イヌの首輪は、イヌを制御するのに役立つだけでなく、飼い犬であることの目印にもなります。
そんな首輪ですが、たまにスタッズ(金属製の飾りびょう)が付いたものが存在します。
このトゲトゲの首輪は、よく獰猛で強そうなイヌが付けているイメージがありますが、果たしてこのタイプの首輪は何のためにあるのでしょうか。
トゲトゲの首輪の役割や歴史、現在の扱いについて解説します。
目次
- イヌの首輪の歴史
- トゲトゲ首輪は牧羊犬がオオカミから身を守るために生まれた
イヌの首輪の歴史
たまに漫画などでは、鋭いトゲトゲの首輪をつけた犬が描かれていたりします。
日本で見かけることはほとんどありませんが、海外では飼い主たちが、番犬などの屈強なイヌに、スタッズ(金属製の飾りびょう)付きの首輪を装着することもあります。
犬好きの人だと、犬が怪我をしないか心配になるかもしれませんが、こうした首輪はただのデザインではなく、犬のために歴史上実際に利用されていたものなのです。

では、これら首輪のトゲトゲは、何のためにあったのでしょうか。
まず、首輪の歴史を振り返ってみましょう。
はるか昔から、イヌは人間と共に生活しており、「最も古くに家畜化された動物」だと考えられています。
そして人間は、そんな飼い犬たちを制御するために、首輪を用いてきました。
首輪は古代メソポタミアの時代から存在しており、この時は、イヌの首にシンプルな紐を巻き付けるだけでした。
やがて、首に巻く紐は布製や革製の首輪に置き換えられ、紐や長い棒が取り付けられることになります。
そしてイヌに与えられる役割の多様化と共に、首輪のバリエーションも豊かになっていきました。

例えば、古代エジプトでは、イヌはエジプト神話に登場する冥界の神「アヌビス」と結び付けられました。
そのため、イヌの首輪は、エジプト新王国時代(紀元前1570頃~紀元前1070年頃)から、複雑なデザインと装飾によってイヌを称える芸術作品として扱われるようになりました。
この新王国時代の貴族の墓から発見されたイヌの首輪2つには、飾りだけでなくイヌの名前まで記されていました。
現代では当たり前の「首輪にイヌの名前を入れる習慣」は、古代エジプトで初めて現れたと考えられています。
一方で、イヌの首輪がより実用的な変化を遂げたケースもありました。
それが現代でも見られる「トゲトゲの首輪」です。
トゲトゲ首輪は牧羊犬がオオカミから身を守るために生まれた
The spiked dog collar was invented by the ancient Greeks to protect their dogs from wolf attacks. pic.twitter.com/bsLhtoS1Bq
— Joe Hansen (@joehansenxx) December 15, 2024
古代ギリシャやローマでは、イヌを戦争や護身用のために使用していました。
そのため、それらのイヌたちには、攻撃者たちから身を守るために、細長いスパイク(トゲトゲ)付きの首輪が与えられました。
例えば、イヌたちはオオカミや他の野生動物に襲われる危険がありました。
それらオオカミは、頸動脈がある首に噛みつき、致命傷を与えようとします。

スパイク付きの首輪は、オオカミがイヌの首を噛むのを阻止したり、そのように攻撃してきた敵を負傷させたりする点で役立ったのです。
そしてこのタイプの首輪は、現代でもスペインやトルコなどのいくつかの国で、牧羊犬のために使用されており、「ウルフカラー(Wolf collar)」と呼ばれています。
牧羊犬は羊飼いのサポートをしながら、羊たちをオオカミなどの野生動物から守ります。
彼らは凶暴なオオカミと直接戦うことになりますが、オオカミたちは容赦なく牧羊犬の首や足を狙ってきます。
This sheep dog is covered in his own blood after fighting off wolves protecting his flock, while the sheep gently comforts him.
The dog is willing to die for his sheep, and the gesture of the sheep comforting him is all he needs. pic.twitter.com/wSmmyCuiYR— Lars-Johan Larsson (@LarsJohanL) August 26, 2023
この投稿画像では、牧羊犬とオオカミの戦いの後の様子が映し出されています。
必死に戦った牧羊犬を羊が慰めているようにも見えます。
このような状況は、スパイク付き首輪であるウルフカラーがいかに重要であるかを示しています。
もともとトゲトゲ首輪は、戦うイヌたちを保護するための「実用性に特化したアイテム」だったのです。
しかし、現代のほとんどのケースでは、飼い犬が命がけで戦うことはありません。

そのため首輪の目的は、制御とファッションが主であり、「トゲトゲの付いた首輪」も実用性ではなく見た目を重視するものへと変化しています。
たまに見かけるスタッズ付き首輪のルーツは、「命がけで戦うイヌの保護」にありますが、今は単なるオシャレのために作られることがほとんどです。
そのため、危険性や攻撃性を排除した素材で作られることが多く、愛犬を飼い主好みの見た目にしたり、番犬をより強く見せたりするために使用されています。
参考文献
A Brief History of the Dog Collar
https://www.worldhistory.org/article/1605/a-brief-history-of-the-dog-collar/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部