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マーモセットも互いに「名前」で呼び合っていると判明!ヒト以外の霊長類で初


人間社会でのコミュニケーションにおいて「名前」の存在は欠かせません。

「名前を呼び合う」ことは高度な知性の証であり、ヒト以外ではバンドウイルカとゾウで確認されていました。

意外にもヒト以外の霊長類では確認されていなかったのですが、今回ついに名前の文化を持つ霊長類が見つかったようです。

イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem:HUJ)の最新研究によると、マーモセットが特定の仲間を特定の鳴き声で呼ぶことが明らかになったのです。

これはマーモセットが私たちと同様に、仲間をネーミングする能力を持っていることを示します。

研究の詳細は2024年8月29日付で科学雑誌『Science』に掲載されました。

目次

  • マーモセットの鳴き方「フィーコール」とは?
  • マーモセットの驚くべき「ネーミング」の能力が判明!

マーモセットの鳴き方「フィーコール」とは?

マーモセットはオマキザル科に分類される小型の霊長類です。

主に南米のコロンビアやブラジルを原産地とし、熱帯雨林の中で樹上生活を送っています。

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白い房飾りが特徴的なコモンマーモセット / Credit: David Omer’s Lab(eurekalert, 2024)

高い社会性を持つマーモセットは私たちヒトと同様に一夫一妻制の小さな家族集団を作り、両親が一緒に子育てをします。

そんな彼らを特徴づけるのは「フィーコール(phee-calls)」と呼ばれる甲高い笛のような鳴き声です。

マーモセットはフィーコールを使って、距離の離れた仲間たちとコミュニケーションを取っています。

こちらが実際のフィーコールの映像です。

(※ 視聴の際は音量にご注意ください)

研究チームは、マーモセットがこれだけ複雑な鳴き声を使ってコミュニケーションを取るならば、仲間の名前を呼び合う能力も持っているのではないかと考えました。

私たちヒトは「太郎さん」とか「花子さん」のように特定の名前で呼び合っていますが、同じ能力はこれまでにバンドウイルカとゾウでも確認されています。

イルカやゾウの場合は、特定の仲間に対して特定の鳴き声を紐付けするやり方でネーミングしています。

またヨウム(オウムの仲間)でも親がヒナに名前(固有の鳴き声)を使って呼んでおり、ヒナも以後それを自分の呼び名と認識している可能性が報告されています。

他にもメジロサメにおいて、こうした報告がありますが動物が固有の呼び名を相手に使っているか見極めるのはかなり難しいため、まだ明確なところはわかっていません。

ただ、ヒトの仲間とされる霊長類では、まだ仲間に名前を使うという報告はありませんでした。

そこで今回の調査ではマーモセットも同じことをしていると考え、実験で検証してみたのです。

マーモセットの驚くべき「ネーミング」の能力が判明!

チームは仮説の検証のために、合計10匹のマーモセットを対象とした一連のコミュニケーション実験を行いました。

それぞれの実験ではまず、「友だち」「家族」「夫婦」といった互いにさまざまな関係性を持つマーモセットのペアを部屋に置き、自由にコミュニケーションを取らせます。

その後、マーモセットがお互いの姿を見ることができないよう柵を使って、2匹を空間的に引き離しました。

ペアを順繰りに変えながら、この一連の実験を行います。

そして録音した鳴き声を分析したところ、驚くべきことにマーモセットは柵の向こう側にいる個体に対して、特定のフィーコールで呼びかけていることが判明したのです。

例えば、友だちAには「A」という鳴き方で、子供Bには「B」という鳴き方で鳴き声を発していました。

これはヒトやゾウ、イルカと同じように、マーモセットも特定の仲間を特定の鳴き方でネーミングする能力を持っていることを示しています。

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実験のイメージ図 / Credit: canva/ナゾロジー編集部

加えて、それぞれのマーモセットに一連のフィーコールを聴かせた結果、彼らは自分に充てられたネーミング(フィーコール)をちゃんと理解して、反応していることがわかったのです。

例えば、マーモセットAに「B」のフィーコールを聴かせても反応しませんでしたが、「A」のフィーコールを聴かせると敏感に反応し、鳴き声を返していました。

要するに彼らは自分が「太郎」なのか「花子」なのかを理解していたわけです。

さらに興味深いことに、同じ家族内のマーモセットは柵の向こう側にいるマーモセットに対し、同じフィーコールを使うことも特定されました。

これも実に驚くべき結果でした。

わかりやすく例えるなら、田中さん一家の親子供であれば、近所の鈴木さんを全員が同じように「鈴木さん」と呼びかけているということです。

これはつまり、ネーミングの仕方が親子間で学習されている可能性が高いことを示唆しています。

ネーミングはなぜ進化した?

研究主任の一人であるデヴィッド・オメル(David Omer)氏は「私たちの発見はマーモセットの社会的コミュニケーションが予想以上に複雑であることを浮き彫りにしている」と指摘。

「フィーコールはこれまで考えられていたような自己局在化(=自分の位置を知らせること)のためだけに使われているのではありません。

マーモセットたちは特定の仲間に固定のラベルを付けて呼びかけていたのです」と続けました。

要するに、彼らのフィーコールは「ボクはここにいるよ!」と知らせるためだけでなく、「お〜い、太郎どこ?」と特定の相手を呼ぶためにも使われていたのです。

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熱帯雨林の中で仲間の絆を保つために進化した?/ Credit: canva

この能力が進化した理由についてオメル氏らは「視界が遮られることの多い熱帯雨林の密集した木々の中で、仲間同士のつながり維持するために進化したのでしょう」と述べています。

また研究者らはこの結果を受けて、人間の発話言語がどのように進化してきたかについても新しい洞察を提供すると考えています。

マーモセットを含む猿は、人類が誕生する遥か以前から存在したグループです。

そんな彼らが仲間同士を認識して名前を呼び合う能力を持っていたことは、複雑な脳メカニズムを発達させてきた証拠であり、その土台があったからこそ、人間がより高度な発話言語を生み出すことができたのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Uncovering the secret communication of monkeys: They have names!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1055624

Marmosets use specific ‘names’ for one another, study finds
https://www.theguardian.com/science/article/2024/aug/29/marmosets-behaviour-specific-names-study

元論文

Vocal labeling of others by nonhuman primates
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp3757

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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