計量(メトリック)と、「物質自体が持つ曲がり」を表す別の計量を用意し、両者の量子相対エントロピーこそが重力を生むと提案しました。

これは単に重い物体があれば時空が歪んで重力が生まれるとする、時空一辺倒な既存の解釈の仕方とは大きく異なり、重力も時空と物質の相対的な関係性(量子相対エントロピー)によって決まる可能性を示しています。

研究内容の詳細は2025年3月3日に『Physical Review D』にて発表されました。

目次

  • 重力の捉え方が変化してきている
  • 重力がエントロピーから発生する理由
  • エントロピーが映し出す量子重力への道
  • エントロピー重力が映し出す未来――G場の暗黒物質説と量子重力への道

重力の捉え方が変化してきている

重力の捉え方が変化してきている
重力の捉え方が変化してきている / Credit:Canva

重力を「空間と時間の曲がり」と考えるのは、ニュートン力学から一大飛躍を遂げたアインシュタイン以来の見方です。

一方、ブラックホールが持つエントロピーや、そこから放出されるホーキング放射が明らかになると、重力と“情報”や“熱”的な概念との奇妙な結びつきが注目を浴びてきました。

ブラックホールの表面積がエントロピーと関係すると言われるように、どうやら見た目の「曲がり」だけでは片づけられない深い構造が隠れているらしいのです。

つまり

従来:空間の曲がりとして重力を解釈してきた

近年:情報や熱的な概念などエントロピーから重力を解釈する

と変化してきたのです。

とはいえ、アインシュタインが提示した「時空の曲がりが重力を生み出す」という考え方自体を否定しているわけではありません。

「重力の背後にある仕組みとして、エントロピーや量子情報の概念が深く関わっている可能性がある」という見方が近年いっそう注目されている、という状況です。

たとえばブラックホールの“表面積”に比例するとされるエントロピーは、量子情報理論との関わりを強く示唆し、実際にホログラフィック原理を通じて、ブラックホール内部の重力現象を境界の量子系で記述する枠組みも提案されています。

量子情報理論には、私たちが通常の生活であまり触れない考え方がたくさんあります。

その一つが「量子相対エントロピー」という指標で、量子状態の違いを測る“距離”のようなものです。

これまで、この概念は量子ビットの世界やブラックホールの情報パラドックスなどに使われてきましたが、「そもそも時空そのものを“量子の状態”みたいに扱えないか?」という大胆な発想が浮上しています。

重力がエントロピーから発生する理由

重力がエントロピーから発生する理由
重力がエントロピーから発生する理由 / Credit:Canva

今回の研究は、この視点をさらに推し進め、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」が量子相対エントロピーのように関係すると考えたのが特徴です。

たとえば量子相対エントロピーとは、ふたつの量子状態(密度行列)がどれくらい異なっているかを“エントロピー的な距離”として測る指標です。

今回の研究では、まるで「時空自体がひとつの量子状態」であるかのようにとらえて、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」をそれぞれ独立した量子状態のように扱っています。

そして「時空と物質がそれぞれもつ“曲がり具合(計量)”の差異」を量子相対エントロピーで表しています。

イメージとしては、空間の曲がり方を示す“時空の計量”と、物質がつくり出す“もう一つの計量”が、似たかたちをしていれば差は小さく、その分「重力(曲率)」を引き起こす要因も小さくなる。

一方、両者のかたちが大きくズレていれば、それを埋め合わせるように空間が歪み、結果としてより強い重力として観測される可能性が高まる、という考え方です。

(※「エントロピーが大きいか小さいか」という絶対的な値そのものよりも、「両者(時空と物質の計量)のずれがどれだけ大きいか」が重要になりますので、たとえ“時空側のエントロピーがとてつもなく大きい”としても、物質側の計量とほぼ同じ形(=相対エントロピーが小さい)であれば、重力が強く出現するわけではありません。あくまで“エントロピー的な差(量子相対エントロピー)”が鍵であって、その差を大きく生み出すのが「時空と物質の計量のミスマッチ度合い」だと捉えるのが、この理論の特徴です。)

このふたつの計量が近ければ“違い”はほとんどないが、大きく食い違うほど相対エントロピーが増大し、結果的にそれが重力の強さや時空の曲がり具合に影響を与える――というのが直観的なイメージです。

たとえるなら、度数の異なるメガネを二重にかけたときに見える風景のズレを数値化するようなもので、“ズレ”が大きいほど世界の見え方が歪み、その“歪み”こそが重力として現れるわけです。

エントロピーが映し出す量子重力への道

エントロピーが映し出す量子重力への道
エントロピーが映し出す量子重力への道 / Credit:Canva

今回の研究では、「トポロジカル場」と呼ばれる一風変わった物質場が重要な役割を果たします。

高校レベルの物理では主に、たとえば温度のように“数値”だけで表されるスカラー場や、風のように“向きと大きさ”を持つベクトル場が登場するが、この理論ではそれより次元が一つ上の2形式――「面積」や「表面の向き」などを表す概念――もあわせて扱います。

