木星を取り巻く4つの衛星。イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト。
これらを合わせて「ガリレオ衛星」と呼びます。
その中でもカリストは、表面が無数のクレーターに覆われた「死んだ天体」と考えられてきました。
しかし米カリフォルニア工科大学(Caltech)らの研究で、カリストの内部には広大な海が存在する可能性が高いことが新たに判明したのです。
一見すると死んだように見えるカリストにも実は「生命の痕跡」が存在するかもしれません。
研究の詳細は2025年1月30日付で科学雑誌『AGU Advances』に掲載されています。
目次
- カリストに「海」があるかもしれない?
- 地下に「海水」が眠る可能性が大
カリストに「海」があるかもしれない?
カリストは、太陽系の中でも最もクレーターが多い天体の一つです。
これまでの観測では、表面が氷で覆われていることは分かっていましたが、内部の構造についてはあまり研究が進んでいませんでした。
一方で、同じ木星の衛星であるエウロパやガニメデには、地下に液体の海があることがほぼ確実視されています。
特にエウロパでは、地表の氷の割れ目から水が噴き出している証拠が見つかっており、生命の可能性も議論されています。
では、カリストにも海があるのでしょうか?
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実はこれまでもカリストに地下海が存在する可能性は示唆されていました。
1990年代にNASAの探査機「ガリレオ」がカリストの磁場を測定した際、エウロパと同様に、カリストの氷の表面の下に塩分を含む液体の海が存在する可能性が示唆されていました。
その一方で、カリストの地下海の証拠は決定的とは言えませんでした。
その理由の一つに、この衛星が強い電離層(大気の上層部にある電気を帯びた領域)を持っていることが挙げられます。
科学者たちは、この電気を通しやすい大気の上層部分が、塩分を含む導電性の海と似た磁場の特徴を生み出している可能性があると考えていたのです。
そのため、これまでカリストの地下海の存在は決定的なものとは言えませんでした。
地下に「海水」が眠る可能性が大
そこで今回の研究では、カリストの磁場データをより詳細に解析し、地下海の有無を再検討しました。
研究チームは、ガリレオ探査機がカリストを8回接近飛行した際に取得した磁場データをすべて活用し、多周波解析を行いました。
その結果、カリストの電離層だけでは観測された磁場のすべてを説明できないことが示されたのです。
それと同時に、地下に塩分を含む液体の海があると仮定すると、磁場データと非常に一致することが確認されました。
さらに、カリストの地下海は少なくとも数十キロメートルの厚さがあり、その上を氷の殻が覆っていると推定されました。
この発見により、カリストが単なる「死んだ天体」ではなく、木星の他の氷衛星と同様に、地下に広大な海を隠し持つ可能性が高まったのです。
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これまでカリストは、地質学的に活動の少ない「静かな衛星」と考えられていました。
しかし今回の研究により、地下には広大な海が存在する可能性が高まりました。
もしカリストに海があり、そこに生命の兆候が見つかるとすれば、それは私たちが知る生命の定義を大きく変える発見になるかもしれません。
これを受けて、今後の探査ミッションにおいてカリストの地下海がさらに詳しく調査されることが期待されています。
2020年代には、NASAの「エウロパ・クリッパー」や欧州宇宙機関(ESA)の「JUICE(木星氷衛星探査機)」が木星圏に向かい、エウロパやガニメデとともにカリストの詳細な観測を行う予定です。
エウロパと同様に、カリストの地下海にも生命を育む環境があるのかどうか、その解明が待たれます。
参考文献
Jupiter’s moon Callisto is very likely an ocean world
https://phys.org/news/2025-02-jupiter-moon-callisto-ocean-world.html
元論文
Stronger Evidence of a Subsurface Ocean Within Callisto From a Multifrequency Investigation of Its Induced Magnetic Field
https://doi.org/10.1029/2024AV001237
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部