相手の指の長さを見るだけで「酒飲み」かどうか当てられるかもしれません。
英スウォンジー大学(SU)とポーランド・ロッツ医科大学(Medical University of Lodz)はこのほど、手の人差し指よりも薬指の方が長い場合、日常的なアルコール摂取量が高くなるという関連性を見つけたと発表しました。
これは出生前に男性ホルモンをどれだけ浴びたかと関係しているようです。
研究の詳細は2024年11月11日付けで科学雑誌『American Journal of Human Biology』に掲載されています。
目次
- 男性ホルモンが多いと「酒飲み」になる?
- 人差し指より薬指が長いと「酒飲み」になりやすかった
男性ホルモンが多いと「酒飲み」になる?
私たちヒトは出生前の胎児の発達段階で、性ステロイドホルモンの影響を受けています。
例えば、男児では発達中の精巣から男性ホルモンである「テストステロン」が分泌され、脳や身体の成長に作用します。
一方の女児では主に母体や胎盤を介して女性ホルモンである「エストロゲン」の作用を受けています。
このように男児ではテストステロンの影響を受けやすく、女児ではエストロゲンの影響を受けやすい傾向がありますが、性別ごとに分泌できる性ホルモンが限定されているわけではありません。
男児でもテストステロンがエストロゲンへと変換されますし、女児でも卵巣から男性ホルモンであるテストステロンを分泌することが可能です。
ただそれぞれの性ホルモンの濃度差によって、性格や行動、身体に個人差が出ることはよく知られています。
その一つとして挙げられるのが、男性ホルモンであるテストステロン値が高いほど、アルコール摂取量が多くなりやすいことです。
南デンマーク大学(SDU)による2014年の研究でも、そのことが示されています。
この研究では、一般の若年男性6472名を調べたところ、テストステロン値が高い男性ほど、日常的なアルコール摂取量が有意に多くなっていることがわかったのです(Human Reproduction, 2014)。
テストステロンの多さはリスク追求傾向や自己制御能力に関連しており、テストステロン値が高い人は「過剰なアルコール摂取」といったリスク行動を取りやすくなるのだと指摘されています。
ここで注意すべき点は、テストステロン値が高く、アルコール摂取量が多いからといって「お酒に強いわけではない」という点です。
お酒をいくら飲んでも酔わない体質はまた別の話であって、テストステロン値とはあまり関係していません。
ですからテストステロン値が高く、アルコール摂取量が多い人は、暴飲に関連した疾患の発症率や死亡率も高くなると考えられています。
そしてもう一つ、テストステロンの多さが影響を及ぼす場所があります。
それが「薬指の長さ」です。
人差し指より薬指が長いと「酒飲み」になりやすかった
これまでの研究で、出生前に男性ホルモンのテストステロンに多く晒されていると、出生後に人差し指より薬指の方が長くなりやすいことがわかっています。
この「人差し指」と「薬指」の長さの比率を指し示したものが「2D:4D比」です。
人差し指は2番目の指(2nd digit)だから2D、薬指は4番目の指(4th digit)だから4Dと呼ばれます。
指の長さは出生前にどれだけの性ホルモンを浴びたかに左右されており、男性ホルモンのテストステロンを多く浴びた場合、薬指の成長がより強く促され、女性ホルモンのエストロゲンを多く浴びた場合、人差し指の成長がより強く促されます。
ですから、一般的には男性の方が人差し指よりも薬指の方が長くなりやすく、女性の方が薬指よりも人差し指の方が長くなりやすい傾向があります。
ただし全員が全員そうではありません。
男性でも人差し指の方が長い人もいれば、女性でも薬指の方が長い人もいます。
これらを踏まえて、スウォンジー大学らの研究者たちは次の仮説が成り立つと考えました。
つまり「テストステロン値が高いほど、アルコール摂取量が多いのであれば、人差し指より薬指が長い人ほど、酒飲みになりやすいのではないか」ということです。
そこで研究チームは今回、ポーランドの大学生258名(169名が女性、89名が男性)を対象に「2D:4D比」と「アルコール摂取量」との相関関係を調べてみました。
そしてデータ分析の結果、チームの予想通り、人差し指より薬指が長い人ほど、アルコール摂取量が有意に多くなっていることが判明したのです。
その傾向はやはり、テストステロン値が高くなりやすい男性に顕著に見られ、全体として見ても、女性より男性の方が平均的なアルコール摂取量が多くなっていました。
ただ先ほども言ったように、アルコール摂取量の多さとアルコール耐性の強さとは関係しておらず、お酒をよく飲むからといってお酒に強いわけではありません。
この結果を受けてチームは、薬指の長さがリスクのある飲酒行動やそれに関連する疾患の発症を予測する一つの指標になりうると考えています。
それから当然のことですが、人差し指より薬指の方が長いからといって、必ず酒飲みになるわけでもありません。
皆さんの中にも、人差し指の方が長いけど「俺、ガンガン酒飲むよ」という人もいれば、逆に薬指の方が長いのに「お酒は一滴も飲みませんが… 」という人もいるはずです。
なので、指の長さは酒飲みかどうかを当てる一つの目安として見るのがいいでしょう。
友人や会社仲間で集まって、本当に薬指の長い人が大酒飲みなのかどうか統計を取っているのも面白いかもしれません。
参考文献
How long ring fingers can point to a love of alcohol
https://www.swansea.ac.uk/press-office/news-events/news/2024/11/how-long-ring-fingers-can-point-to-a-love-of-alcohol.php
元論文
Is Alcohol Consumption Pattern Dependent on Prenatal Sex-Steroids? A Digit Ratio (2D:4D) Study Among University Students
https://doi.org/10.1002/ajhb.24187
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部