こうすることで、“スカラー”“ベクトル”“2形式”といった複数の状態を一度に眺めることができ、空間のゆがみ方や広がり方をより多面的に記述できるようになるのです。

次に、先ほどから述べているように、時空と物質の曲がり方の違いをエントロピーの差として計算します。

ふつうの一般相対性理論では、時空の曲がりを表す計量は一種類だけでです。

しかし本研究では、“物質そのものが勝手に描く曲がり”という別の計量を導入し、これと時空本来の計量とのズレをエントロピーのような指標で測っています。

そうすると、両者の差異が「重力」という形で現れる可能性が見えてくるのです。

しかも研究者たちは、G場と呼ばれる「補助的な場」を導入して、この“二つの計量の食い違い”をうまく調整できるようにしました。

たとえるなら、二つのばねを繋いで揺れを抑えるショックアブソーバーのような役割を持つといえるでしょう。

これによって、重力の方程式が高次の微分(複雑な揺れを生みやすい項目)を含まず、理論全体が不安定にならないというメリットも得られました。

実際にコンピュータ上でシミュレーションすると、理論の予測とよく符合することが示唆されました。

普通の状況、つまりエネルギーや曲率が小さい領域では、二つの計量がほぼ同じ形を保つため相対エントロピーは小さく、結果として一般相対性理論と大差ないふるまいに近づきます。

一方、ブラックホール近傍や宇宙初期のような“極端な環境”では、物質場がつくる計量と時空計量に大きなミスマッチが生じやすく、相対エントロピーが増大して強い重力や独特の空間の歪みを生む可能性がより高いと考えられます。

エントロピー的に見ると、この「ズレ」をなんとか“緩和”しようとする作用が働き、それが小さいながら正の宇宙定数という形で現れると主張されています。

エントロピーが高い、つまり乱雑さが増えて安定から外れそうな状態は、例えるなら「部屋が散らかりすぎて、どこに何があるか分からなくなりつつある状況」といえるでしょう。

時空の計量と物質の計量が大きく違えば違うほど、部屋の散らかり具合(乱雑さ)が増していくイメージで、それを“片づけ”ようとする力が重力の方程式の中で“宇宙を押し広げる”効果(正の宇宙定数)として表れるのです。

さらに大切なのは、この“部屋の散らかり具合”を測る指標が「情報的なズレ(量子相対エントロピー)」である点です。

要するに、時空と物質の“違い”が大きいほど乱雑さが増え、その乱雑さを減らそうとする過程が重力として観測されるのではないか――これが「重力はエントロピーから生じる」という主張の根本にある考え方です。

言い換えれば、重力とは単なる“空間の曲がり”ではなく、“時空と物質の情報的なギャップを埋めようとする動き”としても理解できるかもしれません。

まとめると、

1:時空計量と物質の計量の差(量子相対エントロピー)が、重力の規模や挙動を左右する。

2:極端な環境下ではその差が大きくなり、“歪み”=重力を緩和するメカニズムとして宇宙定数が生まれる。

3:この宇宙定数は「エントロピーを通じた時空の押し広げる力」とみなせる。

4:結果として「重力はエントロピーから生じる」という結論を導ける可能性がある。

となるわけです。

エントロピー重力が映し出す未来――G場の暗黒物質説と量子重力への道

エントロピー重力が映し出す未来――G場の暗黒物質説と量子重力への道
エントロピー重力が映し出す未来――G場の暗黒物質説と量子重力への道 / Credit:Canva

今回の理論が示唆する「重力はエントロピーの結果」という考え方は、私たちが宇宙を理解するうえで、これまで当然としていた“空間の曲がり”だけの説明を超えて、空間や時間そのものを“情報”や“不可逆性”の観点で捉え直す必要があるかもしれません。

たとえば、ブラックホールの内部構造や、“外部に何も情報を伝えない謎の塊”という従来のイメージにも新たな光が当たる可能性があります。

情報理論と統計力学の立場から、「ブラックホールのエントロピーは、実は重力を生む要因そのものと深く結びついているのではないか」と考えられるからです。

さらに、この見方は宇宙膨張にも新しい解釈をもたらします。

一般相対性理論で“与えられる”ものとして扱われてきた宇宙定数が、エントロピーの流れの結果として自然に生じる可能性があるとすれば、宇宙がなぜ加速膨張しているのかを、より根源的なレベルで説明できるかもしれません。

G場という補助場が暗黒物質のように振る舞うシナリオも、その延長線上に提案されています。

ただし、これはあくまで一つの仮説であり、観測データや実験を通じてさらに検証が必要でしょう。

もちろん課題は残ります。

フェルミオン(電子など)やゲージ場(電磁気力など)を含めた場合に、エントロピー起源の重力がどのように振る舞うのか、極端な高エネルギー領域でも理論は破綻しないのかなど、理論的にも数学的にも解明すべきことは多くあります。

しかし、もしこのアプローチと観測データがうまく符合すれば、私たちの「空間とは?」「時間とは?」「重力とは?」というイメージそのものが大きく変わるかもしれません。

たとえばブラックホール周辺の現象や、初期宇宙のゆらぎを精密に観測し、そこにエントロピーの痕跡を見いだすことができれば、“重力=エントロピー”という図式が一層説得力を帯びるはずです。

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元論文

Gravity from entropy
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.111.066001?_gl=1*1v36lxu*_ga*NDc0MDg5NTkwLjE3MjAzOTI3NTM.*_ga_ZS5V2B2DR1*MTc0MTU4OTU0Ni45MS4xLjE3NDE1ODk4OTQuMC4wLjEyOTUxOTQ5MDQ.

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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