働いた後やお風呂上がりのキンキンに冷えたビールは最高です。
缶のまま飲んでも美味しいですが、グラスに注いだビールは格別でしょう。
そんな最高のひと時を、少しでも長く楽しむ方法はあるでしょうか。
ブラジルのサンジョアンデルレイ連邦大学(UFSJ)に所属するクラウディオ・C・ペレグリーニ氏は、数あるグラスのデザインの中から、最もビールを冷たく保持できる形を科学的に特定しました。
研究の詳細は、2024年10月15日付で、プレプリントサーバ『arXiv』にて発表されました。
目次
- 最後までキンキンに冷えたビールを楽しむには?最適なグラスの形状を探る研究
- ビールを冷たいまま飲むための「最適なグラスの形状」が判明
最後までキンキンに冷えたビールを楽しむには?最適なグラスの形状を探る研究
キンキンに冷えたビールを喉に流し込む瞬間ほど最高なものはありません。
しかし、食事やおつまみを楽しみながら飲み進めていくうちに、グラスの中のビールはだんだんとぬるくなってきます。
ビールがぬるくなったり気が抜けたりすると、私たちの苦みや香りの感じ方が変わります。
それを「不味い」と思う人も少なくありません。
では、グラスに注いだビールをできるだけ長く冷たいまま楽しむ方法はあるでしょうか。
ペレグリーニ氏は、グラスには様々な種類が存在することに着目し、どんな形状のグラスであれば、ビールの冷たさを保ちやすいか科学的に調べることにしました。
近年では、ステンレスと真空断熱を利用した保温性能の高いタンブラーグラスなどが人気ですが、今回の研究では、素材をガラスに限定し、形状と熱伝導率の関係を分析しています。
分析の対象となったのは、実際に、世界中でビールを飲む時に使用されている様々な形状のグラスです。
例えば、飲み口が狭く胴体部分が広がっている「チューリップグラス」、取っ手の付いた広口の「ビールジョッキ」、背が高く根本がくびれたような「ヴァイツェングラス」、飲み口が広くて下に行くほど狭くなっていく「パイントグラス」などです。
ペレグリーニ氏は、これらのグラスの表面積と体積の比率を最適化し、より熱伝導を遅くする形状を探しました。
ちなみに、今回の研究では、「グラスの底部が断熱されており、熱移動は上部と側面からのみ発生する」と想定しています。
では、この実験で明らかになった「ビールを冷たく保つのに最適な形状」とは何でしょうか。
ビールを冷たいまま飲むための「最適なグラスの形状」が判明
分析の結果、ペレグリーニ氏は、飲み口が広く、底に向かって徐々に狭くなるグラスの形が冷たさを保つのに最適であることを発見しました。
この結果は、飲み進めるうちにビールの量が減っていくことも考慮されています。
飲み口ではビールと空気が接しており、そこから熱が移動しやすくなります。
しかし、底に向かって狭くなる形状であれば、飲み進めるうちに空気と接するビールの表面積が減少し、ぬるくなる速度が遅くなります。
多くの人はビールが到着するとすぐにゴクゴクと飲み始め、時間が経つにつれて飲むペースが落ちていきます。
だからこそ、そのような後半で空気と接するビールの表面積が減少するグラス形状であれば、最後まで冷たさを保ちやすくなるのです。
ヴァイツェングラス、ピルスナーグラスなどは、この理想的な形状に近いものです。
パイントグラスも理想的な形に近いものの、直線的で変化が小さいので、もう少し飲み口が広く、底が狭い方が良いと言えます。
ペレグリーニ氏は、これら伝統的なグラスが冷たさを保つ上で理にかなった形状をしていることについて、「偶然ではない」と考えています。
グラスの作り手たちが、意識的か無意識的かは分かりませんが、長い歴史の中で、熱伝導を最小限に抑え、より長く美味しいと感じるようなデザインへと進化させてきたというのです。
ちなみにこの研究では、既存のデザインで最適なグラスがどれかという議論もしています。
現代では様々な形状のグラスが販売されているため、様々な店に出向いて、これら理想的なデザインに近いものを探すのも楽しいでしょう。
ペレグリーニ氏はこうした議論の中で、「ビールを冷たいまま飲む」上でような下図のようなグラスを使用すれば、ほとんどの人は、ビールを最後まで冷たい状態で飲むことができるようだと述べています。
ペレグリーニ氏は、最初に製造した企業の名前からこのタイプのグラスを「ナディール・フィゲイレド・グラス(Nadir Figueiredo glass)」と呼んでいます。
このグラスは、ブラジルでビールを飲むのに最も広く使用されており、これまでに60億個以上製造されてきました。
しかしこれは、形状によって冷たさを保たさせているのではありません。
容量が小さく(190ml)、一口、二口で飲み干せるため、ぬるくなる前にビールが消費されるだけなのです。
そのためペレグリーニ氏は結果に反して「そのような醜い飲み方では、ビールを飲む意味が全くない」と主張しています。
なので、ある意味このグラスは最適解の1つと言えそうですが、今回の研究の趣旨から見るとこのグラスは例外になるようです。
ビールの飲み方に関する考えは様々ですが、少なくともペレグリーニ氏と同じ意見であれば、ある程度の容量があり、その上で飲み口が広くて底が狭いグラスを探すべきなのでしょう。
参考文献
A Brazilian Scientist Just Discovered the Perfect Beer Glass to Keep Your Drink Cold Longer — And It’s Not A Pint
https://www.zmescience.com/science/news-science/perfect-beer-glass-shape-cold-beer/
Professor calculates optimal glass shape for preserving chill in beer glasses
https://phys.org/news/2024-10-professor-optimal-glass-chill-beer.html
元論文
Optimizing Beer Glass Shapes to Minimize Heat Transfer —New Results
https://doi.org/10.48550/arXiv.2410.12043
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部