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【心理学者が解説】なぜ女性は「AIの偽ブラッド・ピット」に1億3000万円を騙し取られたのか?


2023年、50代のフランス人女性アンヌさんは、ブラッド・ピット氏を名乗る人物に騙され、約1億3000万円を詐欺師に送金してしまった。詐欺師はAIを駆使して偽の証拠を作り、アンヌさんを信じ込ませた。心理学者によると、孤独感や愛情への渇望、確証バイアス、および社会的証明の原理が詐欺の成功を助ける。アンヌさんのケースでは、偽ピット氏が偽ニュースやAI動画を駆使し、アンヌさんの信頼を勝ち取り、最終的に金銭を要求した。詐欺師のこれらの手口は一般的であり、その背景には被害者の心理的弱点を狙う戦略があるという。十分な警戒心を持つことが重要であり、疑わしい場合には第三者の意見を聞くことが推奨される。

「有名人が電撃結婚!お相手は一般人」なんてニュースの見出しを見ると、「もしかして自分にも可能性があるかも」と妄想を膨らませてしまうものです。

最近では、50代のフランス人女性が俳優ブラッド・ピット氏になりすましたロマンス詐欺に遭い、大きな話題を呼びました。

「そんな馬鹿な」と感じる人もいるかもしれません。

では、なぜこの女性はロマンス詐欺に引っかかってしまったのでしょうか?

ケベック大学モントリオール校(UQÀM)の心理学者アニー・ルコンプ氏が、心理学の観点からその理由を解説します。

目次

  • 偽ブラッド・ピットによる詐欺事件
  • なぜ人はロマンス詐欺に遭ってしまうのか?
  • ロマンス詐欺を見抜け!隠された傾向とは?

偽ブラッド・ピットによる詐欺事件

事件は2023年2月、アンヌさんがインスタグラムをダウンロードしたことから始まりました。

すぐに「ブラッド・ピットの母親」を名乗る人物から連絡を受け、「(ピットさんが)あなたのような女性を必要としている」と言われたのです。

続けて、「ブラッド・ピット」を名乗る人物がコンタクトしてきました。

アンヌさんは警戒しましたが、SNSに慣れていなかったため、何が起きているのか正確に理解できませんでした。

当然ながら、このブラッド・ピッドを名乗る人物は詐欺師であり、画像生成AIを使って、自分をピット氏に見せかけていました。

そして何度もやり取りを続けるうちに、アンヌさんは相手を本物のブラッド・ピット氏だと信じるようになりました。

アンヌさんは「彼を疑うたびに、彼は私の疑念を払拭してくれた」と語っています。

詐欺師は、アンヌさんがが疑うと、2人が特別な関係にあることを報じる偽のニュース番組や、偽のAI動画を作成して、彼女を信じ込ませようとしてきたのです。

そして偽ピット氏はついに、腎臓がんの治療費が必要だと訴え、AIで生成した病院のベッドにいる自身の写真を何枚も送信しました。

アンヌさんはその写真をインターネットで検索しましたが、見つからなかったため、「私のためだけに撮影したもの」と信じ込んでしまいました。

その結果、アンヌさんは夫(裕福な起業家)との離婚などで得たお金をすべて詐欺師に送金してしまいました。

1年半の被害総額は、83万ユーロ(約1億3000万円)でした

では、なぜこんな詐欺がまかり通ってしまうのでしょうか。

なぜ人はロマンス詐欺に遭ってしまうのか?

詐欺の被害を受けたアンヌさんは、金銭的な損失だけでなく、精神的なダメージも受けています。

彼女はこの出来事で破産し、3度にわたって自ら命を絶とうとしました。

「なぜ私が選ばれ、このように傷つけられたのか」と、アンヌさんは涙ながらに語っています。

「この人たちは地獄に落ちるべきだ。詐欺師たちを見つけなくてはならない。お願いです、見つけるのを助けてください」と強く訴えました。

多くの人は、アンヌさんの経験を耳にして、「自分は騙されない」と感じます。

でもそれは、ロマンス詐欺の被害者たちも同じです。

実際には、誰もが詐欺に遭う可能性があります。

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詐欺師たちは私たちの心理的な弱点を突いてくる。誰もが騙される可能性がある / Credit:Canva

