夜空を見上げると、数え切れないほどの星々が広がっています。
その中に、私たちと同じように宇宙を見つめる知的生命体がいるのでしょうか?
もし彼らが存在するとしたら、果たしてどこまでの距離から地球文明を認識できるのでしょうか?
2025年2月、SETI(地球外知的生命体探査)研究所とカリフォルニア大学バークレー校の共同研究チームが発表した最新の論文が、この疑問に科学的な答えを与えました。
彼らは、地球から放たれる「技術的痕跡(テクノシグネチャ)」がどの程度の距離まで検出可能かを計算し、驚くべき結論を導き出したのです。
その結果、高度な観測技術を持つ地球外文明ならば、最大12,000光年先から地球の存在を感知できる可能性があることが判明しました。
地球が属する太陽系は銀河中心から約27,000光年の位置にあるため、この事実は天の川銀河の相当広範囲にわたり、人類の技術的活動はすでに“宇宙に漏れ出している”ことになります。
この研究は、地球が無意識のうちに発信している「宇宙への自己紹介」の範囲を明確にした、歴史的な一歩といえるでしょう。
この研究の詳細は、2025年2月に『The Astronomical Journal』に掲載されています。
目次
- 「私たちは見られているのか?」地球文明の信号が届く距離
- 無邪気に宇宙へ信号を漏らすのは危険かもしれない
「私たちは見られているのか?」地球文明の信号が届く距離
地球が発するシグナルの中には、単なる自然現象では説明できないものがいくつかあります。
それが「テクノシグネチャ」と呼ばれる技術的痕跡です。
今回の研究チームは、地球から発せられるさまざまな信号を分析し、その中でも特に有力なものがどのくらい離れた宇宙から検出可能なのか、その距離を計算しました。
例えば、私たちの日常生活の中で当たり前のように飛び交うテレビやラジオの電波。
実はこれらは宇宙空間にも漏れ出しており、外部からの観測対象となる可能性があります。
研究でこうした問題について計算した結果、興味深い事実が浮かび上がってきました。
まず地球の近隣と言える星系はプロキシマ・ケンタウリ(4.24光年)を含む約50星系で、ここから検出できる痕跡が「大気汚染物質」の証拠です。
例えば、フロンガス(CFC)は自然界には存在しない物質であり、遠方からの分光観測でこれが検出されれば、地球には産業文明が存在する証拠となり得ます。
こうしたフロンガスの検出は、4.36光年先からでも可能であることがわかり、プロキシマ・ケンタウリもその範囲に収まります。
また、宇宙通信や科学観測に使われる高出力レーザーの存在も見逃せません。地球は3,000基以上の人工衛星が取り巻いており、NASAのディープスペースネットワーク(DSN)や惑星探査機との通信に使うXバンド電波は、最大65光年先まで届くと計算されました。
これらの光が偶然にも別の文明に検出されれば、地球の存在を知らしめることにつながるかもしれません。
そしてもっとも遠くまで届くと計算されたのが、地球外文明へのメッセージとして意図的に送信された電波信号です。
この中で有名なのが1974年にアレシボ天文台から発信された「アレシボ・メッセージ」です。
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このメッセージの到達距離は12,000光年にも及ぶと考えられており、銀河の中心方向にまで広がっています。
銀河中心方向は、当然多くの星系が集中しているため、この範囲には数十億個の恒星系が含まれており、知的生命体が存在する可能性の高いエリアといえます。
そのためもし宇宙に知的生命が存在するなら、かなり遠くから地球を見つけてもらえるかもしれないのです。
ただ、それは本当に良いことなのでしょうか?
無邪気に宇宙へ信号を漏らすのは危険かもしれない
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この研究が示唆する最大のポイントは、「地球はすでに技術的な灯台として銀河に光を放っている」という事実です。
しかし、それは必ずしも良いことばかりではありません。
かつて理論物理学者スティーヴン・ホーキングは、こうした問題に対して警告を発していました。
彼からすると、地球から他の宇宙に存在する知的生命体の痕跡を発見できないのは、彼らが生存戦略として沈黙を守っているからであり、その理由はむやみにシグナルを発信することは敵対的な文明に発見されるリスクがあるからではないかというのです。
こうした考え方は「暗黒森林仮説(Dark Forest Hypothesis)」とも呼ばれています。
これは森の中で光を放つことは、自らの居場所を潜在的な捕食者に知らせる行為に等しいという考え方です。
ホラー映画で登場人物がライトを振り回しながら「おい、誰かいるのか?」とやっているのを見て、「バカ大人しくしとけよ」と思ったことのある視聴者は多いでしょう。
人類は何が潜んでいるかも分からない暗い宇宙に向けて、大声で叫び続けています。それは愚かなホラー映画の主人公のような行為なのかもしれません。
SETI研究所のソフィア・シェイク博士も、「私たちは無意識のうちに宇宙へ自己紹介を続けている。この情報をどう扱うかは、今後の科学と倫理の課題となる」と指摘しています。
12,000光年先の誰かに地球の信号が届く日
今回の研究により、人類の文明がどこまで遠い宇宙から補足されているかが、定量的に示されました。
とはいえ12,000光年という距離まで地球の信号が届くのは、12,000年後です。
もし宇宙の誰かが、地球を発見してそれに応答してくれたとしても、その応答が届くまでには気の遠くなるような時間がかかるでしょう。
この研究は色々と知的好奇心を刺激する想像を掻き立ててくれます。
もし異星文明が私たちを見つけたら、彼らに何を伝えるべきでしょうか?
宇宙に漂う人類の「技術的痕跡」が、いつの日か異星の知性に嗅ぎ分けられる日が来るのかもしれません。
そして、その瞬間こそ、私たちが“宇宙の孤独”から解放される日となるのかもしれません。
参考文献
Aliens could detect Earth from 12,000 light-years away
https://earthsky.org/space/aliens-detect-earth-from-12000-light-years-away/?mc
Earth detecting Earth
https://www.eurekalert.org/news-releases/1072482
元論文
Earth Detecting Earth: At What Distance Could Earth’s Constellation of Technosignatures Be Detected with Present-day Technology?
http://dx.doi.org/10.3847/1538-3881/ada3c7
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部