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なぜポキッの音が百年論争に?指ポキポキの不思議


指を鳴らすときの「ポキッ」という音の原因は、流体力学の現象であるキャビテーションが関わっていると考えられています。関節内のガスが急な圧力の変化で気泡を形成し、その一部が崩壊することで音が発生するという説が有力です。最新の数理モデルによると、完全に破裂しない「部分的な崩壊」でも音が出る可能性が示唆されています。指ポキポキが関節炎を引き起こすとの通説に対しては、多くの研究が否定的な結果を出しており、日常的に鳴らしても関節炎のリスクは顕著にはならないとしています。しかし無理に鳴らすと靭帯や腱に負担がかかる可能性があるため、適度な範囲で行うことが推奨されます。

あなたも一度は指をポキポキ鳴らしたことありませんか。

しかし、その一瞬の「ポキッ」という音の正体は、1900年代から物理学者や医学者を悩ますほどの大きな謎でした。

どうしてこんなにも身近な現象が、長きにわたって論争の対象になっていたのでしょうか。 

最新の数理モデルや高速撮影技術によって見えてきた指ポキポキのメカニズム、イグノーベル賞を受賞した研究、「指ポキポキ」は私たちの想像以上に奥深いテーマなのです。

目次

  • 指ポキポキのメカニズム
  • 指ポキポキは本当に関節に悪いのか?

指ポキポキのメカニズム

指を曲げたり引っ張ったりするとき、なぜ「ポキッ」という音が発生するのでしょうか。

キャビテーションと呼ばれる気泡の現象が深く関わっているといわれます。

もともと船のプロペラやエンジンなど、液体の圧力が急激に変化する場面で生じることで知られているキャビテーション

そして、関節という狭い空間でも、キャビテーションに似た仕組みが起こるのではないかと考えられていました。

関節内には、潤滑や衝撃吸収の役割を果たす滑液(関節液)が満たされています。

また、関節内には血液中から溶け出した二酸化炭素などのガスが少量含まれており、外部から強い力で指を引っ張るなどして急激に関節が伸ばされると、内圧が下がって瞬間的に気泡が生まれることがあります。

これがまさにキャビテーションで、ガスの泡がはじけるときの衝撃音があの「ポキッ」なのだ、というのが1970年代から広く支持されてきた説です。

プロペラが回り泡が発生するのと指ポキは同じメカニズムかもしれない
プロペラが回り泡が発生するのと指ポキは同じメカニズムかもしれない / Credit:Canva

ところが、このキャビテーション説には疑問が残っていました。

実験によっては「関節を鳴らしたあと、滑液内に気泡がまだ残っている」ことが報告されていたのです。

本当に泡が完全に弾けて音を出しているなら、音が鳴った後はすぐに泡が消えてしまうはずではないか。

この矛盾をどう解決するかが大きな争点になっていました。

こうした矛盾を解決するとして注目されているのが、「一部のみ崩壊する気泡」という新しい視点です。

2018年に科学誌『Scientific Reports』で発表された数理モデルでは、気泡の全部が一気に潰れるのではなく、部分的に崩壊して音を発生させ、残りのガスは関節液中に漂い続ける可能性が示唆されました。

つまり、泡がなくなるほど大きく崩壊しなくても、音を鳴らすのに十分な圧力変化が発生するというわけです。

さらに、指が引っ張られるときにはトリボヌクリエーションと呼ばれる現象も関与すると考えられています。

これは接触していた面が引き離される際、局所的に圧力が急低下して気泡ができるプロセスです。

キャビテーションとはやや定義が違いますが、どちらにしても最終的には「急激な圧力変化から気泡の生成と崩壊」が音の発生源になる可能性が高いといわれています。

数理モデルにより指ポキの新たなメカニズムの可能性が示唆
数理モデルにより指ポキの新たなメカニズムの可能性が示唆 / Credit:Canva

とはいえ、この瞬間を実際に画像として捉えるのは容易ではありません。

関節内部は骨や組織に覆われているうえ、気泡が弾ける時間はミリ秒以下。

MRIやレントゲン撮影のフレームレートでは追いつかず、実験結果が矛盾して見える場合もありました。

そのため、複数の研究がそれぞれ異なる結論を出すことになり、「キャビテーション説は本当なのか?」、「部分崩壊なら矛盾が解決するのか?」といった議論がいつまでたっても収束しなかったのです。

しかし、最新の高速イメージング技術や数理シミュレーションの進歩により、指ポキポキの瞬間を理論的に再現できる可能性が高まってきました。

今後さらに高解像度のMRIや超音波検査技術が整えば、指の関節の中で何が起きているのかをリアルタイムで詳しく観察し、謎を完全に解き明かせるかもしれません。

指ポキポキは本当に関節に悪いのか?

