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「世界からバナナが消える」近い将来起こるバナナゲドンを回避する研究


近い将来、世界の食卓からバナナが消えるかもしれません。

実は私たちが食べているバナナはある種のクローンであり、強力な1つの疫病によって絶滅の危機に陥ります。

実際その機器の兆候が見られており、海外メディアはこれを「バナナ黙示録(Banana apocalypse)」「バナナゲドン(Bananageddon)」などと呼んでいます。

バナナが食べられなくなるというのは、私たちにとってはかなり影響の大きい問題です。

このバナナゲドンを食い止める方法はあるのでしょうか。

最近、アメリカのマサチューセッツ大学アマースト校(UMass Amherst)に所属するリージュン・マー氏ら研究チームは、バナナを殺す病原体を分析し、そのメカニズムの一部を解明することに成功しました。

この発見により、近い将来生じるバナナゲドンを回避できるかもしれません。

研究の詳細は、2024年8月16日付の学術誌『Nature Microbiology』に掲載されました。

目次

  • 近い将来、2度目の「バナナの終末」が生じるかも
  • 「バナナゲドン」を回避するための研究

近い将来、2度目の「バナナの終末」が生じるかも

リンゴなどと同じように、バナナにも多くの種類が存在します。

例えば、加熱料理される大きな「プランテン」、赤茶色の皮をした「モラード」、小ぶりで皮が薄い「ラルンダン」などです。

しかし、一般的に食用として日本で流通しているバナナは実のところほぼ一種類しかありません。

そのバナナとは、キャベンディッシュ(学名:Musa acuminata)です。

キャベンディッシュ
キャベンディッシュ / Credit:Wikipedia Commons_キャベンディッシュ

キャベンディッシュは世界で生産されるバナナのほぼ半数であり、国際取引されるバナナのほとんどを占めています。

そのためほとんどの国のスーパーにはキャベンディッシュ1種しか並んでおらず、グローバルインフラ(冷蔵輸送、熟成を遅らせるホルモン剤、輸送箱)も、キャベンディッシュに合わせて固定化されています。

そのためキャベンディッシュは、「世界のバナナ」として確立されており、それ以外の種を世界に広めるのは難しい状況なのです。

ほとんどの人が1種類のバナナしか食べたことがない理由

しかし、そんなキャベンディッシュに危機が迫っています。

フザリウム属の病原菌の寄生によって生じる「バナナパナマ病」によって、多くのキャベンディッシュが被害を受けているのです。

この病気に感染すると、葉が変色したり萎れたりし、最終的には枯れて死んでしまいます。

さらに悪いことに、世界中のキャベンディッシュは、同一の遺伝子型を持つ「クローン」です。

キャベンディッシュの生産では、花粉を用いる代わりに茎や根の一部を植え付けたり、茎の根元から出てくる新芽を使って個体を増やしたりする「無性生殖」を行っています。

そのため、1つのキャベンディッシュがバナナパナマ病にかかるということは、世界中のすべてのキャベンディッシュが感染するということであり、感染が広まれば種としての全滅もあり得ます。

バナナにとっては終末世界となってしまい、まさに「バナナゲドン」であり、「バナナ黙示録」です。

バナナパナマ病にかかったバナナの木
バナナパナマ病にかかったバナナの木 / Credit:Wikipedia Commons_Panama disease

ちなみに、1950年代には、それまで世界で主流のバナナだった「グロスミッチェル」が、同じくバナナパナマ病で壊滅しました。

バナナゲドンは過去に1度生じていたのです。

そして当時、病原菌に耐性を持っていたキャベンディッシュが世界に広まることになったという経緯があります。

しかし先ほど触れたように、現在では、病原菌に耐性のあるはずのキャベンディッシュが、新しいタイプのバナナパナマ病によって、大きな被害を受けています。

近い将来、バナナに2度目の終末が訪れるかもしれません。

そんな中、マー氏ら研究チームは、一筋の希望を見出しました。

「バナナゲドン」を回避するための研究

1950年代以降、キャベンディッシュは世界中に広まり、高い人気を獲得してきました。

しかし、1990年代に「バナナパナマ病が再び発生した」という恐ろしい報告がもたらされました。

その時以来、新しいバナナパナマ病は、東南アジアからアフリカ、中央アメリカまで、まるで山火事や野火のように広がってきました。

2度目のバナナの終末が訪れるのも時間の問題です。

世界からキャベンディッシュが滅びるのも時間の問題
世界からキャベンディッシュが滅びるのも時間の問題 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

多くの研究者たちがこれを問題視し、食い止める方法を探してきました。

リージュン・マー氏ら研究チームも同様であり、この新しいバナナパナマ病について10年間、研究を続けています。

そして最近、新しいバナナパナマ病のメカニズムの一部を解明することに成功しました。

まず、1950年代にグロスミッチェルを滅ぼしたバナナパナマ病は、菌類(カビ)の一種であるフザリウム属の病原菌「Fusarium oxysporum f. sp. Cutense(Foc)」が原因でした。

このフザリウム菌には多くの種類があるため、研究チームは、世界中の36種類のFoc菌株を解析し、比較しました。

その結果、過去にグロスミッチェルを滅ぼしたのが「Foc TR1」なのに対し、現在キャベンディッシュを脅かしているのは「Foc TR4」だと判明。種類が異なっていたのです。

マー氏も、「キャベンディッシュを枯らす病原菌TR4は、グロスミッチェルを壊滅させた種から進化したものではないことが分かっています」と伝えています。

またFoc TR4は、真菌の一酸化窒素を生成する遺伝子を使って宿主(キャベンディッシュ)を攻撃していることも分かりました。

一酸化窒素はバナナにとって有害です。

菌類が一酸化窒素を放出すると、バナナの免疫系が悪影響を受け、菌類に感染しやすくなるからです。

さらに研究チームは、Foc TR4から一酸化窒素の生成を制御する2つの遺伝子を除去すると、Foc TR4の毒性が大幅に低下することも突き止めました。

皆大好き「キャベンディッシュ」を救うことはできるのか
皆大好き「キャベンディッシュ」を救うことはできるのか / Credit:Canva

研究チームは、この発見を活用することで、「新しいバナナパナマ病の蔓延を防止・制御するための多くの戦略が生まれる」と考えています。

まさに、第二のバナナゲドンを防ぐ「一筋の希望」が見つかったのです。

私たちの食卓からキャベンディッシュが無くなる前に、研究者たちの今後の取り組みが成功することを願うばかりです。

ただしマー氏が指摘しているように、そもそもこのような問題が生じるのは、1種類のバナナしか世界で流通していないからです。

それでも、安価なバナナが求められること、同じ大きさ・形・味が求められること、インフラの固定化などを考えると、すぐに状況を変えるのは難しそうです。

今回のバナナゲドンを回避できたとしても、いずれ第3、第4のバナナゲドンが訪れるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

The Banana Apocalypse is Near, but UMass Amherst Biologists Might Have Found a Key to Their Survival
https://www.umass.edu/news/article/banana-apocalypse-near-umass-amherst-biologists-might-have-found-key-their-survival

‘Banana apocalypse’could be averted thanks to genetic breakthrough
https://www.livescience.com/health/food-diet/banana-apocalypse-could-be-averted-thanks-to-genetic-breakthrough

元論文

Virulence of banana wilt-causing fungal pathogen Fusarium oxysporum tropical race 4 is mediated by nitric oxide biosynthesis and accessory genes
https://doi.org/10.1038/s41564-024-01779-7

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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