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稲妻の軌跡が刻まれる美しも危険な現象「リヒテンベルク図形」


このGIFに示される現象は、アクリルなどの絶縁体に高電圧を加えることで「リヒテンベルク図形」と呼ばれる複雑な模様が生じる現象です。ハンマーでアクリル板を叩くことにより、絶縁破壊が起きます。これは、土や木の根のような放電パターンを生成する過程です。絶縁破壊は電子なだれ効果によるもので、一度電子が自由になると、次々と電子を弾き出して観察される樹状パターンを形成します。放電後も残留電荷による小さな放電が発生します。こうした現象は、高電圧を利用した危険な実験であり、慎重な取り扱いが必要です。また、木材に高電圧をかけてリヒテンベルク図形を描く手法が問題になっています。


via GIFER


ハンマーでガラス板の上部を叩くと、パッと木の根のような模様が広がり、その枝の間をパリパリと電光が走る。


このGIFに映されている現象は一体なんでしょうか?


なんでこんな模様が一瞬でできるの? 最後小さい雷みたいな電気がバリバリ飛んでいるのはなんなの?


この画像を見ていると気になる部分が色々あります。気になるけど説明のないことが多いGIF画像の中で何が起きているのかを説明していきます。




目次



  • 映っているのは絶縁破壊による「リヒテンベルク図形」
  • 不思議な図形を作っているのは電子なだれ

映っているのは絶縁破壊による「リヒテンベルク図形」


このGIFが示しているのは電気放電の可視化として有名な実験です。


絶縁体である透明なアクリルボードやポリカーボネートなどに高電圧で傷をつけると、そこを起点に連鎖的に電子が飛んでアクリル内に傷を付け、放電の経路や分岐パターンが描かれます。


木の根のようなすごい模様ができていますが、これは固体・液体・気体に限らず、絶縁体を電気が破壊しながら進行したときに現れる放電のパターンで、リヒテンベルク図形と呼ばれています。


雷が空気中を移動するときもこのような形になりますし、雷に打たれた人の体にも、このような傷跡が残ります。


画像
落雷によって雷痕が刻まれた被害者の腕/glenallenweather.com

なんでこんな模様になるの? という疑問が浮かびますがここには電子なだれという現象が関係しています。


そのきっかけになっているのが、今回の場合はハンマーです。


不思議な図形を作っているのは電子なだれ


画像
Credit:Science experiment. Trapping lightning inside a box.,Ekrem Arslan

GIFではアクリルボードの上部に青い棒のようなものを当てていますが、これは陰極(マイナス極)で、アクリルボードの下側に陽極があります。


別の動画で見ると、この図形が描かれるときハンマーでアクリルボードの上部を殴っているのがわかります。


「なんでハンマーで殴ってるの?」という疑問が湧いてくる人も多いと思いますが、これはアクリルボードに傷を付けることが目的です。


絶縁体は、電気を通さない物質なので、基本的には電圧を掛けても通電しません。


しかし、何らかのきっかけがあると絶縁破壊を起こして一気に電子が内部を流れ出します。


絶縁破壊はイメージ的にはスリップに近い現象です。


バイクや自転車もタイヤの摩擦力が働いている間は、走行中に車体を傾けても転びませんが、路面の状況や過度に力が加わった場合はツルッと滑って転んでしまいます。


そして一度滑ってしまうと、もう立て直すことはできません。摩擦が耐えられなくなってツルッと滑るように、放電現象の場合は電気抵抗が耐えきれなくなり絶縁破壊が起きると連鎖的に通電してしまうのです。


バイクもタイヤと路面の摩擦力が耐えきれない力が加わると滑ってしまう
バイクもタイヤと路面の摩擦力が耐えきれない力が加わると滑ってしまう / Credit:canva

ここではアクリルボードを物理的に破損させることが、絶縁破壊のきっかけとなっています。


ハンマーの衝撃によって、アクリル内部に微細な亀裂が生じると、ここに電子なだれという現象が発生します。


電子なだれというのは、飛び出した電子が原子に当たってそこから更に新しい電子が飛び出していくという現象です。


青い玉を原子として表現している。電子は陽極に向かって飛ぶ。これは電圧が高ければ高いほど勢いを増す。
青い玉を原子として表現している。電子は陽極に向かって飛ぶ。これは電圧が高ければ高いほど勢いを増す。 / Credit:ナゾロジー編集部,canva

固体の中で電子は原子に束縛されていて、自由に動くことができません。


しかし、何らかのきっかけで自由電子が飛び出すと、掛かっている電圧によって電子は加速され、他の原子に勢いよく衝突します。


この状況を再現しているのが、電圧をかけた状態でハンマーで殴るというGIFの映像です。


一旦絶縁破壊が始まると樹状の模様ができる理由も、上の図を見ると分かると思います。


飛び出した電子が高速で原子にぶつかり新たな電子を押し出すことでどんどん電子が増えていきます。これが放射状にどんどん広がっていくので、木の根のようなパターンになるのです。


最後にバリバリと小さな雷が飛んでいますが、これは主放電後、アクリル内に残された電荷による二次的な放電現象だと考えられます。


残留電荷によって微小な領域に電界が形成され、これが十分に強くなると小規模な放電が発生します。これが「細い雷のような小さな電気の光」として観察されているのです。


この電界は徐々に弱まっていくので、しばらく経つと消えてしまいます。


一度現象の名前を知ってしまえば、動画でも同じような実験の様子を簡単に見つけ出して、より詳細に見ることができるでしょう。



こうした放電パターンの形成過程の観察は、絶縁材料の性能や劣化メカニズムを研究したり、雷などの自然現象を理解するのに役立ちます。


ただこれは高電圧を利用した、非常に危険な実験であるということはよく覚えておきましょう。


海外ではこのリヒテンベルク図形を、木材に高電圧を掛けることで描く方法が一部で流行っていしまい問題になっているようです。



via GIFER


これは「フラクタル木材燃焼(fractal wood burning)」という呼び名で、電子レンジを利用したやり方が動画解説されており、安易に真似た人が指を吹き飛ばしたり、死亡者もでていると報告されています


上の画像でも、木に刻まれた模様が繋がった瞬間激しいスパークが飛んでいるのがわかります。これは高電圧がショートした状況なので非常に危険です。


動画映えもする見た目は美しい現象ですが、素人は見て楽しむだけに留めておくようにしましょう。




全ての画像を見る

参考文献

What are Lichtenberg figures, and how do we make them?
https://capturedlightning.com/frames/lichtenbergs.html

4-3. 絶縁破壊のプロセス(絶縁と絶縁破壊)-東京電力ホールディングス株式会社
https://youtu.be/_3Cb8RR70gY?si=TNF7PXUkzbmyHGQx

ライター

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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