太陽光は、現代だけでなく、将来の世代のニーズにも対応できる「持続可能なエネルギー」の1つです。
それゆえ、世界中で太陽から発電するための「ソーラーパネル」の利用が広まっています。
ただし、「日照条件」「設置スペース」「パネルを支える土台の耐久性」「メンテナンスのしやすさ」などを考えると、ソーラーパネルを設置するのに最適な場所は、そこまで多くありません。
スイスの新興企業「Sun-Ways」は、ソーラーパネルを設置するのに最適な場所として、「電車が走行する線路のレールとレールの隙間」に目を付けました。
Sun-Ways社によると、スイスの線路5000kmの間にソーラーパネルを設置することで、スイスの公共交通機関の3分の1の電力需要を満たすことができると主張しています。
目次
- ソーラーパネルはどこに設置すべき?
- 「線路の隙間にソーラーパネルを設置する」というアイデア
ソーラーパネルはどこに設置すべき?
太陽から電力を生み出すソーラーパネルは、「どこにでも設置すればよい」というものではありません。
太陽が当たる時間をできるだけ長くするため、建物や木々が少ない場所を選ぶべきです。
また、より多くの電力を生成するために、できるだけ広い敷地を探す必要があります。
さらに、安定した土地や土台にソーラーパネルを設置する必要があり、そのための補強工事が必要かもしれません。
加えて、ソーラーパネル上の汚れ(ほこり、鳥の糞、落ち葉、花粉、雪)は発電効率を低下させるため、定期的に汚れを取り除く必要があります。
ソーラーパネルの機能に不具合が生じる場合もあるため、それらを修理したり、取り替えたりする必要もあるでしょう。
これらのメンテナンスの必要性を考えると、簡単にアプローチできる場所を選択すべきだと分かります。
では、こうした要素を満たす場所は、地球上にどれほどあるでしょうか。
建物の屋根はアクセスしやすく、土台も安定していますが、どうしても発電量は小さくなります。
一方で、市街地から遠く離れた広大な空き地や農地、山岳部などはどうでしょうか。
確かに多くの電力を生成できるでしょう。
しかし、アクセスしづらく、地形の起伏が激しいため、設置工事(土木工事・基礎工事)の初期コストが高くなります。
また複数の所有者から土地を買い取ったり、景観を損なうことへの配慮も必要だったりします。
このように考えると、大量のソーラーパネルを設置するのに適切な場所は、なかなか見つからないように思えます。
しかし、スイスの新興企業「Sun-Ways」は、これまで誰も思いつかなかった「適切な場所」を発見しました。
彼らは、スイス中に張り巡らされている「線路のレールの隙間」に、ソーラーパネルを設置しようと考えたのです。
「線路の隙間にソーラーパネルを設置する」というアイデア
世界中の線路の間には、100万km2以上のスぺースがあり、ヨーロッパだけを見ても、26万km2以上のスペースがあります。
2021年以来、Sun-Ways社は、この線路の隙間を有効活用し、ソーラーパネルを設置して電力を生み出すプロジェクトを推し進めてきました。
なぜなら、線路の隙間は、ソーラーパネルを設置するのに非常に適した場所だからです。
まず、すべての線路において電車がその上を通るのはほんの一瞬であり、設置されたソーラーパネルには絶えず太陽光が降り注ぎます。
また設置も非常に簡単です。
ほぼすべての線路で、レールとレールの間の幅は一定であり、それらの上を列車が通過しても問題ないほど安定した土台が備わっています。
この隙間に設置される各パネルは、1m×1.7mの大きさであり、一般的なレールの間に収まるよう設計されています。
パネルの設置はエンジニアの手作業でも行えますが、Sun-Ways社は線路の上を走る設置用マシンも開発済みであり、これを利用するなら、1日あたり最大1kmものパネルを設置できます。
そして、スイスの線路5000kmにこのソーラーパネルを設置できるなら、年間1TWhのエネルギーを生成できると考えられています。
Sun-Ways社によれば、このエネルギー量は、スイスの公共交通機関のほぼ3分の1の電力需要を満たすものであり、年間20万トン以上のCO2の削減にも繋がります。
また、このソーラーパネルは専用マシンを利用して簡単に取り外すことが可能であり、線路のメンテナンスを阻害することはありません。
この線路のメンテナンスの際に、ソーラーパネルの掃除やチェック、メンテナンスを行うなら、多くの手間やコストを削減できるでしょう。
通常、ソーラーパネルのメンテナスには、遠く離れた設置場所へアクセスするためのインフラが必要となります。
しかし新しいアイデアでは、線路というインフラそのものが、ソーラーパネルの設置場所であるため、アクセスに余分な労力をかける必要がありません。
加えてパネルの清掃には、どれほど現実的かは分からないものの、「洗浄ブラシを装着した電車を走らせる」というアイデアもあります。
これらの要素を考えると、これまで私たちが見逃していた「線路の隙間」は、ソーラーパネルを設置するのに最適な場所なのかもしれません。
ちなみに、これらのパネルには、反射防止フィルター付きの「フルブラックパネル」が採用されており、電車の運転手の目が眩むリスクが低減されています。
また専門家の報告によると、電車が時速150kmで走行したり、パネルが時速240kmの風にさらされたりしても、問題なく機能するようです。
そしてSun-Ways社によると、この方法で生成された電力は、鉄道のインフラ(スイッチ、信号、駅)や、電車そのものを動かすために使用したり、近くの地域で利用するために送電したりできるようです。
この新しいシステムは、2025年に、スイスのヌーシャテル州ビュット駅近くの線路の100mを使用して試験運用を行うことが決まっています。
さらに、別の地域では、私有線路1500mを使用したテストも開始されます。
これらのテストの結果次第では、今後、「線路の隙間」が、「家の屋根」や「農地・山岳地帯」と同じくらいメジャーな設置場所になっていくのかもしれません。
参考文献
Solar power project hits the rails with between-track panel pilot
https://newatlas.com/energy/sun-ways-solar-power-between-rail-track-panel-pilot/
sun-ways
https://www.sun-ways.ch/en
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部