「北極の氷は最短だと2027年には溶けて無くなってしまう…」
そんな恐るべきシミュレーション結果が米コロラド大学ボルダー校(CU-Boulder)とスウェーデン・ヨーテボリ大学(University of Gothenburg)の気候学者により報告されました。
以前から、急速に進展する温暖化のせいで北極の海氷面積がどんどん小さくなっていることが知られていました。
しかし「北極の氷が実質的に消失する」というXデーは意外に近いのかもしれません。
その場合、北極に暮らすホッキョクグマたちはどうなってしまうのでしょうか?
研究の詳細は2024年12月3日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。
目次
- 最短で3年以内に北極の氷が消える⁈
- ホッキョクグマは「絶滅」か「ハイブリッド」の道を進むだろう
最短で3年以内に北極の氷が消える⁈
北極の海氷は常に一定の大きさを保っているわけではありません。
年間の季節変動を通じて、自然に縮小と増大を繰り返しています。
ただし北極における海氷面積の平均値は、温暖化がどれだけ進んでいるかを示す指標となっており、1978年11月以来ずっとモニタリングされています。
そして海氷面積の平均値は、追跡開始時から今に至るまで明らかに減少の一途を辿っているのです。
例えば、国立雪氷データセンター(NSIDC)によると、1979年〜1992年の平均面積は685万平方キロメートルでしたが、2024年9月11日には428万平方キロメートルと著しく小さくなっています。
この数値は1978年以来の観測の中で最も低いものの一つでした。
このまま温暖化が進んでいくと、いずれは北極の氷が無くなるという事態が起きかねません。
研究者たちは、北極から氷が消失する日を指して「アイスフリー・デイ(Ice-Free Day)」と呼んでいます。
ここで注意すべき点として、アイスフリー・デイとは北極から全ての氷が完全に無くなること(氷がゼロになること)を意味するわけではありません。
気象学的な見方からすると、アイスフリー・デイは「北極の海氷が全部で100万平方キロメートル未満になった場合」と定義されるといいます。
そこで研究チームは今回、大規模な気象データをコンピューターモデルを駆使して、アイスフリー・デイが北極に訪れる日はいつになるかを初めてシミュレーションしました。
ここでは11種類の気候モデルを用いて、北極における2023年〜2100年までの気候変動のシミュレーションを合計で366回試行しています。
その結果、北極に初めてのアイスフリー・デイが訪れる日は予測値に幅があることが示されました。
しかしシミュレーションの大半は7年〜20年以内というかなり短いスパンでアイスフリー・デイが来ると試算しています。
最も日和見的な予測値ですと、2100年になってもアイスフリー・デイは来ないと回答していました。
ところが全シミュレーションのうち9つは、非常にシビアな予測値を弾き出しています。
それらによると、北極最初のアイスフリー・デイは3〜6年に起こると予測していたのです。
これは最短で2027年には北極の海氷面積が100万平方キロメートルを切ってしまうことを意味します。
3年でアイスフリー・デイが起こるシナリオでは、2025年から例年に比べて異常に温かいシーズンが続くことを原因とし、そのパターンが3年連続で続くと、3年目(2027年)の9月までには北極の海氷面積が100万平方キロメートルを切ると試算されました。
それからこの9つのシミュレーションでは、アイスフリー・デイが起こった後は約11日〜53日の間、気象学的に氷のない状態が維持されると推定されています。
では、アイスフリー・デイが起こってしまうと、北極を代表するホッキョクグマはどうなってしまうのでしょうか?
ホッキョクグマは「絶滅」か「ハイブリッド」の道を進むだろう
今回の結果を受けて、カリフォルニア大学ボルダー校の気候学者であるアレクサンドラ・ジャーン(Alexandra Jahn)氏は「北極で初めてアイスフリー・デイが訪れても、すぐさま地球環境の状況が劇的に変わることはありません」と指摘します。
しかしその後も温暖化がまったく改善されず、北極から氷がほぼ消失した状態が続くと、地球規模で気象パターンが変化する恐れがあります。
特に北極に広がる氷は太陽光を反射する能力が高いため、氷が消失すると太陽光の反射率が著しく低下します。
そうすると、氷の代わりに露出した暗い海面が太陽エネルギーを吸収し、北極の温暖化がさらに加速してしまうのです。
これは地球全体の温度上昇をも加速させるでしょう。
そして、北極の氷が消失することで最も直接的な煽りを受けるのはホッキョクグマたちです。
氷が無くなると、ホッキョクグマは狩猟の場を失ってしまいますし、子育てのための巣穴を掘ることもできなくなります。
こうしてホッキョクグマたちは慣れ親しんだ北極に適応し続けるのが困難になり、次第に個体数を減らして、絶滅の一途を辿っていくでしょう。
その一方で、ホッキョクグマが生き残る道もゼロではありません。
その道とはグリズリーと融合して「ハイブリッド」となることです。
北極の氷を失ったホッキョクグマは餌を求めて南下するようになり、その結果、北アメリカに分布するグリズリーの生息域とぶつかります。
中には縄張り争いをして互いを避け合う個体もいるでしょうが、異種間で交雑して新たなハイブリッド生物を生み出す個体も出てくるでしょう。
これは何の根拠もない絵空事ではなく、現実として起きていることなのです。
こちらが実際にホッキョクグマとグリズリーが混じったクマの画像になります。
まさにホッキョクグマの白い毛とグリズリーの茶色い毛が混じり合った姿をしていますね。
こうしたハイブリッド種は、ホッキョクグマ(polar bear)とグリズリー(grizzly)双方の名前を取って、ピズリー(pizzly)やグローラー(grolar)、ポリズリー (porizzly)などと呼ばれています。
研究者によれば、ホッキョクグマが南下して、その姿のまま北アメリカの地に適応するのは生態的および生理的に困難であるといいます。
しかしグリズリーと合体すれば、彼らの遺伝子は新たなハイブリッド種の中で生き続けることでしょう。
ただ前提として、私たちはホッキョクグマを絶滅させないために、人為的な温室効果ガスの排出量を削減して、温暖化を止めることを最優先にすべきです。
ジャーン氏も「温室効果ガスの排出量を大きく減らすことができれば、北極から氷が無くなることも避けられるでしょう」と述べています。
参考文献
Countdown to an ice-free Arctic: New research warns of accelerated timelines
https://www.colorado.edu/today/2024/12/03/countdown-ice-free-arctic-new-research-warns-accelerated-timelines
‘Ominous milestone for the planet’: Arctic Ocean’s 1st ice-free day could be just 3 years away, alarming study finds
https://www.livescience.com/planet-earth/arctic/ominous-milestone-for-the-planet-arctic-oceans-1st-ice-free-day-could-be-just-3-years-away-alarming-study-finds
元論文
The first ice-free day in the Arctic Ocean could occur before 2030
https://doi.org/10.1038/s41467-024-54508-3
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部