自分や家族が重い病気で悩んでいる時に、医師からの温かい言葉に勇気づけられた人は少なくありません。
その一方で、「医師の一言にひどく傷つけられた」と感じたことのある人もいるでしょう。
最近、アメリカのテキサスA&M大学(A&M)に所属するレナード・L・ベリー氏ら研究チームは、医師が重病の患者に対して絶対に使用してはいけない言葉を特定しました。
「もう治りません」「回復することはないでしょう」などの言葉は使うべきではありませんが、研究チームは、これら以外にも患者と家族をがっかりさせる言葉を見つけました。
そのNGワードの代わりに何を言うべきか知っておくことは、医師だけでなく、重病患者の家族や友人にも必要なことです。
研究の詳細は2024年8月20日付の学術誌『Mayo Clinic Proceedings』に掲載されました。
目次
- 重病患者とその家族に「絶対に使用してはいけない言葉」とは?
- 言われたことがある?「無意識に言ってしまいそうなNGワード」
重病患者とその家族に「絶対に使用してはいけない言葉」とは?
病気を治療するための技術は急速に進歩してきたため、以前に比べて救える命は増えました。
しかし時代を越えても変わらないものがあります。
それは重病を抱える患者とその家族が、大きなプレッシャーを抱え、不安や恐怖に苛まれるということです。
どんなに医療が進歩したとしても、私たちの心は変わらないのです。
だからこそ、医師が患者とその家族にどんな言葉をかけるか考慮することは大切なことです。
何気ない一言が、彼らを絶望に叩き落すことがあるからです。
逆に「医師から温かい言葉をかけてもらった」と感じた本人や家族は、治療が思い通りに進まなかったとしても、諦めずに治療を続けることができます。
たとえ悲しい結果に終わったとしても、その気遣いに溢れた言葉は彼らが立ち直るのを早めてくれるのです。
そこで今回、ベリー氏ら研究チームは、臨床医20名を対象に、重病の患者に決して使用しない言葉やフレーズがあるかどうか、アンケート調査しました。
また、そのNGワードの代わりにどんな言葉を使用すべきかも尋ねました。
その結果、研究チームは、医師が使用すべきでない言葉を特定しました。
例えば、患者や家族に対して、「私たちにできることは他に何もありません」と言ってはいけません。
代わりに医師はこう言うべきです。
「この治療は効果がありませんでしたが、症状を改善するチャンスはまだあります」
治癒の見込みがない場合でも、臨床医には患者をできる限り助ける能力があることを伝えてあげるべきなのです。
同じように、家族に対して「彼(彼女)は、もう回復しないでしょう」と言うべきではありません。
代わりに、「彼(彼女)が、このまま良くならないのではないかと心配しています」と伝えられます。
ネガティブなことについて断定的に話すのではなく、懸念を伝えるような表現に置き換えるべきなのです。
もちろん医師たちの多くは、これら無慈悲な言葉をなるべく使わないよう意識しているはずです。
しかし今回の研究では、思わず言ってしまいそうなNGワードも特定されています。
言われたことがある?「無意識に言ってしまいそうなNGワード」
医師たちが何気なく発する言葉も、それがNGワードである場合があります。
例えば、「病気と闘いましょう」というフレーズは良くありません。
なぜなら、「闘う」という言葉を使うことで、患者に「強い意志があれば病気を克服できる」とほのめかすことになるからです。
それにより、患者や家族は、「私(または彼)が、もっと頑張っていたら病気に勝てたのに」とがっかりしてしまう恐れがあります。
代わりに医師は、「この難しい病気に、一緒に立ち向かいましょう」と言ってあげられます。
また患者が意思表示できないケースで、家族に「彼(彼女)は、どんな治療を望むと思いますか?」と尋ねるのもよくありません。
なぜなら「望む」という言葉は、病院では定義が曖昧な場合が多く、家族は「本人が望むこと」を推測するのが難しいからです。
そのため、「望む」という言葉を使わずに、「もし、彼がこの話を聞いていたら、何を考えると思いますか?」と言ってあげるべきです。
また、セカンドオピニオンを求めにきた患者や家族に対して、たとえこれまでの対応が悪いように感じても、「他の医師は、一体何をやっていたのだ!」と言ってはいけません。
医師はいつでも「できること」に焦点を合わせるべきだからです。
他の専門家たちを非難するのではなく、患者を治療するために彼らとの協力が必要だと考えます。
そのため、他の医師を非難せず、前向きな言葉を使いましょう。
「セカンドオピニオンを求めに来てくれて嬉しいです。次に何をすべきか考えましょう」と言えたなら最高です。
さらに、患者に対して「なぜもっと早く来院しなかったのですか!」なんて言ってはいけません。
患者を責めたところで、症状が改善することはないからです。
むしろ、「現状で何が最善か」に焦点を当てて話し合うべきです。
ちなみにがん患者に対しては、「今はまだ心配しなくていいよ」という言葉もNGです。
なぜなら患者の懸念に対して何も答えておらず、彼らの不安な気持ちを軽視しているからです。
これ以外にも、医師が使うべきでない言葉はあります。
全体的に意識すべき点として、研究チームは「医師は患者を怖がらせたり、不快にさせたり、主体性を失わせたりする言葉や表現を認識し、これらを無意識に使用しないよう気をつけるべきです」と述べました。
医療が進歩しても患者や家族の不安な気持ちが変わらないからこそ、医師たちがいつもこの点を意識することは大切でしょう。
また医師ではなくとも、友人や家族に投げかけた何気ない一言が、彼らを不安にさせたり、がっかりさせたりすることがあるものです。
私たちは皆、自分の言葉が相手にどんな影響を与えるのか、一度立ち止まって考えるべきなのかもしれません。
参考文献
New Study Identifies “Never Words” That Doctors Should Always Avoid Using
https://scitechdaily.com/new-study-identifies-never-words-that-doctors-should-always-avoid-using/
元論文
Never-Words: What Not to Say to Patients With Serious Illness
https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2024.05.011
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部