starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

200万年間も「雨が降りっぱなしだった時代」が地球に存在した!


約2億3400万年前、三畳紀後期の地球で200万年もの長期間にわたって続いた「カーニアン多雨事象(CPE)」は、生態系に大きな変化をもたらしました。この現象は、パンゲア大陸が高温乾燥から湿潤な環境に変わり、満ち続ける雨が新たな支配者—恐竜—の繁栄を促しました。恐竜は、この新しい環境に適応できたため、他の生物の多くが絶滅する中で成長し続けました。長期間続く雨の原因として最も有力なのは「火山活動」で、多量の温室効果ガスが大気に排出され、地球が温暖化。その結果、蒸発が活発化し、長期の降雨が続く環境ができたと考えられています。

”恵みの雨”とはいいますが、雨が何日も降り続くと、心がどんよりしてきますよね。

しかし今日の地球で雨が続くといっても数日くらいのもの、梅雨や雨季も大体1〜2カ月ほどです。

「十分長いよ」と物申したくなるでしょうが、それは贅沢な悩みなのかもしれません。

なぜなら地球にはかつて200万年間も雨が降りっぱなしの時期があったのですから。

これは「カーニアン多雨事象(Carnian Pluvial Episode:CPE)」と呼ばれるイベントです。

カーニアン多雨事象は自然の生態系をガラリと変え、新たな支配者の誕生をもたらしました。

今回はその”雨の時代”の秘密に迫ってみましょう。

目次

  • 三畳紀の後期に存在した「雨の時代」
  • 雨季による「新たな支配者」の誕生!
  • なぜ急に雨が降り始めたのか?

三畳紀の後期に存在した「雨の時代」

カーニアン多雨事象が起きたのは約2億3400万〜2億3200万年前の三畳紀後期のことです。

三畳紀の地球はそれ以前のペルム紀に引き続いて、かなり高温で乾燥した環境にありました。

当時、地球上の大陸は今みたいにバラバラには分かれてはおらず、一つに固まって超大陸を形成していました。

これを「パンゲア大陸」と呼びます。

パンゲア大陸を取り囲む巨大な海は「パンサラッサ海」と呼ばれ、パンゲア大陸の沿岸部には降雨をもたらしていました。

しかし沿岸部を除くと、広大無辺な内陸部では雨がほとんど降っておらず、高温で乾燥した気候が続いていたのです。

パンゲア大陸はその後、約1億8000万年前のジュラ紀になってから、北はローラシア大陸、南はゴンドワナ大陸へと分裂していきます。

地質学者たちはその時代になるまで大陸の高温乾燥状態は続いていたと考えていました。

画像
ペルム紀〜三畳紀に存在したパンゲア大陸/ Credit: canva

ところが1989年になって新たな事実が見つかります。

イギリスの地質学者がヨーロッパに分布する泥土岩「コイパー地層」において、約2億3400万年〜2億3200万年前の地層に驚くべき発見をしました。

その時代の地層には、川で見つかる礫岩や湖に特有の堆積物、沼地の痕跡が密集していたのです。

さらに2000年代初めにはその発見に続いて、アメリカや中国、イタリアでも同じ時代に川や湖、沼地ができていた証拠が続々と発見されました。

これらの証拠は三畳紀の後期に長い長い雨が降り続いて、パンゲア大陸が湿潤な環境になっていたことを物語っていたのです。

このことから約2億3400万年〜2億3200万年前に起きた”雨の時代”が「カーニアン多雨事象(※)」と名付けられました。

(※ カーニアンとは、約2億5190万〜2億130万年前に相当する三畳紀をさらに細かく区分した時代のことで、約2億3400万年〜2億3200万年前にあたります)

つまり、地球にはかつて200万年もの間、雨が断続的に降り続けていた時代が確かにあったのです。

そしてカーニアン多雨事象は自然の生態系を大きく変えて、新たな支配者の誕生を促しました。

雨季による「新たな支配者」の誕生!

