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生命エネルギーの基礎は地球の地熱システムをコピペして作られた


理化学研究所の研究によれば、生命がエネルギーを生成する際の仕組みは、地球の深海熱水噴出孔のシステムを模倣した可能性があることが示されています。熱水噴出孔は、濃度差を利用してイオンを選択的に輸送し、エネルギーを生み出しており、これは現存する生命のエネルギー生成法と類似しています。ナノスケールの細孔を持つ熱水噴出孔の壁がイオンを選択的に通過させ、電位差を生み出すという基本原理が明らかになり、この現象は、深海環境で自然に発生するエネルギー変換プロセスとして重要視されています。この発見は生命の起源解明に寄与しうるとされています。

生命は地熱の仕組みをコピペしたのかもしれません。

理化学研究所(理研)で行われた研究により熱水噴出孔の中には、イオンを選択的に運ぶための小さな通路が存在し、熱水噴出孔が発電していることが明らかになりました。

イオンの濃度差を利用した発電は、生命がエネルギーを生成する際に利用している仕組みですが、その洗練された仕組みの起源は謎でした。

しかし新たな発見は現在の生命たちが採用しているこの仕組みが、実は熱水噴出孔(HV)の仕組みをコピーしたものである可能性を示しています。

生命にとって母なる地球は単に誕生の場であるだけでなく、生命システムのコピー元でもあるのかもしれません。

この研究の詳細は、2024年9月25日付の『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • 深海の浸透圧発電システム
  • 生命誕生のための天然の化学合成装置
  • ナノリアクター

深海の浸透圧発電システム

細胞は、膜を通じてイオンを選択的に輸送し、このイオン勾配からエネルギーを得ています。

この原理は、海洋と河川の境界での塩分濃度の勾配を利用した浸透圧発電にも応用されています。

どちらも共通して、エネルギーを変換するために複雑なナノスケールの構造が必要です。

深海熱水噴出孔(HV)において浸透圧発電が起こる理由は、以下のとおりです。

HV沈殿物には、下図に示すように層状の水酸化物のナノ結晶が整然と並び、壁内部にナノスケールの細孔(多孔質や多孔質材料が持つ微細な空孔)を形成しています。

海水には、塩(主に塩化ナトリウム)が溶けていて、これがナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)に分かれています。

深海熱水噴出孔では、周囲の海水(低濃度)とHVの壁内部を通過する高濃度の海水との間に濃度勾配が生じています。

ナノスケールの細孔を持つHVの壁は、選択的透過膜として機能し、特定のイオン(例:Na)だけを通過させますが、他のイオン(Clなど)や水分子を通過させません。

これにより、ナトリウムイオンはHVの壁(細孔)を通過し、高濃度の海水から低濃度の海水へと拡散によって移動します。

イオンは正または負の電荷を持っているため、イオンの移動が続くとHVの壁(細孔)の片側に正電荷がたまり、もう一方には負電荷がたまります。

このようにして、HVの壁(細孔)の両側に電荷の差(電位差)が生じます。

以上から、深海の蛇紋岩を主成分とする深海熱水噴出孔(HV)の壁(細孔)が、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等を選択的に輸送し、これらのイオン勾配を電気化学的エネルギーに変換していると考えられています。

この現象が、自然の地質環境に存在する流れや濃度勾配により浸透圧エネルギーを自発的に変換するしくみです。

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a:採取したHV沈殿物サンプルの写真、b:HVの垂直断面画像、c:水平断面の交差偏光光学顕微鏡画像。水平断面画像では、噴気流路とHV壁の周期的な線状パターンがそれぞれ黄色の星印と赤い矢印で示されている。d~g は HV断片の自然に割れたSEM画像。/ Credit : Hye-Eun Lee et al., Nature Communications(2024)

ここで、HVの内部構造を詳細に見ていきましょう。

HVの内部は非常に複雑な構造を持っており、主に「ブルーサイト」という鉱物で構成されています。

このブルーサイトはナノスケールの結晶から成り立ち、柱状の構造が層を成していることが確認されました。

これらのナノ結晶は、互いに連結しながらナノサイズの細孔(2~100ナノメートル)を形成しています。

ナノ細孔は、流体が通る流路を作り、その流路の表面には、ブルーサイトのナノ結晶が整然と並んでいるのです。この細孔構造は、外部環境から様々なイオンを取り込む役割を果たしています。

