Prince Rupert’s Drop vs Hydraulic Press pic.twitter.com/9YL1DTcGtn
— Interesting As Fuck (@interesting_aIl) December 11, 2024
銃弾で撃っても、プレス機で加圧されても壊れない、涙のような形をした謎のガラス。
このガラスは、「オランダの涙」もしくは、「ルパートの滴」と呼ばれる物体です。
しかし、このオランダの涙は尻尾のような部分を折ると全体が砕け散ってしまいます。
極端な頑丈さと、明確な弱点を持つこの不思議なガラスはなんなのでしょう?
今回はなぜこのガラスがこれほど頑丈なのか、また、なぜ尻尾部分を折ると全体が爆発的に破砕するのか解説します。
目次
- プレス機に打ち勝つ「オランダの涙」
- オランダの涙が頑丈な理由
- 尻尾を折ると全体が粉々になる
プレス機に打ち勝つ「オランダの涙」
「オランダの涙」とは、オタマジャクシや涙のような形のガラス製の物体です。
17世紀のヨーロッパでは既にその存在が知られており、1661年にイギリスで行われた実験に立ち会ったカンバーランド公ルパートにちなんで、「プリンス・ルパートの滴」「ルパートの滴」とも呼ばれます。
このオランダの涙は、私たちの想像を絶するほど頑丈なことで有名であり、SNSでは数々の実験動画が共有されています。
Prince Rupert’s Drop vs Hydraulic Press pic.twitter.com/9YL1DTcGtn
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例えば有名な動画では、オランダの涙がプレス機で加圧される様子が映し出されています。
どんなものでも簡単に圧壊してしまうプレス機ですが、オランダの涙は、なんと20トンものプレスでも無傷です。
それどころか、プレス機の方がへこんでしまう結果に終わっています。
では、オランダの涙は、どうしてこんなにも頑丈なのでしょうか?
この驚異的な頑丈さは、オランダの涙の作成方法から理解できます。
オランダの涙が頑丈な理由
This is Prince Rupert’s Drop, and is considered the strongest glass in the world pic.twitter.com/0ANReftgDY
— Interesting As Fuck (@interesting_aIl) July 7, 2024
オランダの涙の作成方法は簡単です。
ガラスをバーナーなどで熱して溶かし、その溶けたガラス(溶融ガラス)を冷たい水に垂らすだけです。
水によって冷やされたガラスは、自然に涙型に固まります。
では、どうして熱したガラスを冷やすだけで頑丈になるのでしょうか。
それの秘密は冷却過程にあります。
溶融ガラスが水に落ちると、まず外側が急激に冷えて固まります。
この時、ガラスの内部はまだ高温のままであり、液体の状態を保っていますが、僅かな間の後、内部も徐々に冷えていき、収縮しようとします。
しかし、外側が既に固まっているため、内部が収縮しようとしても自由に縮むことができません。
内部は収縮しようとしますが、外殻に固定された状態で縮もうとするため、これにより引張応力が生じます。
さらに内部の引張応力と釣り合うように、表面では圧縮応力が発生。
オランダの涙では、これら相反する力がガラス全体を不安定な平衡状態に保っているのです。
そして表面の圧縮応力は、ガラスの強度を大幅に向上させます。
イギリスのケンブリッジ大学が関わった2016年の研究では、この表面の圧縮応力が400~700MPa(大気圧の4000~7000倍)だと報告されました。
ちなみに、オランダの涙に見られるこの現象は、強化ガラスの製造原理と同じです。
オランダの涙が注目される理由は他にもあります。
それは、これだけ高い強度を誇る物体であるにもかかわらず、簡単に全体を粉砕できるという事実です。
尻尾を折ると全体が粉々になる
Prince Rupert’s Drop, a piece of glass that can withstand a bullet but if you snap its tail, the whole thing falls apart. https://t.co/FFFqVoYWkzpic.twitter.com/216WXK7eZ9
— Gadgetify (@Gdgtify) December 11, 2024
この動画のように、オランダの涙には弱点があります。
オランダの涙の尻尾部分を折ると、全体が粉々に砕けてしまうのです。
ではなぜ、このような現象が生じるのでしょうか。
それは、前述した「不安定な平衡状態」が関係しています。
オランダの涙は、内部で強い引張応力、表面で強い圧縮応力が働いており、オランダの涙全体を不安定な平衡状態に保っています。
そのため尻尾を折ることで、この平衡状態が崩れ、一気に巨大なエネルギーが解放されることになります。
バランスの崩壊が連鎖反応を引き起こすため、オランダの涙全体は一瞬で粉々になります。
ケンブリッジ大学の1994年の研究によると、この解放されたエネルギーはオランダの涙の中を高速で伝播し、最大6840km/hの速度で亀裂が走ると分かっています。
これまで解説してきたとおり、オランダの涙は、作成が非常に簡単でありながら、20トンプレスにも耐える頑丈な物体です。
しかも、尾を折るだけで全体を瞬時に破壊することができるという、なんとも不思議な魅力を秘めています。
オランダの涙に関する動画が多くの人の興味を引くのも納得できますね。
参考文献
We’ve Finally Cracked The Secret of Prince Rupert’s Drops
https://www.sciencealert.com/we-ve-finally-cracked-the-secret-of-prince-rupert-s-drops
元論文
On the extraordinary strength of Prince Rupert’s drops
https://doi.org/10.1063/1.4971339
The explosive disintegration of Prince Rupert’s drops
https://doi.org/10.1080/01418639408240284
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部