詐欺師は、被害者の心理的な弱点を巧みに突きます。

まず、孤独感や愛情への渇望が詐欺を成功させる要因の一つです。

特に大きなライフイベント(離婚や退職など)を経験した人は、精神的に不安定になりやすく、愛情を求める気持ちが強まります。

また、確証バイアスも影響します。

これは、自分が信じたいことを優先的に受け入れる心理的傾向です。

アンヌさんの場合、「本物のブラッド・ピットが私を愛している」という思い込みが強く、疑念が生じてもその証拠を無視してしまいました。

社会的証明の原理も利用されることがあります。

詐欺師は偽のニュース報道やAIで生成した証拠を提示することで、被害者に「この情報は本物だ」と信じ込ませるのです。

さらに、緊急感を煽る場合もあるでしょう。

詐欺師は「銀行口座が凍結された」「命に関わる治療費が必要」といった緊急性を前面に押し出し、被害者に即座の行動を促します。

こうした心理的な要因が重なることで、被害者は冷静な判断を下せなくなるのです。

それでも、このような詐欺には予測可能なパターンが存在します。

ロマンス詐欺を見抜け!隠された傾向とは?

ケベック大学モントリオール校(UQÀM)の心理学者アニー・ルコンプ氏によると、詐欺には一連の傾向があるため、相手が詐欺師かどうか予測することは可能です。

まず詐欺師には、出会い系サイトやソーシャルネットワークで連絡を取ってくる傾向があります。

巧妙に作り上げた偽の身元を使って、高い社会的地位を誇示し、海外に住んでいるか頻繁に移動しているように見せかけます。

この演出により、直接会う必要がなくなり、同時に詐欺師の信頼性が高まるのです。

次に、詐欺師は被害者を元の出会い系サイトやソーシャルネットワークから遠ざける目的で、別のプラットフォームで会話を続けることを提案します。

これにより、プロフィールが削除される可能性を減らし、詐欺を続けやすくなります。

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詐欺師が用いる手口には一定のパターンがあり、見極めることが可能 / Credit:Canva

また、直接会うことを避けるために、旅行、仕事の都合、家族の問題などの言い訳を使います。

今日では、技術の進歩により、詐欺師の中には人工知能ツールを使って偽の画像を作成したり、声を真似したりします。

加えて詐欺師は、頻繁なやり取りを通じて被害者を誘惑しようとします。

ロマンチックなメッセージや詩、定期的な電話、さらにはささやかな贈り物を使います。

なぜなら、この「ラブボミング」によって、被害者は強い感情的執着心を持つようになり、要求に弱くなるからです。

信頼関係が築かれると、金銭問題や健康問題を理由に送金を要求するようになります。

最初の要求は疑いを招かないように控えめですが、次第に要求額は増えていくでしょう。

被害者が疑いを抱き、送金を拒否しようとすると、詐欺師は脅迫に訴え、関係を終わらせると警告することがあります。

この際、詐欺師は攻撃的な口調を用い、被害者の感情を不安定にさせ、屈服させようとします。

それでもし、自分が連絡を取っている相手がこうした傾向を示しているなら、強く疑う必要があります。

自分では「そうでない」と信じたくとも、詐欺である可能性が高いと認める必要があるのです。

ロマンス詐欺は、単なる「騙し」ではなく、心理学を駆使した犯罪です。

特にAI技術が発展した現在、詐欺の手口はますます洗練され、見抜くのが難しくなっています。

誰もが被害者になる可能性があるため、「自分は大丈夫」と思わず、常に警戒心を持つことが重要です。

そして、疑わしいと感じたら、冷静に分析し、第三者の意見を聞くことが最も効果的な防衛策となります。

もし、有名人がSNSであなたに近づいてきたなら、警戒心を強めてください。

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参考文献

Brad Pitt online romance fraud shows how victims are influenced by complex psychological factors
https://theconversation.com/brad-pitt-online-romance-fraud-shows-how-victims-are-influenced-by-complex-psychological-factors-247875

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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