HV内のナノ結晶の整列は、X線回折法を用いて解析されました。

その結果、ブルーサイト結晶面が一定の方向に並んでおり、この配列がHV全体にわたって持続していることが分かりました。

この整列は、ナノスケールからミリメートルのスケールに至るまで観察され、流路周辺で同心円状に配列していることが示されました(下図参照)。

これにより、HVは長距離にわたって規則正しい構造を持っていることが明らかになったのです。

ブルーサイトは、周囲の環境に応じて表面に様々なイオンを吸着します。

特に、炭酸イオンやカルシウムイオンがHV表面に吸着することで、表面の電荷が大きく変化します。

この表面電荷の変動は、ナノ細孔内のイオン輸送に重要な影響を与えます。

実験では、ブルーサイトにK+やCa2+など多種多様なイオンを吸着する能力があることが確認されました。

また、HVの表面の電位差は、吸着するイオンによって±30ミリボルト程度まで変動し、これがイオン輸送のメカニズムに直接関与していることが示されました。

HVのナノ細孔とその表面電荷は、浸透圧エネルギー変換においても重要な役割を果たします。

これは、海水と河川水の塩分濃度差からエネルギーを取り出すシステムに応用できる技術です。

実際に、HV試料を用いてKCl溶液間の濃度勾配から発電を行ったところ、HVは浸透圧エネルギーを電気エネルギーに変換できることが確認されました。

HVのナノ細孔がイオン選択的な輸送を行い、外部のイオン濃度に応じた電流を生成するため、エネルギー変換において効率的な材料となる可能性が示されたのです。

本研究により、HVの複雑なナノ構造とそのエネルギー変換の可能性が明らかになりました。

HVは、規則正しいナノ細孔を持ち、多様なイオンを吸着する性質を持つため、浸透圧エネルギー変換の分野で応用される可能性があります。

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a:測定に使用したHV試料の写真、b:HV試料の電流-電圧応答を測定するための実験の設定、c:HV試料の電気伝導度(pH10におけるKCl濃度の関数)d:ブルーサイトの多層構造、ナノメートルレベルの板状ナノ結晶スタック、ミリメートルレベルまで伸びる放射状配列構造からなるHV無機壁の連続配置を示す模式図。この構成により連続チャンネルが形成され、HV壁はイオン輸送のための選択的透過膜として機能します。e:浸透圧発電を示す模式図。選択膜として機能するHV壁は、高濃度から低濃度へのイオンの選択的な移動を可能にし、イオン電流を発生させます。/ Credit : Hye-Eun Lee et al., Nature Communications(2024)

生命誕生のための天然の化学合成装置

今回の研究では、地球の地下深くにある蛇紋岩という鉱物に、非常に重要な役割を持つ自己組織化現象が発見されました。

この発見は、地球上での生命の起源やエネルギー変換に関わる重要なヒントを提供するものです。

具体的には、HVという鉱物の特殊な構造とエネルギー変換能力が、地球化学的な反応によって自然に形成されていることが明らかになりました。

このHVには、ナノサイズの孔が無数に存在し、これが選択的にイオンを輸送するための流路として機能しています。

この流路形成の背景には、化学反応と物理的プロセスが組み合わさった「反応拡散メカニズム」と呼ばれるものが関与しており、特にpHの変化による沈殿物の形成が重要な要素となっています。

このメカニズムによって、HV内部では周期的な構造が生まれ、それがさらに分子レベルでのエネルギー変換に寄与しているのです。

興味深いのは、この現象が生命の誕生に関連している可能性があることです。

実際、HVに見られるイオンの流路が地球上の生命の始まりに深く関与していたと考えられています。

熱水噴出孔は、生命が誕生する以前の太古の地球にも存在していたため、このような自己組織化によって、生命に必要な化学反応やエネルギー代謝が初期の地球環境で自然に発生した可能性が示されています。

研究者たちは、これらの熱水噴出孔が、地球上で最初の生命が誕生するための「天然の化学合成装置」として重要な役割を果たしていた可能性があると考えています。

このナノスケールの構造は、地球上だけでなく、他の惑星や衛星にも存在する可能性があることが分かってきました。

たとえば、土星の衛星エンケラドスでは、地下の熱水活動が続いていることが発見されています。

もしそこでもHVのような構造が形成されているならば、生命が存在する可能性が広がるかもしれません。

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原始生命の誕生に深く関わるとされる深海熱水噴出孔 / Credit : ja.wikipedia

ナノリアクター

この研究のもう一つの興味深い点は、HVが化学反応を効率化する「ナノリアクター」としての役割を果たすことです。

ナノサイズの孔は、反応物を濃縮し、触媒として化学反応を加速させる効果があります。

例えば、ゼオライトと呼ばれる鉱物は、このナノリアクターの特性を利用して工業的に重要な化学反応を効率化することができるのです。

このような自然界のプロセスは、工学的にも応用できる可能性があります。

特に、HVのような構造は、海水と河川水の塩分濃度の違いを利用した「ブルーエネルギー」と呼ばれるエネルギー回収システムに活用される可能性があります。

現在、二次元層状のナノ材料を用いた技術が進展していますが、HVの自己組織化プロセスは、より持続可能で効率的なエネルギー収集技術の開発に新たな道を開くかもしれません。

今回の研究により、蛇紋岩を母岩とするHVは、地球上や宇宙における生命の起源だけでなく、エネルギー変換や化学反応の効率化にも貢献する可能性があることが明らかになりました。

この発見は、地球化学と生命科学、さらには工学的応用の分野に新たな視点をもたらす重要な一歩となります。

全ての画像を見る

参考文献

理化学研究所研究成果(プレスリリース)
https://www.riken.jp/press/2024/20241003_1/#:~:text=

元論文

Osmotic energy conversion in serpentinite-hosted deep-sea hydrothermal vents
https://doi.org/10.1038/s41467-024-52332-3

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

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