「男らしさ」と言われて、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか?
ジェームズ・ボンドのようなカッコいい男性像を思い浮かべ、自分もそうありたいと考える男性は多いかもしれません。
しかし男らしさへのこだわりは、思わぬリスクをはらんでいるかもしれません。
南フロリダ大のジョセフ・ダンデーロ氏らは、男性が女性よりも短命なのは、男女の身体的・遺伝的要因以外に「男性らしさ」に対する態度も影響してるのではと考え、世界62か国の大学生を対象に調査を行いました。
結果、「男性らしさ」に対する拘りの強い国ほど、その国の男性の平均寿命の低さと相関関係があったのです。
具体的には「男性らしさ」を重んじる国は、それほど価値を置かない国と比較して、平均寿命が約6.7歳、健康寿命が約6.2歳短いことが分かっています。
この研究で報告されている「男らしさ」を重んじる国には、日本も含まれています。
なぜ男らしさは男性の寿命を短くするのでしょうか?
この記事では「男性らしさ」に拘ることの心身における弊害を解説していきます。
この研究の詳細は2022年8月1日付で心理学雑誌『Psychology of Men Masculinities』に掲載されています。
目次
- 「男らしさ」に潜む悪影響
- 「男らしさ」に拘ると早死にする
「男らしさ」に潜む悪影響
「男らしさ」という言葉からは、力強さや勇気だけでなく、誠実さや思いやり、責任感などポジティブなイメージを抱きがちです。
確かに、そのような男性がいれば周囲の人々は信頼や安心感を感じ、精神的な支えになるでしょう。
しかしそのような「男らしさ」を持ちたいと思っている男性は注意が必要かもしれません。
なぜならこのような伝統的な「男らしさ」は、精神的健康に悪影響を及ぼす可能性があるからです。
例えば、米ブルーミントン大のジョエル・ウォン(Joel Wong)氏らは、「男らしさ」とメンタルヘルスの関係性を調べた78の研究のメタ分析を行っています。
メタ分析の対象になったデータには、日本人のデータも含まれています。
分析の対象となった過去の研究は、「男性らしさ」を測定するためにいくつかの基準に基づきデータを得ています。
その11の基準には、勝利にこだわる、感情をコントロールする、リスクを取ろうとする、物事の解決には暴力が必要だと考える、物事をコントロールしたがる、性行為に積極的である、他人に頼らない、仕事を優先する、女性を支配しようとする、同性愛を軽蔑視する、社会的立場に価値を置く、がありました。
読者の男性のみなさんは、どのくらい上記の基準に自分が当てはまるでしょうか。
メタ分析の結果、「男らしさ」を求めている男性ほど、ストレス、抑うつ、不安、薬物乱用や自分の身体に自信がないなど、精神的にマイナスの影響があることが確認されたのです。
特に強い相関関係が見られた基準は、「性行為に積極的である」「他人に頼らない」「女性を支配しようとする」の3つでした。
なぜ「男らしさ」に拘るとこのような弊害が生じるのでしょうか。
これは「男らしく」あるべきという社会的なプレッシャーや涙を流すべきでないなどの感情の抑制、「自立すべき」という他者からのサポートを得ることが難しくなるなど、自分の感情や弱さを表に出すことが難しく、ストレスや不安を本人だけが抱え込えこみやすくなる結果だろうと考えられています。
「男らしさ」に拘ると早死にする
「男らしさ」を重視することのマイナスの影響は精神面の問題だけにとどまりません。
南フロリダ大のジョセフ・ダンデーロ(Vandello Joseph)氏らは、男性が女性よりも短命なのは、身体的構造以外に前出した「男らしさ」に対する態度も影響してるのではと考察し、調査を行っています。
彼らは2018年から2022年の4年間をかけて、62カ国の約34000名の大学生を対象に「男らしさ」に対する態度を調査し、各国の平均寿命との関係を分析しました。
「男らしさ」は①他の男性が「男らしい」か気になる、②年を取っても男らしくなれていない男性もいる、③男性としての地位があったとしても簡単に失ってしまう、④「男らしさ」は固定的なものではなく、失われることもあるという4つの質問にどれだけ賛成するかにより測定されています。
結果、「男らしさ」に価値を置く国ほど、男性が飲酒や喫煙をする、また交通事故に遭う確率が高いことが分かりました。
そして「男らしさ」を重んじる国は、それほど価値を置かない国と比較して、平均寿命が約6.7歳、健康寿命が約6.2歳短かったのです。
またこの関係性は、国の豊かさや医療機関の充実度の影響を調整しても変わらないこともわかっています。
研究チームは、「男らしさに価値を置く国々では、男性の役割規範を維持するように、リスクを取る行動や健康増進につながる行動の割合低下など男性から強い同調圧力をかけている可能性が高いのではないか。」と主張しています。
「男らしさ」を重視する国は、イランやナイジェリア、ウクライナがあり、男らしさに価値を置かない国は、フィンランド、スイスウェーデンが例として挙げられます。
ちなみに日本は、アメリカよりも「男らしさ」を気にする上位の国としてランクインしていました。
日本の男性の自殺率は、女性に比べ、約2倍ほど高い事実も「男らしさ」に価値を置く国民の特性の表れかもしれません。
現在では若い人ほど「男らしさ」への拘りを強く持つ傾向は小さいように思われますが、切腹という文化が昔存在したことからも、潜在的に「男らしさ」に重きを置く態度が根ざしているとも考えられます。
今回のデータは大学生を対象にして得られたものであり、「男らしさ」が無意識のうちにリスクのある行動や、過度な自立への意識、不安や自信のなさにつながり、寿命を結果的に短くしている可能性が考えられます。
もちろん「男らしさ」のすべてが悪いわけでは当然ありません。
しかし、感情の抑制や過度な競争心、悩んでいても人に助けを求めないなど、「こんなの男らしくないよな」とついつい自分を追い込んだり、危険な選択に進んでいないか男性は一度立ち止まって自分自身に問いかけて見たほうがいいかもしれません。
参考文献
Men across the globe may be profoundly affected by a core belief about manhood, according to study of 62 nations
https://www.psypost.org/men-across-the-globe-may-be-profoundly-affected-by-a-core-belief-about-manhood-according-to-study-of-62-nations/
元論文
Precarious Manhood and Men’s Physical Health Around the World
https://psycnet.apa.org/record/2022-85627-001
Meta-Analyses of the Relationship Between Conformity to Masculine Norms and Mental Health-Related Outcomes
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27869454/
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部