子供を持つことが女性のメンタルヘルスにどのような影響を与えるのか。
これまで、このテーマについて明確な答えを示した研究は多くありませんでした。
しかし中国・蘇州大学(Soochow University)の最近研究で、子供の出産経験が女性のうつ病リスクを低下させることが明らかになりました。
さらに、うつ病リスクを最も低下させる子供の数は「2人」だったとのことです。
研究の詳細は2025年1月15日付で学術誌『Journal of Affective Disorders』に掲載されています。
目次
- なぜ出産がメンタルヘルスに関係するのか?
- 子供を「2人」出産すると、うつ病リスクが最も下がる?
なぜ出産がメンタルヘルスに関係するのか?

これまでの研究では、子供を持つことが女性の精神的な幸福度にどのように影響するのかについては、意見が分かれていました。
育児は大きなストレス要因であり、特に子供が乳幼児期には睡眠不足や経済的負担が増えることから、うつ病のリスクが高まるとも考えられていました。
その一方で、子供を持つことが社会的なつながりを強め、人生の目的を与えることで、メンタルヘルスを改善する可能性があるとも指摘されていました。
しかし、これらの仮説は断片的な研究によるもので、一貫したデータに基づくものではありませんでした。
また、出産が身体的・ホルモン的に脳へ影響を与える可能性についても、近年の神経科学研究が示唆しています。
例えば、妊娠によって脳の構造が変化し、子供の世話をするための適応が促されることが報告されています。
このような背景の中、今回の研究者たちは、出産がうつ病リスクにどのような影響を与えるのか、より明確にすることを目指しました。
子供を「2人」出産すると、うつ病リスクが最も下がる?
研究チームは今回、イギリスの長期大規模研究「UKバイオバンク」に登録された約5万5700人の女性のデータを分析しました。
対象者は37歳から73歳の間で、出産経験の有無や出産した子供の数、さらに精神疾患の診断歴が記録されていました。
研究者たちは、年齢、収入、学歴、ライフスタイル(喫煙・飲酒・運動習慣)などの影響を排除するため、統計的に調整したうえで解析を行いました。
その結果、子供の出産経験がある女性は、出産経験のない女性に比べて、うつ病や双極性障害のリスクが30%ほど低くなっていることが判明したのです。
さらに統計分析によると、うつ病リスクの低減効果は子供の出産数が「2人」のときに最大化していることがわかりました。
3人以上になると、うつ病リスクの低減効果は明確に低くなることこそないものの、頭打ちになってそれ以上は何人産んでいても上がらなかったといいます。
一部の分析ではリスクがわずかに上昇する傾向も見られました。
それゆえ、2人の子供を持つことが女性にとってはメンタルヘルスを健康に保つのに最適であると、この研究結果は示しています。
これは子育ての負担が一定のレベルを超えると、かえってストレスが増し、メンタルヘルスへの好影響が打ち消される可能性を示唆しています。

また流産や人工妊娠中絶の経験がある女性では、この出産によるメンタルヘルスの保護効果が見られなかったことも興味深い点です。
今回の研究は、子供を持つことが女性のメンタルヘルスに及ぼす影響をデータに基づいて示した貴重な成果となります。
特に「2人の子供を持つことがうつ病予防に最適」という結果は、多くの人にとって興味深い発見でしょう。
もちろん、すべての女性が同じように感じるわけではなく、個人の状況やサポート体制によって結果は変わる可能性があります。
また、この研究は因果関係を証明するものではなく、今後、長期間にわたる追跡研究が必要とされています。
とはいえ、今回の研究は、家族計画を考える上での新たな視点を提供してくれるかもしれません。
参考文献
Study suggests two children may be best for women’s mental health
https://www.psypost.org/study-suggests-two-children-may-be-best-for-womens-mental-health/
元論文
Having two children might be best for women’s mental health: Evidence from UK Biobank
https://doi.org/10.1016/j.jad.2024.10.037
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部