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統合失調症患者は『光の強さを区別する能力』が低下していた!


バルセロナ大学の研究は、統合失調症患者が視覚情報の処理において「コントラスト感度」の低下を示していることを明らかにしました。コントラスト感度は明暗の差の認識に重要で、これが低下することで顔の識別や動く物体の認識が難しくなる可能性があります。特に、低空間周波数に対する感度低下が顕著で、このことは視覚的な障害物回避や車の運転などに影響を与える恐れがあります。さらに、抗精神病薬の投与量が多い患者ほどコントラスト感度の低下が著しいことが確認され、薬物療法の影響も考慮する必要が示唆されています。この知見は、診断や治療の改善に役立つ可能性があります。

統合失調症は、幻覚や妄想といった症状で知られる精神疾患ですが、近年の研究により、視覚情報の処理にも異常があることが分かってきました。

スペイン、バルセロナ大学(Universitat de Barcelona)の研究によると、統合失調症では「光の強さを区別する能力(視覚コントラスト感度)」、つまり異なる明るさの領域を識別する能力が低下している可能性が指摘されています。

これは、患者の日常生活に大きな影響を及ぼす可能性がある発見です。

光の強さを区別する能力(視覚コントラスト感度)が低下すると、物の輪郭を正確に捉えにくくなり、顔の認識や歩行時の障害物回避が難しくなることが考えられます。

この研究の詳細は、2024年発表の『Schizophrenia Bulletin』に掲載されました。

目次

  • なぜ視覚に着目したのか?
  • 見え方の違いが示す統合失調症の新たな側面

なぜ視覚に着目したのか?

Credit:canva

統合失調症の患者は、視覚的な刺激の処理に異常を示すことが知られています。

これまでの研究で、コントラスト(明暗の差)を検出する能力が低下している可能性が指摘されてきました。

コントラスト感度は、物の輪郭や細部を識別するために不可欠な視覚機能のひとつです。

この能力が低下すると、顔の認識や動いている物体の把握が難しくなる可能性があります。

しかし、コントラスト感度の異常が、統合失調症の神経機構の異常とどのように関連しているのかは、まだ十分に解明されていません。

今回の研究は、統合失調症の患者が本当にコントラスト感度の低下を示すのか、またその低下が病気そのものによるものなのか、服薬の影響によるものなのかを明らかにすることを目的としました。

ではどうやってその問題を明らかにするのか? 今回の研究では、過去の関連研究を体系的にまとめたメタ分析を実施しました。

46の研究を精査し、統合失調症患者と健常者のコントラスト感度を比較したのです。

対象となった研究のほとんどが慢性の統合失調症患者を扱ったものであり、また、空間周波数(視覚刺激の細かさ)がコントラスト感度に与える影響も調査されました。

これは、粗いパターン(低空間周波数)と細かいパターン(高空間周波数)の識別能力に違いが出ているかという検査です。

例えば、大きな白黒の縞模様(低空間周波数)と、細かい縞模様(高空間周波数)の判別能力を見れば、物の形を正確に捉えるなどの視覚処理に問題が起きているかどうか調べることができます。

コントラスト感度を測定する 3 つの試験の図解/Daniel Linares et al., Schizophrenia Bulletin (2024)

また、服薬の影響を評価するため、抗精神病薬の投与量とコントラスト感度の関係も分析しました。

見え方の違いが示す統合失調症の新たな側面

研究の結果、統合失調症患者のコントラスト感度は、健常者と比較して有意に低下していることが確認されました。

特に、低い空間周波数(粗いパターン)に対する感度が著しく低下していたという。

さらに、服薬の影響も無視できず、抗精神病薬の投与量が多いほど、コントラスト感度の低下が大きくなる傾向が確認されました。

これは、統合失調症における視覚処理の異常が、これまで考えられていたよりも深刻であることを示しています。

特に、低空間周波数のパターン(粗い縞模様)の識別能力が著しく低下していることは、患者が日常生活で視覚的な情報を適切に処理できていない可能性を示唆しています。

この異常は、視界がぼやけたり、暗い環境で物の形を認識しにくくなるといった症状に結びつきます。

例えば、統合失調症患者は相手の表情を識別することが苦手だと言われていますが、この研究結果は、その一因として視覚コントラスト感度の低下が関与している可能性を示唆しています。

Credit:canva

また、運動中の物体の認識が難しくなることで、歩行時の障害物回避や車の運転などにも支障をきたす恐れがあります。

さらに、抗精神病薬の投与量が多いほどコントラスト感度の低下が顕著であったことは、薬物療法の影響を考慮した視覚認知の評価が必要であることを示しています。

この研究は、統合失調症の視覚機能に関する理解を深めるとともに、今後の診断や治療の改善に貢献する可能性があります。

特に、コントラスト感度の測定が、統合失調症の診断補助や、病状の進行をモニタリングする指標として役立つかもしれません。

今回調査された研究は、治療中の患者が対象だったため、服薬による影響をもっと明確にするためには、未治療の患者を対象としたさらなる研究が必要になるでしょう。

統合失調症の相手の表情が分からないなどは、相手の感情への共感性の低下など心の問題から生じる印象がありましたが、実際は視界がぼやけるという生理的な問題で生じていた可能性があります。

認知が歪むなどの心の病特有の問題の一部は、精神の問題ではなくもっと明確な身体の症状から回復させられる可能性もあるかもしれません。

Credit:canva

こうした症状の特徴が明らかになっていけば、精神疾患の治療効果が高まり、本当に今までとは景色が違って見えるようになるのかもしれません。

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参考文献

Study Links Schizophrenia to Visual Contrast Sensitivity Deficits

Study Links Schizophrenia to Visual Contrast Sensitivity Deficits
https://neurosciencenews.com/visual-contrast-schizophrenia-28390/

元論文

Neural empathy mechanisms are shared for physical and social pain, and increase from adolescence to older adulthood
https://doi.org/10.1093/schbul/sbae194

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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