今や『Uber Eats』などのフードデリバリーサービスを知らない人はいないでしょう。
街中でも、フードデリバリーサービスの配達員の姿をよく見かけます。
しかし、「よく利用する」という人もいれば、「まったく利用したことがない」という人もいるように、利用頻度に関しては大きな差が生じています。
ではよく利用するのはどういう人たちなのでしょうか? そこに何らかの傾向はあるのでしょうか?
そこでイギリスのロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)に所属するスティーブン・カミンズ氏ら研究チームは、COVID-19パンデミックから急激に成長したこのフードデリバリーサービスの利用率と世帯の関係について調査を行いました。
その結果、所得の低い世帯ほど利用率が高くは、所得や社会的地位が高い世帯と比べて、フードデリバリーを2倍以上も利用していることが判明しました。
フードデリバリーを利用すると普通に購入するより商品は割高になるため、収入に余裕のある人ほど利用しそうな印象がありますが、この傾向の差は何を意味しているのでしょうか?
研究の詳細は、2024年8月20日付の学術誌『BMJ Public Health』に掲載されました。
目次
- フードデリバリーの利用と健康の関連を調査
- 社会的地位が低い人はフードデリバリーの利用率が2倍以上も高い
フードデリバリーの利用と健康の関連を調査
フードデリバリーサービスを使用するなら、自宅に居ながらアプリで簡単に料理を配達してもらえます。
食材を買ったり調理したりする必要がないので、時間を節約したい時や疲れている時にはピッタリでしょう。
とはいえ、店頭で購入するよりも料金が割高になるというデメリットがあります。
またこのサービスで扱われるのは、主にファーストフードなどの栄養バランスが偏った商品が多いため、利用しているとあまり健康的とは言えない食事が多くなってしまいます。
そのためフードデリバリーサービスの拡大は、人々の健康に悪影響を及ぼしている可能性があります。
そこで今回の研究チームは、パンデミックを機に急激に拡大してきたフードデリバリーサービスの利用が、人々の健康に対してどのように影響しているか、また利用率が世帯によってどのように異なるか調査することにしたのです。
研究では、2019年2月の時点でイギリスに住む1521世帯を対象に、フードデリバリーサービスの利用頻度を調査しました。
そして彼らの社会的地位や健康(体重)との関連性を比較しました。
ちなみに、ここで言う「社会的地位」は、イギリスの出版業界合同の調査機関「National Readership Survey(現在は解散し、PAMCoに移行)」が、2018年に発表した職業にもとづく分類を考慮しています。
例えば、以下のように分類されていました。
- A:上級管理職、行政職
- B:中級管理職
- C1:監督、下級管理職
- C2:熟練の肉体労働者
- D:半熟練および未熟練の肉体労働者
- E:公的年金受給者、非正規労働者、公的給付のみの失業者
今回の研究では、これら職業の違いだけでなく、世帯収入の違いを考慮し、社会的地位を「高」「中高」「中低」「低」の4種類に分類しました。
ここで、所得に着目した理由は、低所得の人ほど高カロリー食品に依存しがちな傾向があり、低所得層ほど肥満や健康問題を抱えやすいという報告があるためです。
こうした格差と健康問題の傾向が、フードデリバリーサービスの利用にも関連するかに研究チームは着目したのです。
社会的地位が低い人はフードデリバリーの利用率が2倍以上も高い
分析の結果、回答者の約13%が1週間に1度、フードデリバリーで料理を注文したと分かりました。
また、回答者の約16%が、ひと月に1度、オンラインで食材を購入していると分かりました。(こちらは料理ではなく野菜などのオンライン購入)
そして最も所得が高い世帯(富裕層)は、最も所得が低い世帯(貧困層)と比べて、オンラインで食材(野菜などの商品)を購入する確率が2倍も高いと分かりました。
これは納得のいくものです。
食材を使って自宅で料理しようとする人々は、時間と労力を使ってスーパーに行くか、お金を余分に使って配達してもらうかを選択しなければいけません。
当然ですが、お金に余裕がある人々の方が、後者を選択する可能性が高まるのでしょう。
ところが、フードデリバリーで料理を注文する世帯に関しては、社会的地位が最も低い世帯の方が、社会的地位が最も高い世帯と比べて利用率が2倍も高かったのです。
収入が低いはずの「社会的地位の低い世帯」が、料金が割高になるサービスを頻繁に利用することは、一見矛盾しているように思えます。
ではなぜこのような傾向が見られるのでしょうか?
こうした問題については、他の研究からも報告されていますが、社会的地位が低い人は、不安定な労働時間や収入状況のために、生きていくために常に忙しく、疲れ果てていることが多く、社会不安を抱える割合が高くなっています。
そのため仕事から帰宅した際に、既に料理を作る気力がなく、フードデリバリーに頼る割合が増えてしまうと考えられるのです。
確かに、時間や気持ちにある程度の余裕があるからこそ、自宅で時間をかけて料理を作ろうという気持ちになるのかもしれませんね。
また、「車を所持していないことや、うつ病などを患っていることが、社会的地位の低さとフードデリバリーの利用率の両方に関連しているかもしれない」という意見もあります。
加えて、この研究では、フードデリバリーを使用する人は、そうでない人と比べて肥満である確率が84%も高いことも分かっています。
実際、この研究について議論している海外掲示板では「最低賃金で苦労しながら働いていたころは、ほぼ毎晩デリバリーを頼んでいました。そして生活が楽になるにつれ、家で料理をすることが増え、体重も減りました」と自身の経験をコメントしている人もいます。
もちろん今回の研究だけでは、それぞれの因果関係を十分に証明することはできませんが、これらの推測や意見は、ある程度納得のいくものです。
一方で、社会的地位が低く、低賃金で働いているからこそ、将来を見据えてしっかりと節約している人もいます。
そのため、今回の研究結果を通して、自分のフードデリバリー利用率やそれに伴うデメリットについて改めて考えてみることは良いことかもしれません。
フードデリバリーは便利ですが、ついつい利用が多くなると、「収入が低いのに支出が増える」という悪循環に繋がり、健康も悪化する恐れがあります。
賃金が低い中でも労働者として毎日必死に働いている人たちは、特に注意すべき問題でしょう。
参考文献
Social position linked to food delivery preferences in England
https://www.eurekalert.org/news-releases/1054832
元論文
Social inequalities in the use of online food delivery services and associations with weight status: cross-sectional analysis of survey and consumer data
https://bmjpublichealth.bmj.com/content/2/2/e000487
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部