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人間に当たっても大丈夫なブラックホールのサイズや重さを調べた研究が発表


研究者たちは "原始ブラックホール"と呼ばれる、非常に小さなブラックホールがもし人間に影響を及ぼした場合の影響を検証しました。具体的には、質量が約1400億トンのブラックホールがショック波を引き起こし、人体に致命的なダメージを与え得ることを計算しました。他にも、潮汐力が脳細胞を破壊する可能性も考慮しましたが、これにはさらに大きな質量が必要です。観測可能性は非常に低く、1年あたり10のマイナス18乗の確率でのみ人間に命中する可能性が示唆されています。これにより、実際の危険性は低く、研究は理論的な追求としての意義が強調されています。

ブラックホールと聞くと、多くの人は「巨大な天体を何もかも呑み込む恐ろしい存在」を想像するでしょう。

しかし実は、宇宙には“ミクロ”サイズのブラックホールが存在する可能性があると考えられています。

それらは「原始ブラックホール(PBH)」と呼ばれ、ビッグバン直後の高密度な状態で形成されたかもしれない天体です。

質量は小惑星級でも、その直径は1マイクロメートル以下。

いわば「ちりほど小さいのに、実は超重い」という不思議な存在候補です。

SF小説家のラリー・ニーヴンは、1970年代に「もし小さなブラックホールを使って殺人を犯すとしたら?」という大胆なストーリーを描きました。

これはあくまで架空の設定ですが、「本当にそんな小さなブラックホールで人間を殺すことは可能なのか?」という興味深い疑問を世に投げかけました。

この「小さなブラックホール」は、もしかすると宇宙の暗黒物質(ダークマター)の一部かもしれない、という仮説も存在します。

しかし、観測事実や理論から、一定の質量以下はすでにホーキング放射ですっかり蒸発してしまっているはずだ、といった推測もあり、実際に観測されたことはありません。

もし本当に存在するとしても、その数はとても少ないと考えられています。

アメリカのヴァンダービルド大学(VU)で行われた研究では、この疑問に対して真面目に取り組み、人間を殺せる最も小さいブラックホールの数値が計算されました。

人間に対するブラックホール被害を考察した本研究は、実用性という点では皆無かもしれませんが、物理学理論の探求という面から考えれば興味深いと言えるでしょう。

研究内容の詳細は2025年2月13日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されました。

目次

  • ブラックホールを使った殺傷方法を考える
  • ブラックホールが人間に命中する確率

ブラックホールを使った殺傷方法を考える

人間に当たっても大丈夫なブラックホールのサイズや重さを調べた研究が発表
人間に当たっても大丈夫なブラックホールのサイズや重さを調べた研究が発表 / Credit:Canva

小さなブラックホールが人体を突き抜けるとき、果たしてどんなダメージを与えるのでしょうか。

研究チームは、大きく分けて 「ショック波(衝撃波)」 と 「潮汐力(ちょうせきりょく)」 の2つが主な原因になりうると考えました。

ショック波(衝撃波)による破壊

ブラックホールは、直径が1マイクロメートル以下という超小型でも“質量”そのものは大きい(小惑星級)場合があります。

そんな“超重い点”が音速をはるかに超える高速で体を通過するとき、その周囲の組織に強烈な衝撃が伝わります。

これは、ちょうど銃弾が肉体を貫く際に組織へエネルギーを与えるイメージに近いものです。

極小のブラックホールは確かに塵サイズしかなく、そんな小さなものが人体を貫通しても、(動脈などが無事ならば)運が良ければ生き残れると思うかもしれません。

しかし弾丸が肉体に及ぼすダメージは、弾丸が通り抜けた場所に留まらず、その周辺組織も衝撃によって破壊されてしまうことが知られています。

たとえば大きな50口径の弾丸がコメカミをかすめて表面の皮膚を切り裂いた場合でも、脳に致命的な破壊が起こる可能性があります。

これは重たい物体が高速で組織に接触したことで強烈な衝撃が発生し、その衝撃が脳を破壊してしまうからです。

(※太ももの両側に指をあてて、右側をポンと軽くたたくと、かなりの衝撃が左手側に届くことがわかります。この右手側の衝撃が十分に強ければ、表面の皮膚をかすっただけで太もも全体の細胞を破壊することが可能です)