指が鳴る仕組みと同じくらいに、注目されていたのが関節に与える影響です。

昔から「そんなにポキポキ鳴らしていると、年を取ったとき関節炎になるよ」と言われることが多く、おばあちゃんの知恵袋的な通説として広く浸透していました。

ところが、これを真剣に検証した研究があります。

カリフォルニアに住む内科医のドナルド・L・アンガー博士は、なんと60年ものあいだ自分の左手の指だけを毎日鳴らし続け、右手は一切鳴らさない状態で生活したのです。

もし指ポキポキが本当に関節炎を引き起こすなら、左手だけが痛みや変形を起こすはず。

数万回にもおよぶ独自の実験を終えてみると、結論は「両手の間に目立った違いはない」というものでした。

この研究は後にイグノーベル賞を受賞し、世界中のメディアを賑わせました。

毎日、片方の手の指だけをポキポキし続けた人がいる
毎日、片方の手の指だけをポキポキし続けた人がいる / Credit:Canva

さらに、他の学術研究でも「指を鳴らす習慣と関節炎リスクに顕著な関連は認められない」と報告されたケースがいくつかあります。

1970年代に発表された研究や、1990年に発表された追跡調査では、指ポキポキを日常的にするグループとしないグループを比較してみても、将来的な関節トラブルに大差はなかったという結果が得られました。

もちろん、まったく無害とは言い切れない面もあります。

無理な力を使って関節を曲げすぎたり、衝撃を加えすぎたりすれば、靭帯や腱の損傷リスクを高める可能性があります。

また、音が鳴るタイミングで痛みを感じるようなら、すでに関節や周辺組織に別の問題が起きているかもしれません。

要は適度であれば大きなリスクにはなりづらいが、過度な力や繰り返しによって別の怪我を誘発しかねない、というバランスの問題なのです。

それではなぜ、こんなにも指ポキポキと関節炎説が広まっていたのでしょうか。

それは、指から音が鳴るのを目の前で見ると、どうしても骨がすり減っているかのようなイメージを持ってしまうことや、痛みを伴う場合は実際に軽度の捻挫や炎症を同時に起こしている可能性があるためだったと考えられます。

あるいは単純に、「うるさいからやめなさい」という意味合いで、大人が子どもに言いつけてきた面も否定できません。

しかし、今のところ学術的には習慣的に指をポキポキ鳴らすことが直接、関節の炎症を引き起こすという明確な根拠は見当たりません。

結局、指をポキポキしても関節は炎症しないがやりすぎには要注意
結局、指をポキポキしても関節は炎症しないがやりすぎには要注意 / Credit:Canva

一瞬の「ポキッ」という音。

その裏では、極めて高速な気泡の生成・崩壊が起きている可能性が指摘され、百年以上にわたって議論が続いてきました。

最新の数理モデルが示す泡の部分崩壊やトリボヌクリエーションという視点によって、かつての矛盾点が解消されつつあるものの、完全な実証にはさらに高精度な撮影技術が必要です。

指ポキポキと関節炎リスクとの関係も、多くの研究で否定的な結果が報告されています。

ありふれた行為のようでいて、身体の奥深いメカニズムと長年の研究成果が詰まっている。

それが「指ポキポキ」という、ちょっとしたミステリーなのです。

全ての画像を見る

参考文献

【物理学】指の関節がポキッと鳴るメカニズム
https://www.natureasia.com/ja-jp/phys-sci/research/12435
Crack Research: Good news about knuckle cracking
https://www.scientificamerican.com/article/crack-research/
Does cracking knuckles cause arthritis?
https://www.tridenthealthsystem.com/healthy-living/blog/does-cracking-knuckles-cause-arthritis#:~:text=If%20you%20crack%20your%20knuckles,habit%20does%20not%20cause%20arthritis.

元論文

A Mathematical Model for the Sounds Produced by Knuckle Cracking
https://doi.org/10.1038/s41598-018-22664-4
Does knuckle cracking lead to arthritis of the fingers?

https://doi.org/10.1002/1529-0131(199805)41:5<949::aid-art36>3.0.co;2-3
https://doi.org/10.1002/1529-0131(199805)41:5%3c949::aid-art36%3e3.0.co;2-3

ライター

岩崎 浩輝: 大学院では生命科学を専攻。製薬業界で働いていました。 好きなジャンルはライフサイエンス系です。特に、再生医療は夢がありますよね。 趣味は愛犬のトリックのしつけと散歩です。

編集者

ナゾロジー 編集部

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