筋トレ初心者がトレーニングを始めると、気になる要素がたくさん出てきます。
その中でも代表的な疑問は、その種目をどれぐらい追い込んだら良いのかというものです。
ジムや公共の体育館などのトレーニング施設には、「10回×3セットを目安」など、初心者向けにアドバイスが記載されています。
しかし、実際には使用する重さによって、そもそも何回できるかが変わるため、同じ10回でも追い込み度合いは異なります。
この疑問に対して、研究者たちは、そのセットをできなくなるまで実施するのか、あるいは、あと何回できる余力を残して終わるのかといった追い込み度合い・余裕度の観点からトレーニング効果の差異を調べています。
本記事では、筋トレの追い込み度合いについて、筋肥大と筋力向上という目的別にその影響を説明します。
目次
- Training to Failure(失敗までのトレーニング)とは?
- 筋肥大のためにはある程度追い込んだ方が良い
Training to Failure(失敗までのトレーニング)とは?
筋トレの追い込み度合いに関する概念として、Training to Failure(失敗までのトレーニング)があります。
Training to Failureとは、あるセットにおいて、限界まで追い込むことを意味し、通常は重りを持ち上げるコンセントリック局面ができなくなるまで行うことを指します。
例えば、ベンチプレスでバーベルやダンベルが挙がらなくなるまで実施した場合、それはTraining to Failureと評価されます。
アメリカ・ニューヨーク市立大学リーマン校(Lehman College)のブラッド・ショーンフェルド教授らの研究グループは、2022年にTraining to Failureの有無が筋トレの効果に与える影響を調べたメタ分析を発表しました。
その分析結果によると、筋力向上や筋肥大において、Training to Failureの有無はトレーニング効果に関係しないことが分かりました。
筋トレは限界まで追い込むことで効果が高まるというイメージがありますが、この結果はその見解を否定するものです。
ショーンフェルド教授らは、分析対象となった研究の多くがある程度重い重量を使用していたことを踏まえ、中強度以上の場合にはTraining to Failureまで追い込む必要がない可能性を指摘しています。
ここでの中強度の目安は、1回しか持ち上げられない重量の60%以上です(例えば、1回しか持ち上げられない重量が100kgの場合、60kg以上)。
ただし、追い込み度合いの評価をTraining to Failureの有無で分析するアプローチには、極論過ぎるとの声もあります。
実際に筋トレをした経験のある方なら分かる通り、10回できる重量を5回で終わるのと、9回で終わるのでは、どちらもTraining to Failureではないと評価されますが、後者の方が主観的にはキツく、追い込んでいると感じられます。
この点を踏まえて、今年発表されたメタ分析では、Repetition in Reserve(RIR)という違った概念を用いて、筋トレの追い込み度合いとトレーニング効果との関係を調べています。
Repetition in Reserveとは、「あと何回繰り返せるのか」という余裕を示す概念です。
次のページでは、このRIRとトレーニング効果との関係について見ていきます。
筋肥大のためにはある程度追い込んだ方が良い
アメリカのフロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)のマイケル・C・ゾウルドス教授らの研究グループは、今年7月にRepetition in Reserve(RIR)とトレーニング効果との関係を調査したメタ分析を発表しました。
RIRとは、そのセットにおいて「あと何回繰り返せるのか」という余裕を表し、具体的にはセットを終了する際に、どれだけの回数を追加で行えるかを示します。
例えば、ベンチプレスを10回で終えて、あと2回できる場合、そのRIRは2となります。
今回の研究では、これまでに発表された筋トレの介入実験を詳細に分析し、各トレーニングのRIRを推定した上で、筋力向上と筋肥大への効果を明らかにするアプローチが取られました。
その結果、筋力向上については、追い込む度合いを表すRIRは、効果とほとんど関係がないことが分かりました。
また、ゾウルドス教授らは他の研究成果を踏まえ、筋力向上を最大限に得るためには、追い込むことよりも強度、つまりできるだけ重い負荷設定でトレーニングすることが重要であると示唆しています。
一方、筋肥大については、RIRとトレーニング効果の大きさに線形関係が認められ、追い込むと、筋肥大効果が高まることが示されました。
ゾウルドス教授らは、特に軽い重量でのトレーニングの場合、Training to Failureに近づくほど筋肥大効果が高い筋線維が動員される傾向があることを指摘し、このような負荷で行う場合にはしっかりと追い込むことのメリットを述べています。
まとめると、今回の結果は、筋トレの目的が筋肥大か筋力向上かによって、追い込む目安が変わることを示しています。
ボディメイキングを目的とし、筋肉をできるだけ大きくしたい場合には、トレーニングである程度追い込むことが望ましいです。
一方で、日常生活の質の向上や怪我の予防を目的として筋力を高めたいが、追い込むのが苦手な人は、余裕を残して終えても、目標を達成するためには十分有効なアプローチと言えるでしょう(例:最大で6回しか反復できない重さを3回でストップする)。
ただし、ある程度追い込まないと自分の現状の能力を正確に把握できないため、毎回のトレーニングで余裕を残しすぎると、トレーニング時に適切な重量を選択できなくなる恐れも生じます。
どういうことかと言うと、あまり追い込まないトレーニングばかりしていると、その重さでは本当は10回も出来るのに、5回しか反復できないと勘違いしてしまうといった感じです。
そのため、体調が良く、頑張れるときには、いつもは3回でやめてしまっているところをプラス2回頑張ってみるといったように、たまには追い込んでみることもオススメです。
その結果、自分の筋力の可能性を少しずつ広げることができ、さらなる成長を実感できるでしょう。
参考文献
New study reveals sweet spot for muscle growth
https://www.news-medical.net/news/20240801/New-study-reveals-sweet-spot-for-muscle-growth.aspx
元論文
Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1016/j.jshs.2021.01.007
Exploring the Dose–Response Relationship Between Estimated Resistance Training Proximity to Failure, Strength Gain, and Muscle Hypertrophy: A Series of Meta-Regressions
https://doi.org/10.1007/s40279-024-02069-2
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。