目覚めの一杯、リラックスのための一杯、仕事の合間の一杯…。
コーヒーは私たちの生活に深く根付いています。
しかし、コーヒーの淹れ方次第で、その味わいは大きく変わることをご存知でしょうか?
「美味しいコーヒーを淹れるコツは?」と聞かれたら、「豆の鮮度が大事」「抽出温度を適切に」など、経験則に基づいた答えが返ってくることが多いですが、近年、科学的に最適なコーヒーの淹れ方が研究されています。
では、科学が導き出した「最も美味しいコーヒー」とは一体どんなものなのでしょうか?
目次
- 美味しさの鍵は化学反応にあった!
- 科学者が推奨する「究極の淹れ方」
美味しさの鍵は化学反応にあった!
近年、コーヒーの健康効果について様々なポジティブな報告がされています。
苦手という人はともかく、嫌いでないなら習慣として楽しむのはいい選択になるかもしれません。
とはいえ、ただ飲むだけでは楽しくありません。美味しい淹れ方について理解できれば、コーヒーに凝って日常の趣味の1つに加えることができるかもしれません。
コーヒーの美味しさを決めているのは、単純に私たちの舌だけではありません。
香りも重要な要素であり、十分な要素を引き出すためには化学の法則がしっかりと働いています。
コーヒー豆には1000種類以上の化学成分が含まれており、そのバランスが風味を決定しているのです。
例えば、豆を挽くときの粒の大きさひとつで味が大きく変わります。
粉が細かすぎると、成分が過剰に溶け出して苦みが強くなり、逆に粗すぎると、十分に抽出されずに酸味が際立ってしまうのです。

お湯の温度も気にする必要があり、沸騰したお湯を使うと雑味が増え、逆に温度が低すぎると酸味が強くなってしまいます。
これまでの一般的な見解では、科学的に最適とされるのは92〜94℃とされていて、この温度で抽出することで苦味と酸味のバランスが整った一杯を作ることができると言われていました。
ただ、2020年に発表された論文によると、抽出温度の違いは味のプロファイルに大きな影響を与えないと報告されており、最適な温度範囲にこだわるよりも、豆の挽き方や抽出時間にこだわった方が、究極の一杯に近づける可能性が高そうです。
では、最適な抽出時間はどのくらいなのでしょうか?
抽出時間は短すぎると酸味が強く、長すぎると雑味が増えてしまいます。
エスプレッソなら25〜30秒、ドリップなら3〜4分が理想的な時間とされています。
どんな豆を使うかによっても最適な時間は変わるので、試しながら自分の好みを見つけるのが楽しいポイントでもあります。
こうした条件は意外と多くの研究者が、様々な角度から研究していて、その条件を報告しています。では科学的に最高なコーヒーの淹れ方を具体的に見てみましょう。
科学者が推奨する「究極の淹れ方」
2020年にアメリカのオレゴン大学や英国のバース大学の研究者たちが、コーヒーの抽出に関する研究を行い、科学的に最適な淹れ方を導き出しました。
まず、豆の鮮度が鍵になります。

焙煎したての豆はガスを多く含み、風味が安定しません。
焙煎から1週間ほど経った豆が、最も美味しくコーヒーを淹れられるタイミングなのです。
そのため豆を買う際、自家焙煎しているコーヒーショップを利用すると、焙煎したての豆は袋を少し開けてしばらく空気に触れさせるようにアドバイスされたりします。
さらに、豆の種類によって味の特徴も変わります。
浅煎りの豆はフルーティーな酸味が楽しめ、深煎りの豆はコクと苦味が引き立ちます。
あなたの好みに合う豆を選び、できるだけ飲む直前に挽くことで、酸化を防ぎ最高の香りを引き出せます。
水の質も重要です。コーヒーの98%は使用された水で構成されることになるため、どんな水を使うかで風味が大きく変わります。
軟水を使うと、まろやかでクリアな味わいに仕上がります。
水道水を使う場合は、一度沸騰させて1分ほど置くことでカルキ臭を取り除くことができます。
コーヒーを美味しく淹れるためには、「抽出」が欠かせません。抽出とは、コーヒーの粉にお湯を加えて成分を溶かし出し、液体として楽しむプロセスのことです。この方法にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
例えば、ペーパードリップでは、紙のフィルターを使って雑味を取り除きながらクリアな味わいを楽しむことができます。
一方、エスプレッソは短時間で高圧をかけて抽出するため、濃厚でクリーミーな味わいが特徴です。さらに、フレンチプレスでは金属フィルターを使うことで、コーヒーオイルがそのまま残り、コクのある風味を味わうことができます。
では、それぞれの抽出方法について詳しく見ていきましょう。
ドリップならまず豆全体にお湯を注ぎ、30秒ほど蒸らしてガスを抜きます。その後、「の」の字を描くようにゆっくりとお湯を注ぐことで、均一に成分を抽出できます。

エスプレッソなら、専用のエスプレッソマシンを使用し、ポンプやスチーム圧力によって約9気圧の圧力をかけ、短時間で濃厚な一杯を作り上げます。

フレンチプレスは専用の金属フィルターを備えた抽出器具です。

お湯を注いだ後、4分ほどじっくりと浸透させることで、豆の持つ本来の味をダイレクトに楽しめます。ペーパーフィルターを使わないため、コーヒーオイルもそのまま抽出され、より豊かな風味が味わえます。
美味しいコーヒーを淹れるための「意外なポイント」
美味しいコーヒーを作るためには、細かい工夫も重要です。
例えば、コーヒーカップを事前に温めるだけで、温度変化を防ぎ、味のバランスが崩れにくくなります。
意外と見落としがちですが、ちょっとしたことが仕上がりに大きな違いを生むのです。
また、コーヒーを注いだ後に軽くかき混ぜることで、味が均一になり、より深いコクを楽しめます。
特にフレンチプレスやエアロプレスを使う場合、このひと手間で風味が格段に良くなります。
さらに、コーヒーを淹れる器具は毎回しっかり洗浄し、乾燥させることが大切です。
油分が残ると酸化して雑味の原因になってしまうので、丁寧なメンテナンスが美味しさを左右します。
まとめ:あなたの一杯を科学的にアップグレード!
コーヒーは単なる飲み物ではなく、科学の詰まった芸術です。
豆の鮮度、挽き方、水の温度、抽出時間——このバランスが、最高の一杯を生み出します。
科学が導き出した「92〜94℃の適温」「豆に合った挽き方」「最適な抽出時間」などを意識するだけで、普段のコーヒーが格段に美味しくなります。
ちょっとした工夫で、あなたの一杯が最高の味わいに変わるかもしれません。
今日から、ぜひ試してみてください!
参考文献
Coffee Basics: Brewing Methods
https://counterculturecoffee.com/blogs/counter-culture-coffee/coffee-basics-brewing-methods
元論文
Systematically Improving Espresso: Insights from Mathematical Modeling and Experiment
https://doi.org/10.1016/j.matt.2019.12.019
Brew temperature, at fixed brew strength and extraction, has little impact on the sensory profile of drip brew coffee
https://doi.org/10.1038/s41598-020-73341-4
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部