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【まるで触手】歩く魚ホウボウの脚先には「味覚センサー」があった!


海の生物ホウボウ(Prionotus carolinus)は、胸ビレの付け根に生えた6本の細い脚に味覚センサーがあり、海底を歩き回りながら貝などの獲物を探し出すことができる。この味覚機能はハーバード大学の研究で明らかにされた。研究ではホウボウが海水だけのカプセルには反応せず、貝エキスが含まれたカプセルには確実に反応し、砂中から掘り出すことが確認された。遺伝子解析により、この機能はTbx3a遺伝子に関連していることが判明。Tbx3aは、脊椎動物全体に広く存在し、四肢の形成に重要な役割を果たす遺伝子で、ホウボウではこの遺伝子が特に脚の味覚センサーの形成に関与していると考えられる。

素手で食べ物に触れるだけで、味がわかってしまうとしたらどうでしょう?


それができれば、食べ物を見ることなくどんな食材かを当てられますが、実際にそんな驚きの能力をもつ生物が海には存在します。


ホウボウの一種「プリオノトゥス・カロリヌス(Prionotus carolinus)」は、胸ビレの付け根から生えた6本の細い「脚」でカニのようにチョコチョコと海底を歩き回ることができます。


米ハーバード大学(Harvard University)は最新研究で、これらの足先には「味覚センサー」が付いており、それを使って海底を味わい、どこに獲物が隠れているかを探し当てていることが判明したのです。


研究の詳細は2024年10月7日付で2本の論文が科学雑誌『Current Biology』(論文1論文2)に掲載されています。




目次



  • ホウボウは砂に隠れた貝を探し当てるプロ
  • ホウボウは脚先で「味」を感じていた!
  • 脚に「味覚センサー」が作る遺伝子を特定

ホウボウは砂に隠れた貝を探し当てるプロ


プリオノトゥス・カロリヌスはスズキ目ホウボウ科のニシホウボウ属に分類される魚の一種です。


野生個体は主に大西洋の西側、より正確にはアメリカ大陸の東海岸付近の海底に生息しています。


ここではわかりやすさを優先して、本種を以下「ホウボウ」と表記することにします。


ホウボウの最大の特徴となるのは、胸ビレの付け根から左右に3本ずつ生え出た「脚」です。


この計6本の脚はカニ脚のように細く、ホウボウはこれらを使って海底をチョコマカと歩いたり、砂を掘って獲物を捕らえたりしています。


こちらが脚を使って歩く実際の様子です。


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砂底を歩くホウボウ / Credit: Harvard University –Research suggests the scuttling sea robin may serve as evolutionary model for trait development, including in humans(2024)

これまでの研究で、ホウボウは脚を使って砂中に隠れ潜んでいる貝類を見つけ出すのが非常にうまいことが知られていました。


どこに埋まっているかもわからない貝類を的確に探し当てる姿は、まるで最初からそこに隠れていることを知っているかのようでした。


これを受けて研究チームは「もしかしたら、ホウボウの脚先には味覚を感じるセンサーがあるのではないか?」との大胆な仮説を立てたのです。


そこでチームはホウボウの脚先に”舌”があるのか実験で確かめてみました。


ホウボウは脚先で「味」を感じていた!


実験ではまず、野生下で捕獲したホウボウを水槽に入れ、底部に敷いた砂の中に貝を隠します。


これとの比較グループとして、貝ではなく、ただ海水を入れただけのカプセルを砂中のどこかに埋めました。


その結果、ホウボウは海水の入ったカプセルには見向きもせず、貝だけを掘り起こしたのです。


これはホウボウの採餌行動が「触覚」ではなく「味覚」に頼ったものであることを示唆しています。


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A:ホウボウ、B:実験セット図。獲物がいない場合は水槽内をランダムに歩き回った(青)、獲物がいる場合はその近くをピンポイントで歩いた(赤)/ Credit: Corey A.H. Allard et al., Current Biology(2024)

この真偽を確かめるべく、貝そのものではなく、貝の味がするエキスだけを入れたカプセルで実験を繰り返してみました。


貝エキスは味を感じる「味蕾(みらい)」を刺激する化学物質です。


味蕾は私たちの舌の表面にあるツブツブした突起のことで、ここで様々な味の違いを感じ分けています。


実験の結果、ホウボウは触覚としては先の海水入りカプセルと同じであるにも関わらず、貝エキスの入ったカプセルは無視することなく、確実に掘り起こすことがわかりました。


つまり、彼らは本当に脚先で味を感じていたのです。


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Credit: Corey A.H. Allard et al., Current Biology(2024)

さらにチームは顕微鏡観察により、ホウボウの脚先がヒトの舌表面の味蕾と同じように、無数の乳頭突起で覆われていることを発見しました。


実証テストで、この乳頭突起が味の素となるアミノ酸に反応したことから、味蕾と同じく「味覚センサー」として働いていることが断定されています。


また別の証拠として、チームはホウボウの近縁種である「プリオノトゥス・エボランス(Prionotus evolans)」を調査。


本種にはホウボウとは違って、脚先で砂中に潜んでいる獲物を探し当てる能力がないのですが、実際に脚先を顕微鏡で観察したところ、乳頭突起もなくツルツルした表面になっていることが確かめられたのです。


さらにチームはホウボウの脚に「味覚センサー」が形成される遺伝的な秘密をも解き明かしました。


脚に「味覚センサー」が作る遺伝子を特定


チームがホウボウの遺伝子解析を行ったところ、「Tbx3a」という遺伝子が脚先の味覚センサーを形成するのに関わっていることは特定されました。


Tbx3aはホウボウだけでなく、ヒトを含む脊椎動物にも広く存在しており、四肢動物の手足の一部を作るのに関与していることが知られています。


続く実験で、野生のホウボウから遺伝子編集技術を用いてTbx3aを取り除いた結果、6本の脚が形成不全を起こすことを明らかにしました。


遺伝子編集されたホウボウは味覚センサーを失って、砂中の獲物を探し当てる能力を失ったことから、Tbx3a遺伝子はホウボウの脚と乳頭突起の両方の形成に関わっていると見られます。


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ホウボウから「Tbx3a」を除去すると脚の形成不全が起きた / Credit: Amy L. Herbert et al., Current Biology(2024)

Tbx3a遺伝子は非常に古くから生物の中に存在する遺伝子です。


驚くべきことに、ホウボウは私たちの手足の形成に関与するのと同じ遺伝子を使って、ヒレとは別に6本の脚を発達させ、さらに、それらの脚先に味覚機能までも装備してしまったのです。


これは広大な自然界の中でも異例の存在と言えるでしょう。


チームは今後、ホウボウがこれらの機能を進化させた遺伝的プロセスを詳細に明らかにしたいと話しています。


全ての画像を見る

参考文献

Research suggests the scuttling sea robin may serve as evolutionary model for trait development, including in humans
https://news.harvard.edu/gazette/story/2024/09/an-idea-with-legs/

This Fish’s ‘Legs’Evolved a Special Sense to Find Food Hidden in The Sand
https://www.sciencealert.com/this-fishs-legs-evolved-a-special-sense-to-find-food-hidden-in-the-sand

元論文

Evolution of novel sensory organs in fish with legs
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.08.014

Ancient developmental genes underlie evolutionary novelties in walking fish
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.08.042

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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