仕事やプロジェクトで新しいアイデアを生み出すことは、多くの人にとって重要な課題です。
「どんなチームで働けば、より革新的なアイデアが生まれるのか?」
これは企業のマネージャーや研究者が長年にわたって議論してきたテーマです。
米ビンガムトン大学(Binghamton University)の新しい研究は、この問いに対する予想外の答えを提示しています。
研究チームがアイデアの多様性を高めるチームの作り方について検証した結果、「全員が自由に意見を交換できる環境」では、むしろアイデアの多様性が失われやすいことが示されたのです。
では、斬新なアイデアを生み出しやすいチーム作りとは一体?
研究の詳細は2025年1月9日付で学術誌『npj Complexity』に掲載されています。
目次
- アイデアが生まれやすい「チーム作り」とは?
- 斬新なアイデアを生み出しやすいチームとは?
アイデアが生まれやすい「チーム作り」とは?
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新しいアイデアを生み出すために、どのようなチーム作りが最適なのでしょうか。
一般的に、アイデア創出には「多様な視点が必要」と言われます。
例えば、異なる専門分野の人を集めて議論することで、ユニークな発想が生まれると考えられています。
またオープンな環境で自由にコミュニケーションを取ることが、創造性を高めると信じられてきました。
しかし、この考え方には落とし穴があるかもしれません。
これまでの研究では「グループの多様性」と「アイデアの質」に確かに相関関係があるものの、単に異なるバックグラウンドの人を集めるだけでは十分ではないことが示唆されているのです。
例えば、ある研究ではグループのメンバーがあまりにも異なると、お互いの意見を理解するのが難しくなり、意見のすり合わせが進まず、無難な結論に落ち着いてしまう傾向があることが報告されています(PNAS, 2004)。
では、どんなチームであれば「斬新で実用的なアイデア」を生み出せるのでしょうか?
斬新なアイデアを生み出しやすいチームとは?
今回の研究では、アイデア創出におけるネットワークの構造とメンバーの多様性の関係が詳細に調査されました。
研究チームは617名の大学生を対象に、特定のオンライン上のネットワーク環境でアイデアを出し合う実験を実施。
参加者は20〜25人のグループに分けられ、以下の2つの課題のいずれかに取り組みました。
- 新しいノートパソコンのキャッチフレーズを考える(マーケティングスローガンの作成)
- 短いフィクション作品を書く(ストーリー創作)
実験では、各グループのネットワーク構造を以下の3つのパターンに分けました。
- 完全接続型: すべてのメンバーが互いに自由にアイデアを閲覧・共有できる
- 空間的クラスター型: 限られたメンバーとしかアイデアを共有できない
- ランダム型: ランダムに接続されたメンバーとアイデアを交換する
またメンバーの背景情報(学部や専門分野)を考慮し、以下の3つの条件を設定しました。
- 類似背景型: 同じまたは似たバックグラウンドを持つ人たち
- ランダム背景型: 適度に異なるバックグラウンドを持つ人たち(専門に極端な差は出ない)
- 異質背景型: 全く異なるバックグラウンドを持つ人たち
それぞれのグループが提出したアイデアについては、外部の専門家に評価してもらっています。
そして実験の結果、最も有用なアイデアを生み出したのは「空間的クラスター型+ランダム背景型」の組み合わせのグループでした。
一方、「完全接続型」のグループはどれもアイデアの多様性が最も低かったのです。
では、なぜこのような結果になったのでしょうか?
自由すぎる環境は創造性を妨げる?
この研究の意外な発見は「全員が自由にコミュニケーションを取れる環境では、かえってアイデアの多様性が失われる」ことです。
その理由として、全員が同じアイデアを頻繁に目にすると、独自の発想が生まれにくくなることが指摘されています。
完全に開かれたネットワーク環境では、参加者が他者のアイデアを頻繁に目にするため、新しいアイデアを考える際に既存のアイデアに影響されやすくなります。
これにより、類似したアイデアが多くなり、結果としてアイデアの多様性が低下するのです。
これは「集団同調性バイアス」と呼ばれる心理的効果によるもので、人は周囲の意見に無意識に合わせる傾向があるため、独自性が失われやすくなります。
また情報過多によりアイデアが十分に深掘りされず、表面的な議論に終わるケースも多く見られました。
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アイデアが創造されやすいチーム環境
実験結果を踏まえると、創造的なアイデアが生まれやすいチーム環境は次のようにまとめられます。
「異なるバックグラウンドを持つ人たちを適度に集め、全員が相互に自由にアクセスできる環境ではなく、ネットワークに一部制限を設けること」
ネットワークに一定の制限を設けることで、参加者のうちに特定の少人数グループが形成され、その中で意見を交換するようになります。
その結果、それぞれの小グループが独立したアイデアを育てやすくなり、それぞれの小グループのアイデアを統合することで、全体としてアイデアの多様性が向上するのです。
加えて、それぞれの小グループのメンバーが適度に異なるバックグラウンドを持っていれば、多様な意見交換が交わされ、斬新なアイデアが育ちやすくなるのです。
またネットワーク制限を設けることで、少数のメンバーが特定のアイデアに集中し、それを磨き上げることもできます。
これらの結果は、企業のチーム編成や、学校のグループワーク、オンラインのブレインストーミングにも応用できる可能性があるでしょう。
つまり、斬新なアイデアを生み出しやすいチーム環境を作るには、全員が自由に発言できる環境ではなく、適度に多様なメンバーを集めて、それぞれのネットワークに一部制限を設けることです。
もし職場や仲間とのアイデア作りに難航しているなら、チームの構成を少し工夫してみると良いかもしれません。
参考文献
What’s the best way to organize people to generate ideas? New Binghamton University research offers insight
https://www.binghamton.edu/news/story/5332/whats-the-best-way-to-organize-people-to-generate-ideas-new-binghamton-university-research-offers-insight
元論文
Effects of network connectivity and functional diversity distribution on human collective ideation
https://doi.org/10.1038/s44260-024-00025-9
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部