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【若者の充実離れ】若者の退屈感がこの10年間で急増している


現代はコンテンツが溢れかえっているにも関わらず、多くの人々が退屈を感じる現象について、トロント大学の研究が注目しています。アメリカと中国の若者たちを対象にした調査によれば、過去10年間で彼らの退屈感が急増しました。その理由として、デジタルメディアにより刺激に慣れ過ぎたこと、注意が分散し集中力が欠如したこと、そして断片的な情報が増えたことが挙げられています。研究は、こうした多くの刺激に慣れたため、従来の長編コンテンツから得られる満足感が減少し、人々がますます断片的な情報に依存するようになったと指摘しています。

ほんの十数年前に比べて、現代は簡単にアクセスできるコンテンツが溢れかえっています。

ゲームも漫画も映画も、ネットで見放題、遊び放題が当たり前です。面白い動画も毎日配信されています。

私たちが退屈を感じる間など、もはやないと言っていいでしょう。

であるにも関わらず、人々はまったく真逆の感覚を抱いているようです。

カナダのトロント大学(University of Toronto)心理学部に所属するケイティ・YY・タム氏ら研究チームは、アメリカと中国の学生を調査し、過去10年間で若者たちの間で退屈感が急増していることを報告しました。

コンテンツに溢れた時代を生きているというのに、現代の若者はいつも退屈しているというのです。

それは大人たちも同様かもしれません。

なぜ、デジタルメディアが溢れているのに、現代の人々は昔より退屈しているのでしょうか。この問題に対する研究チームの考えを解説します。

研究の詳細は、2024年11月3日付の学術誌『Communications Psychology』に掲載されました。

目次

  • デジタルメディアが溢れる時代で退屈を感じる若者たち
  • 刺激に慣れる
  • 集中力の欠如
  • 繋がりのない体験

デジタルメディアが溢れる時代で退屈を感じる若者たち

何世紀も前、人々は退屈すると、ただ窓の外を眺めたり、誰かとおしゃべりしたり、本を読んだりしました。

テレビが登場すると、人々は熱中し、家族全員で楽しむようになりました。

さらにゲームが登場すると、「時間が足りない」と感じるほど、大人も子供ものめり込みました。

だからこそ、デジタルメディアに溢れた現代では、人々は退屈することが無いように思えます。

サブスクで見放題の映画や漫画、動画共有サイトに無限にアップされる動画やライブ配信、アプリ画面のスクロールで次々と表示されるショート動画、毎日新作が登場するアプリゲーム、いつでも誰かと対戦できる多種多様なオンラインゲームなど、暇を埋めるためのコンテンツはいくらでもあるからです。

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過去10年で若者たちの退屈感が強まっている / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

しかしタム氏ら研究チームのアメリカと中国における調査では、2009年から2020年で、特に若者の間で退屈感が急増していると判明しました。

調査対象となったアメリカの中高生(10万人以上)や中国の大学生(2万8000人以上)は、「退屈することが多い」とアンケートに答えており、退屈を感じる傾向が過去10年間で急増していることが分かりました。

学生以上の年齢層の人々でも、同じく退屈に感じている人が多いはずです。

では、どうして人々は退屈になってしまったのでしょうか。

その理由について、タム氏ら研究チームは、デジタルメディアに潜む3つの原因を提示しています。

刺激に慣れる

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人々はデジタルメディアがもたらす刺激に慣れてしまった / Credit:Canva

現代の人々が退屈する理由の1つは、デジタルメディアが次々に提供する刺激にあると考えられます。

現代では、指で画面をスクロールするだけで、またマウスを少し動かすだけで、次々と新しいコンテンツが得られます。

刺激的な文章、刺激的な画像、刺激的な動画を絶え間なく入手できるのです。

人間はこうした刺激を受けた時に、脳の報酬系が活性化します。

ドーパミンが分泌され、同様の行為を繰り返したくなります。

しかし同じ刺激が繰り返されると、脳はドーパミンに対して鈍感になり、快楽を得るためにより多くの刺激を求めるようになります。

刺激的なコンテンツを簡単に絶え間なく入手できるからこそ、私たちは刺激に慣れてしまい、退屈するのです。

そしてコンテンツ自体も、長い動画ではなくショート動画など、すぐに刺激が得られるものが増えました。

だからこそ、この溢れるほどの刺激(コンテンツ)の中で育った若者は、一層退屈を感じています。

彼らは「即座に得られる快楽」に慣れきってしまい、本を読んだり、静かに座って景色を眺めたりする「刺激が少ない有意義な活動」を楽しめなくなっているのです。

そしてこのような傾向は、私たちの集中力を欠如させてきました。

集中力の欠如

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特定のコンテンツに集中できない人が急増 / Credit:Canva

