starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

【2人に1人が盲目】サハラ砂漠に存在する「盲目の部族」


サハラ砂漠のモーリタニアに位置する村、ダリ・ギンバでは住民の多くが遺伝性疾患による盲目であり、その原因は先天性白内障とされています。これは常染色体優性遺伝により多世代にわたり引き継がれています。村人たちは盲目を神の贈り物と信じ、視覚以外の感覚による水源探索能力を持つとされています。外部からの医療介入は村の文化や信仰と衝突し、盲目が神聖視されているため抵抗があります。ハワイ大学のサキブ・A・ウスマン氏の研究は、文化的価値観を考慮した医療介入の必要性を示唆しています。

アフリカ大陸北部のサハラ砂漠に、盲目の部族が住んでいる村があります。

その村では、生まれつき失明状態(先天盲)にある子供が多く、彼らは砂漠の厳しい環境で盲目のまま生活を送っているという。

生まれる人間の多くが盲目になってしまうなんて、そんな不思議なことが本当にありうるのでしょうか?

このような問題は現代の医療で救うことはできないのでしょうか。

今回はアメリカのハワイ大学マノア校(UH Mānoa)に所属する人類学者サキブ・A・ウスマン氏の2024年の論文を元に、この盲目の部族について解説していきます。

目次

  • サハラ砂漠に住む「盲目の部族」とその原因
  • 盲目を「神からの贈り物」と考える

サハラ砂漠に住む「盲目の部族」とその原因

世界最大級の砂漠「サハラ砂漠」は、アフリカ大陸の3分の1近くを占めており、アメリカ合衆国とほぼ同じ面積があるほど広大です。

サハラ砂漠全体の人口は約2500万人であり、そのほとんどは、モーリタニア、モロッコ、アルジェリアに住んでいます。

このアフリカ北西部に位置するモーリタニア(正式には、モーリタニア・イスラム共和国)には、首都ヌアクショットから東に約1000km離れた辺境の村「ダリ・ギンバ(Dali Gimba, ダリグンベとも呼ばれる)」があります。

モーリタニアの位置
モーリタニアの位置 / Credit:地図データ ©2025 Google

この村は、村人の半数が盲目である「盲人の村」として知られています。

例えば村長の家系は、7~8世代にわたって遺伝性の失明が続いています。

画像
サハラ砂漠には村人の半数以上が盲目の「盲目の部族」が存在する / Credit:Saquib A Usman(UH Mānoa). Blindness and Water Divination in the Saharan West(2024)

それでも彼らは、厳しい砂漠環境で、村の中での生活をすべてひとりで行えます。

盲目であることを受け入れ、たくましく生きているのです。

では、どうしてこの村では先天盲が多いのでしょうか。

アメリカのハワイ大学マノア校(UH Mānoa)に所属する人類学者サキブ・A・ウスマン氏は、2017年以来、この盲目の村を訪れ、部族の生活を観察・研究してきました。

画像
失明の原因は、「先天性白内障」だと考えられる / Credit:Saquib A Usman(UH Mānoa). Blindness and Water Divination in the Saharan West(2024)

彼が執筆した2024年の論文では、モーリタニアの大学「USTM:Université des Sciences de Technologies et de médecine」の2018年の研究が引用されています。

その研究によると、これら部族の失明の原因は、先天性白内障だと判明しています。

先天性白内障とは、生まれながらに罹患する白内障であり、生まれた時から、もしくは生後しばらくして、瞳が白濁したり、斜視になったりします。

また検査によると、部族の人々には、常染色体優性遺伝が認められました。

常染色体優性遺伝では、両親のどちらか一方が変化のある遺伝子を持つ場合、50%の確率で次世代へ伝達されます。

そのため多くの世代が罹患してしまいます。

ダリ・ギンバの部族の多くが、何世代にもわたって盲目なのは、こうした遺伝性疾患が原因だったのです。

では、こうした事態を村人たちはどう感じているのでしょうか。

盲目を「神からの贈り物」と考える

画像
人々は治療を受けておらず、盲目のまま生活している / Credit:Saquib A Usman(UH Mānoa). Blindness and Water Divination in the Saharan West(2024)

先天性白内障は生後すぐ、もしくは症状が出てすぐに手術を施すことで治療することが可能です。

しかし、辺境の村ダリ・ギンバでは、その取り組みが進んでおらず、多くの子供の先天性白内障は放置されたままです。

ダリ・キンバ村に関する特定の記事では、この村の貧困と孤立が強調されており、「政府が部族を助けようとしていないことに人々がショックを受けている」と論じています。

しかし、現地の人々と実際に交流をもったサキブ・A・ウスマン氏の論文では、そのような記事が誤解を招くものだと述べています。

彼によると、「政府の助けがないことを、失明が広がっている根本原因だと主張する村人は、ほんの少数だった」ようです。

むしろ、ほとんどの村人は、失明を治療しようとする政府の介入に抵抗したようです。

なぜでしょうか。

それは、盲目が神からの贈り物だという考えが根付いているからです。

言い伝えでは、昔、神がある村人に「いずれ徳が高く盲目の子供が生まれるだろう。そして、その子孫は盲目になる」というお告げを与えたのだとか。

信心深い村人たちにとって、盲目は神から与えられ、受け継がれてきたものだったのです。

画像
敏感になった視覚以外の感覚により、多くの井戸を掘りあててきた / Credit:Saquib A Usman(UH Mānoa). Blindness and Water Divination in the Saharan West(2024)

また、村で生活する盲人は、地下に眠る水源を見つける奇跡の力を持つとされています。

そして実際、彼らはこれまでに多くの井戸を掘りあて、人々の生活を支えてきたようです。

科学的には、視覚が失われることで触覚や聴覚が補完的に発達することが多いと分かっています。

そのため水源を見つける能力には、こうした要素が関係しているのかもしれません。

「失明することで高まる他の能力」と「言い伝え」が、治療の受け入れを難しくさせているのです。

ウスマン氏の論文は、グローバルな医療介入が、必ずしも地元文化や価値観に適合するわけではないという教訓を示しています。

サハラ砂漠の盲目の部族たちは、今後も先天盲を抱えながら、たくましく生きていくのでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

Mauritania: Blind villagers deserted by government
https://www.newarab.com/analysis/mauritania-blind-villagers-deserted-government

元論文

Blindness and Water Divination in the Saharan West
https://dx.doi.org/10.7302/22992

A novel missense mutation of GJA8 causes congenital cataract in a large Mauritanian family
https://doi.org/10.1177/1120672118804757

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.