高温で乾燥した場所で生き続けるのは、生物にとって困難です。

とはいえ、止まない雨も生物には致命的だったようです。

この時代、カーニアン多雨事象によって大量絶滅が発生したことが明らかになっています。

その最大の被害を受けたのは意外にも海の生き物たちでした。

三畳紀後期に200万年もの雨季が続いたことで、陸地には巨大な川がいくつも形成されましたが、その川を通じて土壌にある大量の栄養素が海へと流入します。

これにより海洋環境の富栄養素化(栄養素が過剰に多くなること)が起こり、プランクトンが大量発生。

そしてプランクトンが激増したことで海中の酸素が大量に消費され、海水の溶存酸素量が激減し、海洋生物たちがどんどん死滅していったのです。

硬骨魚類からアンモナイト、タラトサウルスといった大型の海洋爬虫類までもが絶滅に追い込まれ、この200万年間で35%もの海洋生物が姿を消したとされています。

画像
大量の海洋生物が死滅/ Credit: canva

その一方で、長い長い雨は陸上に新たな支配者を誕生させました。

それが「恐竜」です。

これ以前のパンゲア大陸では、爬虫類のリンコサウルスから単弓類のディキノドンといった小型の四肢動物たちが主な支配者として君臨していました。

恐竜も誕生こそしていましたが、その割合は生物全体の5%ほどで、少数派の種でした。

しかしカーニアン多雨事象により、パンゲア大陸の植物相が激変することになります。

高温乾燥の時代には背の低い草木がまばらに生えた植物相をしていたのですが、降水量が一気にドン!と増えたことで、針葉樹やソテツ類などの背の高い大きな樹木が鬱蒼(うっそう)と繁り始めたのです。

これらの樹木は葉っぱや幹が大きくて丈夫だったせいか、顎の弱いリンコサウルスやディキノドンは硬い植物をしっかり噛めず、消化もできなかったため、どんどん死んでいったのです。

また彼らは背の高い樹木の葉っぱに届かず、満足に食糧にありつくことができませんでした。

しかしその中で頑丈な歯や顎を持っていた恐竜たちはこの植物相にうまく適応することができました。

彼らは後ろ足で垂直に立ち上がることもできたので、背の高い樹木の葉っぱも難なく食べられたのです。

こうして陸上の支配者は一挙に恐竜へと代わり、その後、約6600万年前に巨大隕石が落ちるまで恐竜の時代が続くことになります。

では最後に、カーニアン多雨事象は何が原因で起こったのでしょうか?

なぜ急に雨が降り始めたのか?

それまで高温乾燥していた地球に、なぜ突如として雨が降り始めたのか?

これは長年にわたって研究者たちの議論が続いており、いまだに完全な決着はついていません。

しかし現時点で最も有力な仮説は「火山活動」によるものとされています。

これまでの研究で、三畳紀後期に、パンゲア大陸を取り巻くパンサラッサ海の一部で大規模な火山活動が発生していた証拠が見つかりました。

これらの地質学的な証拠は、その後の大陸移動によって、現在のカナダ西部と日本〜極東ロシアへと移動しています(下図を参照)。

画像
火山活動が雨季を引き起こした可能性/ Credit: 神戸大学 –大量絶滅と恐竜の多様化を誘発した三畳紀の「雨の時代」(2020)

大規模な火山活動により、莫大な量の温室効果ガスが大気中に排出されます。

これは当然ながら地球の温暖化を引き起こしたでしょう。

そして地球が熱くなった結果、水の蒸発が各地で活発になり、巨大な雨雲がパンサラッサ海から大量に発生。

それが200万年間も続くカーニアン多雨事象を引き起こすに至ったと考えられているのです。

しかし200万年も雨が続いている世界とは一体どのような光景だったのでしょう?

もしそこに私たちがいたらかなり憂鬱な気持ちで暮らすことになったかもしれませんが、進化史的にはカーニアン多雨事象のおかげで恐竜が繁栄し、さらにその陰で哺乳類の台頭もほぼ同時に起こりました。

長い長い雨の時代がなければ、私たち人類の誕生もあり得なかったかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

When Earth Endured Two Million Years Of Rain: The Carnian Pluvial Event
https://www.iflscience.com/when-earth-endured-two-million-years-of-rain-the-carnian-pluvial-event-76438

Carnian Pluvial Episode: That time when it rained for 1-2 million years
https://www.geoengineer.org/news/carnian-pluvial-episode-that-time-when-it-rained-for-1-2-million-years

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.