現代の人々が退屈するもう1つの理由は、集中力の欠如です。

私たちの身の回りには、デジタルメディアが溢れるほど存在するため、注意が分散し、1つのコンテンツに集中することが難しくなっています。

例えば、ドラマや映画を見始めた5分後には、スマホをいじり出している自分に気づくことがあるかもしれません。

動画を流しながら、ゲームをしたりネットサーフィンをしたりするのは当たり前になっているかもしれません。

また、スマホから頻繁に来るチャットの通知で、コンテンツを楽しむ時間が度々中断されることもあるでしょう。

このようなマルチタスクは、私たちから1つのコンテンツを集中して楽しむ機会と能力を奪っており、これが満足度の低下や退屈へと繋がっていきます。

実際、研究では、スマホを自分の近くに置いておくだけで、対面での社会的交流の楽しみが低下し、退屈感が強まると分かっています。

タム氏の2024年の別の研究は、チャンネルを次々に切り替える行為が人々の退屈感を増長させると報告しており、やはり1つのコンテンツを集中して楽しめないことが退屈と関連しているようです。

「何しても楽しくない」退屈な日々を一気に楽しくする”簡単な方法”

そして、それら短く断片的な情報は、私たちをさらに退屈させます。

繋がりのない体験

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断片的な情報を大量に得ても、そこに意味の繋がりはなく、満足感も得られない / Credit:Canva

研究チームは、現代の人々が退屈を感じる3つ目のメカニズムとして、「断片的な情報や体験の増加」を挙げています。

デジタルメディアが増加するにつれて、消費が早くなり、人々は手早く刺激を得られるコンテンツを求めるようになりました。

その結果、コンテンツの作り手は、ショート動画などの「短く」「衝撃が大きい」コンテンツをこぞって生み出すようになりました。

しかし研究によると、人々は関連性のない「断片的な情報」を素早く消費した後、それらを無意味に感じ、虚無感を覚えることが多いようです。

そしてこの「虚無感」は、さらに別のコンテンツを消費するよう人々を駆り立てます。

では、たとえ「断片的な情報」でも、それらを大量に寄せ集めるなら、私たちは満足できるのでしょうか。

その答えは、ショート動画を1時間もしくは2時間見続けてしまった後の私たちがよく知っています。

その行為に何の意味も見いだせず、ただただ「時間を無駄にしてしまった」と後悔するだけです。

私たちが心から満足するためには、「意味の繋がり」が大切だと分かります。

1つの長編映画や小説、ゲームを最初から最後までじっくり楽しむことで、一貫性のある体験が得られ、そこに満足感が生まれるのです。

さらにそこから様々な考察を楽しむこともあるでしょう。

しかし、現代のデジタルメディアの傾向は、そのような一貫した体験を私たちから引き離しています。

タム氏らの今回の論文は、デジタルメディアが無限の刺激を私たちに提供する一方で、退屈感を強めている理由を説明しています。

ほんの十数年ほど前、私たちは今ほど毎日が退屈ではありませんでした。

1つのゲームを舐めるように楽しみ、クリア後も裏ボスを倒したり図鑑を埋めたりするのに必死でした。

1つの映画を見る間、1つの小説を読む間、私たちはその世界にどっぷりと浸かり、その世界の住人となっていました。見終わったあとも1週間くらい、ずっとその世界のことを考えて、その世界に浸っていられました。

けれど今、私たちはそれが出来ているでしょうか?

私たちはデジタルメディアが溢れる世の中で生活しているからこそ、片っ端からそれらを楽しまないと損してしまうという気持ちに囚われがちです。

しかし、本当に損しているのは、溢れるコンテンツを片っ端から楽しむことなのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Research suggests people are getting more bored
https://www.psypost.org/research-suggests-people-are-getting-more-bored/

Endless digital media was supposed to cure boredom forever — except the opposite is true
https://www.zmescience.com/science/news-science/people-are-getting-bored/

元論文

People are increasingly bored in our digital age
https://doi.org/10.1038/s44271-024-00155-9

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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