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鼻ちょうちんを酸素ボンベにして20分潜水できるトカゲ!


爬虫類のトカゲは肺呼吸をするため、普通なら水中で生きることはできません。


ところが驚きの例外がいます。


中米コスタリカに生息する「アノールトカゲ(学名:Anolis aquaticus)」は、鼻ちょうちんのようなエアポケットを作って、数十分間も水中でスキューバダイビングすることができるのです。


これまではまだ自然下での観察に留まっていましたが、米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(SUNY-BU)は今回、アノールトカゲの水中呼吸能力を初めて実証することに成功しました。


研究の詳細は2024年9月18日付で科学雑誌『Biology Letters』に掲載されています。


 




目次



  • 水中に数十分も居続けられる
  • エアポケットは潜水時間を伸ばしていた!

水中に数十分も居続けられる


アノールトカゲの不思議な潜水能力が報告されたのは2018年頃のことです。


米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の生物学者であるリンジー・スウィアーク(Lindsey Swierk)氏が、中米コスタリカの熱帯雨林を流れる渓流を歩いていたときのことでした。


スウィアーク氏はある1匹のアノールトカゲが川沿いから水の中に飛び込み、数十分間も水中に留まり続けた様子を目撃したのです。


そこでスウィアーク氏は水中にカメラを設置し、アノールトカゲがどのように潜水しているのかを観察することに。


するとアノールトカゲは鼻先に空気の泡を作り、それをエアポケットにして呼吸していることがわかったのです。


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エアポケットで呼吸するアノールトカゲ/ Credit: Lindsey Swierk, eurekalert(2024)

エアポケットはまさに鼻ちょうちんのように膨らんだりしぼんだりしており、アノールトカゲが呼吸していることを示していました。


当時の観察では、この小さなエアポケットだけで水中に16分間も潜水していられることが確認されています。


潜水行動の目的はおそらく、天敵から身を隠すためだと推測されました。


コスタリカの熱帯雨林には大小さまざまな生物が暮らしており、その中でもアノールトカゲは非常にか弱い存在です。


特に足が速いわけでもないので、陸上で鳥やヘビに見つかってしまえば、ほとんど逃げ切ることはできません。


そうした中で、水中にしばらく身を隠す生存戦略を編み出したのでしょう。


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Credit: Lindsey Swierk, eurekalert(2024)

しかし一方で、スウィアーク氏は「アノールトカゲの潜水において、このエアポケットが本当に呼吸のための機能的な役割を果たしているのかどうかは検証されていませんでした」と話します。


もしかしたら鼻先のエアポケットはトカゲの皮膚の特性により生じる副次的なもので、実際にはエアポケットがなくても、アノールトカゲは数十分間の潜水が十分に可能かもしれないのです。


そこでスウィアーク氏ら研究チームは、エアポケットがある場合とない場合でアノールトカゲの潜水時間に違いが現れるのかを検証しました。


エアポケットは潜水時間を伸ばしていた!


チームはアノールトカゲのエアポケットが機能的な役割を果たしているのか、それとも単なる副産物なのかを調べるため、実験を行いました。


ここではアノールトカゲを捕獲して2つのグループに分け、一方のグループにのみ、皮膚表面に気泡が形成されるのを防ぐ物質を塗布します。


アノールトカゲの皮膚は水を弾く疎水性です。


そのおかげで水中に入ると皮膚に空気がピッタリと密着して、気泡が形成されるようになっています。


そこでアノールトカゲの皮膚に疎水性をなくす物質を塗ることで、水中に入ると普通に水に濡れてしまい、気泡が作れなくなります。


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Credit: Lindsey Swierk, eurekalert(2019)

そして両グループの潜水時間を比較した結果、「気泡を作れるトカゲ群」は「気泡を作れなくなったトカゲ群」に比べて、32%も長く水中に留まれることが判明したのです。


これはアノールトカゲの気泡がちゃんと水中での呼吸能力に寄与していることを示した初の証拠となりました。


さらにこの一連の実験観察の中で、アノールトカゲは少なくとも20分間は水中に留まれることが確認されています。


スウィアーク氏によると、もっと長く水中にいられる可能性もあるとのことです。


今回の実験結果から、アノールトカゲは気泡により水中での潜水時間を伸ばすことで、天敵の回避および生存率を高めていることが確実視されてきました。


それから研究者らは他にも、アノールトカゲの潜水能力は水生昆虫を探して食べるためにも役立っているかもしれないと考えています。


この仮説はアノールトカゲの遺骸の胃中から水生昆虫が見つかっていることからも支持されています。


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Credit: Lindsey Swierk, eurekalert(2019)

スウィアーク氏は「トカゲのような脊椎動物が水中で気泡を使う例はあまり知られていない(※)ので、この研究は生物学分野に大きな刺激を与え、アノールトカゲにヒントを得た新素材を発明する一助となるでしょう」と述べました。


(※ 昆虫を代表とする無脊椎動物では水中で気泡を使う例がいくつか知られています。例えば、ミズグモは体表面を覆う細かな毛が疎水性であるため、アノールトカゲと同じように気泡を作ることができます)


アノールトカゲの皮膚構造を模倣することで、水を完璧に弾くスーツなどが作れるようになるかもしれません。


スウィアーク氏らはアノールトカゲの生態をより詳しく理解すべく、引き続き研究を続けていく予定です。


全ての画像を見る

参考文献

‘Scuba-diving’ lizards use bubble to breathe underwater and avoid predators
https://www.binghamton.edu/news/story/5131/scuba-diving-lizards-use-bubble-to-breathe-underwater-and-avoid-predators

Lizards use nostril bubbles to breathe underwater and evade predators, researchers find
https://www.theguardian.com/science/2024/sep/18/lizards-use-nostril-bubbles-to-breathe-underwater-and-evade-predators-researchers-find

元論文

Novel rebreathing adaptation extends dive time in a semi-aquatic lizard
https://doi.org/10.1098/rsbl.2024.0371

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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