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【100年の謎を解明!】クマノミが宿主イソギンチャクに刺されない理由


沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、クマノミがイソギンチャクと共生できる理由を解明しました。クマノミは、皮膚を覆う粘液中の「シアル酸」が少ないため、イソギンチャクに外敵と見なされず、刺胞による攻撃を受けません。シアル酸は細胞間の認識や信号伝達に関与する分子であり、イソギンチャクの刺胞はシアル酸を検知すると発射されることも判明しました。この研究により、共生が分子レベルの戦略であることが示されました。シアル酸の調整は、他の海洋生物の共生にも関与している可能性があり、新たな医療技術やバイオテクノロジーの開発に寄与する可能性があります。

映画『ファインディング・ニモ』に登場するクマノミは、多くの人にとって馴染み深い魚です。

カラフルな体を持ち、イソギンチャクの触手の間を自由に泳ぐ姿は水族館でもよく見られます。

しかし、なぜクマノミはイソギンチャクの毒針に刺されずに共生できるのでしょうか?

この疑問は100年以上もの間、科学者たちの間で議論されてきました。

そんな中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームがついにその謎を解明したようです。

チームは、クマノミの皮膚を覆う粘液に含まれる「シアル酸」に謎の答えがあることを突き止めました。

研究の詳細は2025年2月15日付で科学雑誌『BMC Biology』に掲載されています。

目次

  • なぜクマノミはイソギンチャクに刺されないのか?
  • イソギンチャクに「外敵」と見なされない秘密があった!

なぜクマノミはイソギンチャクに刺されないのか?

海の中では、捕食と生存競争が日常茶飯事です。

そんな厳しい環境の中、クマノミとイソギンチャクは互いに助け合いながら生きています。

イソギンチャクは、毒を持つ触手を使って外敵から身を守ります。

この毒は「刺胞(しほう)」と呼ばれる小さな細胞から発射され、魚や小さな生物に対して強い神経毒を放ちます。

通常、魚がこの触手に触れると刺胞が作動し、逃げる間もなく麻痺してしまいます。

ところがクマノミはイソギンチャクの触手の間を自由に泳ぎ回ることができます。

この関係は、クマノミが外敵から身を守るためにイソギンチャクの庇護を受ける一方、クマノミがイソギンチャクの外敵を追い払ったり、餌を提供したりすることで成立しています。

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沖縄に生息するクマノミ類(左:トマトアネモネフィッシュ, 右:サドルバックアネモネフィッシュ)/ Credit: OIST –解き明かされた海の謎:クマノミはなぜ宿主イソギンチャクに刺されないのか(2025)

これまで、クマノミが刺胞を回避する方法として、以下の3つの仮説が提唱されていました。

  1. 粘液バリア仮説:クマノミの皮膚を覆う粘液が厚く、刺胞の毒針が届かない
  2. 分子模倣仮説:クマノミの粘液がイソギンチャクの粘液と似た成分を持ち、外敵と認識されない
  3. トリガー回避仮説:クマノミの粘液には、刺胞を発射させる分子が含まれていない

特に3つ目の「トリガー回避仮説」は、近年の研究で有力視されていましたが、明確な証拠はありません。

そこで研究チームは3つ目の仮説を詳しく調査することにしました。

イソギンチャクに「外敵」と見なされない秘密があった!

チームは今回、この「トリガー回避仮説」を検証するために、イソギンチャクと共生できるクマノミと、イソギンチャクとは共生できない他種の魚の皮膚粘液を比較しました。

すると、クマノミの皮膚粘液には「シアル酸」という糖分子が極端に少ないことが判明したのです。

シアル酸は、多くの生物の細胞表面に存在し、細胞同士の認識やシグナル伝達に関わる重要な分子として知られます。

実はこれまでの研究で、イソギンチャクの刺胞はシアル酸を検知すると発射されることが分かっていました。

つまり、シアル酸が少ないクマノミは、イソギンチャクに「敵ではない」と認識され、刺胞が発射されなかったののです。

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クマノミ(オレンジ)はシアル酸がほぼないので刺されない、シアル酸の値が高い魚(青)は外敵とみなされて刺される/ Credit: OIST –解き明かされた海の謎:クマノミはなぜ宿主イソギンチャクに刺されないのか(2025)

さらにチームは興味深い発見もしました。

それはクマノミの発達段階とシアル酸の値との相関関係です。

まだイソギンチャクと共生する準備ができていないクマノミの幼魚は、皮膚のシアル酸が通常値であり、イソギンチャクに近づくと刺されます。

しかしクマノミは変態を経て、特徴的な白い縞模様と鮮やかなオレンジ色の体色を発達させる時期になると、シアル酸の値が低下し、安全にイソギンチャクの中に入れるようになっていたのです。

このメカニズムは、イソギンチャク自身が自己防衛のためにシアル酸を持たないことと一致しており、クマノミがこの仕組みを利用している可能性を示しています。

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シアル酸化合物2種類(Neu5AcとKdn)の値、イソギンチャクとの共生種で低く、非共生種で高い/ Credit: OIST –解き明かされた海の謎:クマノミはなぜ宿主イソギンチャクに刺されないのか(2025)

今回の研究は、クマノミとイソギンチャクの共生関係が単なる物理的な適応ではなく、分子レベルの戦略に基づいていることを明らかにしました。

また、シアル酸の調節が他の生物にも影響を与えている可能性があります。

例えば、クマノミと同じくイソギンチャクと共生するミツボシクロスズメダイも、幼魚の間だけシアル酸レベルを低下させることが分かっています。

これにより、シアル酸の制御が海の生物たちの共生において重要な役割を果たしていることが示唆されました。

今後の研究では、クマノミのシアル酸代謝を制御する遺伝子や、粘液内の細菌との関係をさらに詳しく解析することが期待されています。

もしかすると、この「生物化学的ステルス技術」を応用して、新たな医療技術やバイオテクノロジーの開発につながるかもしれません。

クマノミとイソギンチャクの共生の秘密が解明されたことで、私たちは海の生態系の奥深さを改めて実感することができます。

次に水族館でクマノミを見るときは、その背後に隠された驚くべき科学の物語を思い出してみてください。

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参考文献

解き明かされた海の謎:クマノミはなぜ宿主イソギンチャクに刺されないのか
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/2/15/marine-mystery-solved-how-anemonefish-avoid-stings-their-sea-anemone-hosts

元論文

Anemonefish use sialic acid metabolism as Trojan horse to avoid giant sea anemone stinging
https://doi.org/10.1186/s12915-025-02144-8

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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