見た目は普通ですが、触れたことを「死ぬほど後悔する」植物が存在します。
それは、オーストラリアに生育するギンピ・ギンピ(Gympie-Gympie)です。
ある人は、ギンピ・ギンピがもたらす痛みについて、「想像できる中でも最悪の痛み」「酸で焼かれるのと同時に感電するような痛み」と表現しています。
このギンピ・ギンピに関しては、「その葉をトイレットペーパー代わりに使用した軍人が痛みのあまり自殺した」なんて逸話も残っているほどです。
本記事では、死にたくなるような痛みをもたらすギンピ・ギンピについて解説します。
目次
- 「刺す木」ギンピ・ギンピ
- ギンピ・ギンピに刺され、死にたくなるほどの痛みを味わった人たち
- ギンピ・ギンピの痛みの原因と応急処置
「刺す木」ギンピ・ギンピ
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ギンピ・ギンピ(学名:Dendrocnide moroides)は、オーストラリア北東部に生育しているイラクサ科の植物です。
1mほどの低い木であることが多く、ギザギザとした葉が備わっています。
その一般的な見た目とは裏腹に、ギンピ・ギンピ全体は刺毛で覆われており、非常に強い毒性を持っています。
それがもたらす痛みは尋常ではなく、誤って触れた人たちを「死ぬほど痛い」と感じさせます。
オーストラリアにはギンピ・ギンピの逸話が数多くあります。
- ギンピ・ギンピに刺された馬は、発狂し2時間以内に死亡した。
- 刺された馬が断崖絶壁から飛び降りた
- 林業労働者たちは手に負えない痛みを和らげるために泥酔している
このような神経毒ゆえ、ギンピ・ギンピは「世界で最も毒の強い植物の1つ」とされています。
そしてこれらの逸話に登場する表現は、実際の体験談と比べても決して大げさなものではありません。
ギンピ・ギンピに刺され、死にたくなるほどの痛みを味わった人たち
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オーストラリア・クイーンズランド州の保護管であるアーニー・ライダー氏は、1963年に、この植物の葉で顔と腕と胸を負傷しました。
彼は当時のことを次のように述べています。
「2、3日の間、その痛みは耐えられないものでした。
私は働くことも眠ることもできず、2週間ほど酷い痛みで苦しみました。
その後、刺すような痛みは2年間続き、冷たいシャワーを浴びる度に激痛を感じました。
この痛みに匹敵するものはありません。
他のどんな痛みと比べても、10倍以上は酷いものです」
また、ジェームズクック大学(James Cook University)の大学院生だったマリーナ・ハーレー氏も、ギンピ・ギンピにひどく苦しめられました。
彼女は3年間をギンピ・ギンピの研究に費やしましたが、その期間、空気中を舞うギンピ・ギンピのトゲに曝されていました。
その結果、彼女は絶えずくしゃみ、涙、鼻水に悩まされることになりました。
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彼女は、「アレルギー反応は時間と共にひどくなり、かゆみと蕁麻疹を引き起こし、最終的には入院とステロイド治療が必要になりました」と述べています。
ギンピ・ギンピは直接触れずとも、周辺の人々の呼吸器系に問題を生じさせるのです。
そして彼女もまた、ギンピ・ギンピに触れてしまいました。
彼女はその痛みについて、本記事の冒頭で紹介したように「想像できる中でも最悪の痛み」「酸で焼かれるのと同時に感電するような痛み」だと述べています。
また他の事例の中には、痛みによって死を選んだケースもあるようです。
オーストラリアの元軍人のシリル・ブロムリー氏は、1994年の手紙で「軍事訓練中にギンピ・ギンピの木の上に落ちた」と書いています。
彼は、3週間にわたって病院のベッドに縛り付けられましたが、痛みで狂ったように暴れるしかありませんでした。
ブロムリー氏は何とか助かりましたが、彼によると、ギンピ・ギンピの葉を「トイレ用」に使用してしまった将校は、その後、痛みのあまり銃で自殺したという話も書いています。
この記述の真偽は謎ですが、ギンピ・ギンピでお尻を拭いたらどうなるかは容易に想像できます。
では、これほど恐ろしい痛みは、どのように生じているのでしょうか。
ギンピ・ギンピの痛みの原因と応急処置
ギンピ・ギンピがもたらす激しい痛みの原因は、長年研究の対象となってきました。
1970年代には、ギンピ・ギンピの神経毒の原因は、「モロイジン」という有機化合物にあると考えられていました。
しかし後の研究では、これだけでは、ギンピ・ギンピ特有の「強烈かつ持続的な痛み」が生じないことが分かります。
そして、クイーンズランド大学(The University of Queensland)の2020年の研究により、ついに痛みの原因が特定されました。
この研究では、ギンピ・ギンピのトゲに含まれる「これまで知られていなかった神経毒ペプチド(アミノ酸の結合)グループ」を割り出すことに成功しており、ギンピタイド(gympietide)と命名されています。
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いくつかの実験の結果、この神経毒は感覚ニューロンのナトリウムチャンネルを恒久的に変化させると判明。
これにより、痛みに関する信号が不安定になり、刺されてから数カ月後、数年後でも不意に痛みを感じるようになります。
ではもし、ギンピ・ギンピに刺されてしまったなら、どのように対処すべきでしょうか。
科学者のヒュー・スペンサー博士は「最も重要なことは、刺された部位をこすらないこと」だと述べています。
彼によると、10倍に希釈した塩酸を塗布した後、ワックス脱毛によって刺毛を除去するなら、1時間半以内に激痛が緩和するとのこと。
そしてこれは応急処置であるため、可能な限りすぐに専門家の治療を受けることも大切です。
現在でも、「刺す木」ギンピ・ギンピはオーストラリアの熱帯雨林を訪れる人たちにとって脅威となっています。
オーストラリアを訪れる際は、「死ぬほど痛い」植物に刺されないよう注意すべきでしょう。
参考文献
Gympie-Gympie: Once stung, never forgotten
https://www.australiangeographic.com.au/topics/science-environment/2009/06/gympie-gympie-once-stung,-never-forgotten/
Australian stinging tree inflicts agonizing pain with a spider-like venom
https://www.zmescience.com/science/australian-stinging-tree-05344/
元論文
Neurotoxic peptides from the venom of the giant Australian stinging tree
https://doi.org/10.1126/sciadv.abb8828
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部