不味い料理を食べると、その料理をもう一度頼もうとは思いません。
また、牡蠣に当たって苦しんだ人は、「もう二度と牡蠣は食べない!」なんて感じるかもしれません。
ワニも、私たちと同じように感じているようで、この傾向を使って保護対象のワニを救おうと考える研究者が登場しました。
オーストラリアのマッコーリー大学(Macquarie University)に所属するジョージア・ワードフィア氏ら研究チームは、食べると吐き気を催すよう細工されたカエルを使ってオーストラリアワニを学習させ、彼らが猛毒なオオヒキガエルを食べないようにすることに成功したというのです。
これにより、オーストラリアワニの死亡を95%削減できたというのだから驚きです。
研究の詳細は、2024年8月14日付の学術誌『Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences』に掲載されました。
目次
- 有毒な「オオヒキガエル」を食べて死亡するオーストラリアワニたち
- 「ゲロマズ」カエルでワニたちを学習させる
有毒な「オオヒキガエル」を食べて死亡するオーストラリアワニたち
オーストラリアに生息するオーストラリアワニ(学名:Crocodylus johnsoni)は、保護対象となっています。
オーストラリアワニの皮が革製品に利用されるため、乱獲が生じ、個体数が減少しているのです。
そんな希少なワニをさらに追い詰めているのが、外来種であるオオヒキガエル(学名:Rhinella marina)です。
オオヒキガエルは、1930年代に南米から輸入されて以来、オーストラリア北部全域で広がりました。
オーストラリアに生息する動物たちにとってカエルは大好物な食料ですが、問題はオオヒキガエルの毒にあります。
オオヒキガエルの肩には大きな分泌腺があり、そこにはアルカロイドを主成分とする非常に強い毒が含まれています。
人間では、目に入るだけで失明したり、大量摂取で心臓麻痺を起こしたりするほど強力なものです。
そして、この恐ろしい影響はオーストラリアの動物たちにとっても同様であり、イグアナやヘビ、オーストラリアワニたちは、オオヒキガエルを食べることで死んでしまいます。
オオヒキガエルは外部から持ち込まれた生物であるため、現地に生息するそれら動物たちはオオヒキガエルに対する生来の防御力を有しておらず、軒並みやられてしまっているのです。
実際、研究者たちは、2008年にオオヒキガエルが持ち込まれた直後のビクトリア川沿いの領域で、ワニの生育密度が77%も減少したことを発見しました。
このような問題は、希少なワニを追い詰めるだけでなく、生態系全体に大きな影響を及ぼします。
そこでワードフィア氏ら研究チームは、「不味いカエル」を使ったある方法で、追い詰められたオーストラリアワニたちを救うことにしました。
「ゲロマズ」カエルでワニたちを学習させる
研究チームは、2019年~2022年にかけて、オーストラリア北西部のキンバリー地域の4カ所に、オオヒキガエルの死骸を散布しました。
これは単なる死骸ではなく、加工された死骸です。
研究チームは、約2400匹のオオヒキガエルを集め、有毒な部位を取り除きました。
さらに、その無毒になったオオヒキガエルのお尻に、致死性はないが一時的に吐き気を誘発し、気分を悪くさせる化学物質(塩化リチウム)を注入しました。
そして研究チームは、この「ゲロマズ」カエルを散布し、オーストラリアワニたちがどうなるかを観察しました。
その結果、オーストラリアワニたちは加工されたカエルを食べ、オオヒキガエルが自分にとって不快な存在であることを学びました。
生きた有毒のオオヒキガエルを食べることがなくなったのです。
実際、オオヒキガエルが数年間生息している地域で、オーストラリアワニがオオヒキガエルを食べて死亡するケースが95%も減少し、その効果は継続しました。
例えば、ある地域では2020年に63頭のワニの死体が発見されていました。
しかし、ゲロマズカエル散布後の2021年には、ヒキガエルを食べて死んだワニの死体はたった3頭だけでした。
さらに別の地域では、学習後にオオヒキガエルを食べるワニはいなくなりました。
対照的に、ゲロマズカエルが散布されていない近隣地域では、同時期に20~40%のワニがオオヒキガエルを食べて死んでいました。
加工したオオヒキガエルを散布するという方法は、希少なオーストラリアワニを保護するのに大きな効果を発揮したのです。
実験後の経過も良好であり、研究チームは、「このプログラムの後、ワニの個体数が戻ってきているのが分かります」と報告しています。
ただ、これはあまり持続可能性のある手段とは言えないので、「この方法をいつまで続けるべきか」という観点で、今後も観察が必要でしょう。
窮地を脱し、個体数が回復したオーストラリアワニに対して、見守るだけで大丈夫なのか、それとも定期的にゲロマズカエルを与え続ける必要があるのか、考慮する必要はありそうです。
参考文献
Crook croc Cuisine: Could a bad dinner save a species?
https://www.eurekalert.org/news-releases/1054399
元論文
Taste aversion training can educate free-ranging crocodiles against toxic invaders
https://doi.org/10.1098/rspb.2023.2507
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部