同様に、塵サイズのブラックホールであっても、人体を貫通した場合には、貫通孔の周りの組織を強烈な衝撃波で破壊できると考えられます。

衝撃によるダメージは、組織に「どれだけのエネルギーを与えるか」がカギになります。

銃の弾丸の場合、おおむね100ジュール(J)程度のエネルギーが人命に関わるダメージを与えるとされています。

(※小さな22口径の弾丸の威力が100ジュールほどと言われています)

そこで研究者たちは既存の衝撃波と組織へのダメージを考慮に入れ、人体を破壊するのに十分な衝撃波を発生させられるブラックホールのサイズを計算しました。

するとブラックホールの質量が約1400億トンほどあれば(塵サイズの大きさでも)弾丸並みのエネルギーを人体に伝える衝撃波を発生させると計算されました。

つまり、ショック波だけで致命傷になるにはこれくらいの質量が必要ということです。

潮汐力による破壊

次に研究者たちは、ブラックホールのなんでも吸い込む力として知られる、潮汐力を使った人体破壊方法を調べることにしました。

ブラックホールは巨大な重力を誇ることが知られており、十分大きなブラックホールが突然人体の片側に出現すれば、人体を引き裂くことが可能です。

といっても、近年の医療技術は進んでおり、手足が千切れただけでは致命傷になるとは限りません。

そこで研究者たちはダメージを考慮する器官を脳としました。

脳は人体で最も繊細で重要な器官の一つであり、潮汐力によって重大な損傷を受けると考えられます。

そして研究では「10~100ナノニュートン(nN)」ほどの引き裂き力が加わると細胞が壊れ得ると想定し、必要な潮汐力をうみだせるブラックホールの質量が計算されました。

結果、潮汐力で脳細胞を破壊するにはブラックホールのサイズが7兆トンから70兆トン必要であることが判明。

つまり人体を破壊する場合には、潮汐力よりも衝撃波を用いた方が有効であり、そのために必要なブラックホールの質量は1400億トンとなります。

これまで極小のブラックホールについてはさまざまな研究がなされてきましたが、人を殺傷できるブラックホールの質量が真面目に検証された例は極めて稀と言えるでしょう。

しかし実際問題として、そのような極小のブラックホールが人体に命中することなどあるのでしょうか?

ブラックホールが人間に命中する確率

人間に当たっても大丈夫なブラックホールのサイズや重さを調べた研究が発表
人間に当たっても大丈夫なブラックホールのサイズや重さを調べた研究が発表 / Credit:Canva

ここまで見てきたように、「小さなブラックホールでも、ある程度の質量があれば人を殺傷しうる」という衝撃的な結論が理論上は導かれています。

では、そんなブラックホールが本当に私たちの日常に降ってくる可能性はどれくらいあるのでしょうか?

論文の試算によると、人体を致命的に破壊するほどの質量を持つ原始ブラックホールは、もし存在しても非常に数が少なく、宇宙全体から見てもごく稀な存在だと考えられます。

そのため、仮に地球近傍を通過したとしても、たまたま人間の身体を正確に突き抜ける事態が起こる確率は1年あたり 10のマイナス18乗といった極端に小さい値になると示唆されています。

サマージャンボ宝くじの1等が当たる確率が10のマイナス7乗(1000万分の1)レベルであることを考えると、この数値は宝くじの高額当選よりはるかに低いレベルの可能性となります。

そういう意味では、原始ブラックホールと遭遇する心配をする必要はないと言えるでしょう。

ですがSFでしか語られなかった小さなブラックホールの衝突と人体への被害を本気で数式化した点において、本研究は意味あるものと言えます。

壮大な視点から、「あり得ないかもしれないけれど、もし本当に起こったら?」を考えることが、科学の醍醐味なのかもしれません。

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元論文

Gravitational Effects of a Small Primordial Black Hole Passing Through the Human Body
https://doi.org/10.48550/arXiv.2502.09734

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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