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【骨密度4.8倍】注射1本で骨折を防ぐ?新しい骨強化治療がラットで成功


スイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究チームが、骨粗鬆症の新しい治療法としてハイドロゲル注射技術を開発しました。この技術は、ヒアルロン酸と骨の主成分であるハイドロキシアパタイトの混合物を用いた「HA2」ハイドロゲルを骨に直接注入し、短期間で局所的に骨密度を大幅に増加させるものです。実験では、骨粗鬆症モデルラットの骨密度が2~4.8倍に増加し、従来の全身薬よりも迅速かつ副作用が少ない効果が確認されました。ただし、今後ヒトへの応用には臨床試験が必要です。

高齢者に多い「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」は、骨密度が低下し、骨がもろくなる病気です。

これにより、ちょっとしたことで骨折するようになります。

これまでの治療は薬の服用が中心で、効果が現れるまでに時間がかかるという課題がありました。

しかし、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、骨を強化する新たな治療法を開発しました。

この研究では、ヒアルロン酸と骨の主成分を組み合わせたハイドロゲルを骨に直接注入することで、短期間で局所的に骨密度を増加させることができると報告しています。

この画期的な研究成果は、2024年12月13日付の学術誌『Bone』に掲載されました。

目次

  • 骨がスカスカになる「骨粗鬆症」と治療の課題
  • ハイドロゲル注射で骨を強化する新たな治療法を開発!

骨がスカスカになる「骨粗鬆症」と治療の課題

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骨がスカスカになる骨粗鬆症 / Credit:Canva

骨粗鬆症は、特に閉経後の女性や高齢者に多く見られる病気です。

私たちの体の骨は、少しずつ溶かされ、また新たに作られるという「骨吸収」と「骨形成」を日々繰り返しています。

しかし、老化などが原因でこのバランスが崩れ、骨吸収のスピードが骨形成を上回る時に、骨粗鬆症になると考えられています。

そうなると、骨密度が低下し、ちょっとした転倒や衝撃でも簡単に骨折してしまいます。

例えば、高齢者が自宅で転倒し、股関節を骨折するケースは非常に多く、寝たきりになる原因の一つとなっています。

また、階段でつまずいて手をついた際に手首を骨折するケースや、荷物を持ち上げただけで背骨が圧迫骨折するケースも報告されています。

EPFLに所属するドミニク・ピオレッティ氏も、次のように述べています。

効果的な予防策がなければ、50歳以上の女性の約40%、男性の約20%が少なくとも1回は骨粗鬆症による大きな骨折を経験します

そして高齢者の場合、股関節付近の大腿骨頸部の骨折では、骨折後1年以内の死亡率が20%に達し、骨折した人の半数以上が骨折前の活動に二度と戻ることができなくなります」

これまで骨粗鬆症の治療法としては、骨吸収のスピードを低下させるか、骨形成を促進させる全身薬が使用されてきました。

しかし、これらの治療は即効性がなく、効果が出るまで1年ほどかかる場合もありました。

また、長期使用による副作用や費用が高いといった問題もありました。

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骨折リスクが高い部位をピンポイントで治療するハイドロゲル注射を開発 / Credit:EPFL_An injectable hydrogel for local bone densification(2025)

そこで、研究チームは「骨折リスクの高い部分をピンポイントで強化する新たな治療法」として、ハイドロゲルを用いた局所的な骨強化技術の開発に取り組みました。

ハイドロゲルは、水分を豊富に含んだゲル状の材料で、今回の研究では、体内で自然に生成される粘着性の物質「ヒアルロン酸」と、骨組織の主成分である「ハイドロキシアパタイト」を組み合わせた特殊な配合が用いられました。

このゲルは「HA2」と呼ばれ、骨の成分に似た特性を持ち、骨の弱った部分に直接注射することで、局所的に骨密度を向上させることができます。

さらに、骨を壊す働きを抑える「ゾレドロン酸(ZOL)」を加えた「HA2-ZOL」というバージョンも開発され、これにより骨の吸収を防ぎながら、新しい骨の形成を促すことが可能になりました。

ハイドロゲル注射で骨を強化する新たな治療法を開発!

今回の研究では、骨粗鬆症モデルのラットを用いて、開発されたゲルが骨密度を向上させるか検証しました。

実験では、研究チームは、ラットの骨にハイドロゲル「HA2」や「HA2-ZOL」を注射し、マイクロCTを使って骨密度の変化を詳細に分析しました。

また従来の全身薬も用い、治療効果の違いも確認しました。

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従来の治療を受けたラット(左)と、従来の全身薬に加え、新しいハイドロゲル治療を行ったラット(右)の骨組織(ピンク色に染色)の比較 / Credit:EPFL_An injectable hydrogel for local bone densification(2025)

その結果、HA2群では、ハイドロゲルを注入した部位で骨密度が2~3倍に増加しました。

さらに、HA2-ZOLを使用した場合、最大4.8倍の増加が確認されました。

この効果は、わずか2~4週間でピークに達し、長期間持続することが分かりました。

また、従来の治療法と違い、全身への影響が少なく、副作用のリスクも低いことが示されました。

手術が必要なく、簡単に適用できるというメリットもあります。

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将来、骨粗鬆症とそれに伴う骨折を減らせるかもしれない / Credit:Canva

今回の研究が示した「ヒドロゲル注射による骨密度の向上」は、骨折予防に革命をもたらす可能性があります。

とはいえ、まだラットでの実験段階にあるため、ヒトへの応用には臨床試験が必要です。

また、どの患者に適用すべきか、治療コストをどう抑えるかといった課題も残っています。

それでも、もしこの治療が実用化されれば、「注射1本で骨折リスクを劇的に下げる」ことが可能になるかもしれません。

高齢化が進む社会において、今回の研究は骨折による寝たきりや生活の質の低下を防ぐ重要な一歩となるでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

An injectable hydrogel for local bone densification
https://actu.epfl.ch/news/an-injectable-hydrogel-for-local-bone-densificatio/

“Injectable bone”gel may be a radically better treatment for osteoporosis
https://newatlas.com/disease/injectable-hydrogel-bone-density-osteoporosis/

元論文

Combining systemic and local osteoporosis treatments: A longitudinal in vivo microCT study in ovariectomized rats
https://doi.org/10.1016/j.bone.2024.117373

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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