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ピラミッド建設に新説!「水圧エレベーター」で巨石を運び上げていた!


「古代エジプト人はどうやって巨大ピラミッドを建てたのか?」

これは今日も議論がつづいている歴史上のミステリーの一つです。

そんな中、仏パレオテクニック(Paleotechnic)らの研究チームが大胆な新説を提唱しました。

それによると、建設中のピラミッドの中央に「シャフト(縦穴)」を設け、そこに注水したり排水することで、巨石を昇降したというのです。

これは古代エジプト人たちが「水圧エレベーター」を使っていたことを主張する史上初の説になります。

研究の詳細は2024年8月5日付で科学雑誌『PLOS One』に掲載されました。

目次

  • 新説が浮上したのは「エジプト最古のピラミッド」
  • ピラミッドに備わった「水圧エレベーター」とは?

新説が浮上したのは「エジプト最古のピラミッド」

この斬新な仮説が浮上したのは、研究チームが「ジェセル王のピラミッド」を調査したときのことです。

ジェセル王のピラミッドは、古代エジプト第3王朝のファラオ・ジェセル(在位:BC2668〜2649年)の命令で建設されました。

今から4500年以上も前のことであり、古代エジプトで建設された最初のピラミッドといわれています。

場所は現在のエジプトの首都カイロから南に約30キロ離れた古代の埋葬地サッカラに建てられました。

画像
Credit: ja.wikipedia

典型的な階段ピラミッドであり、高さ62メートル、南北109メートル、東西125メートルの長方形の底面を持っています。

また注目すべきは、ピラミッドの周辺に未だ用途のよくわかっていない古代の建造物がいくつかあることです。

研究チームは今回、これらの建造物も合わせて、「水力を利用したピラミッド建設のための複合施設になっている」と提唱しました。

それには大きく分けて3つの施設が関わっているという。

では一つずつ順に見ていきましょう。

ピラミッドに備わった「水圧エレベーター」とは?

チームが第一に発見したのは「巨大ダム」です。

これはジェセル王のピラミッドから数百メートル離れた場所にあり、「ギスル・エル=ムディル(Gisr el-Mudir)」と呼ばれる巨大な石垣を指します。

この遺構は以前から見つかっていましたが、その本来の用途については専門家の見解が一致していません。

しかしチームは今回、この遺構を含むサッカラ台地が水が流れてくる流域より下に位置することに注目しました。

過去の気象データをもとに、4500年以上前のサッカラ台地に流れ込んだであろう水量を試算した結果、ギスル・エル=ムディルが水を引き入れる巨大ダムとして機能するのに適していたことがわかりました。

そこでギスル・エル=ムディルはピラミッドへ水を供給する入り口として機能していたと考えられます。

3つの施設の復元イメージと位置関係。一番左が「巨大ダム」
3つの施設の復元イメージと位置関係。一番左が「巨大ダム」 / Credit: Paleotechnic of Paris, France, CC-BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)

第二の発見は「水処理施設」です。

ここはジェセル王のピラミッドの外側に位置しており、チームは「深い溝(Deep Trench)」と呼んでいます。

現在は長さ400メートル、深さ27メートルの遺構が残っており、こちらも用途は不明でした。

しかしチームは深い溝の構造から水の貯留や浄水システムとして機能した可能性が高いと考えます。

具体的には、先ほどの巨大ダムから送られてきた水から堆積物をろ過して、水の純度を高め、流量を調節しながらピラミッドの方へと水を供給するシステムを備えていたといいます。

「深い溝」を上から見た全体図。ピラミッドに供給される水は中央(ピンク)から
「深い溝」を上から見た全体図。ピラミッドに供給される水は中央(ピンク)から / Credit: Xavier Landreau et al., PLOS ONE(2024)

そして第三の発見が「水圧エレベーター」です。

このシステムはジェセル王のピラミッド自体に備わっています(下図を参照)。

まず、ピラミッドの地下28メートル付近に通路が南北にまっすぐ通っており、ここに水が供給されたと見られます。

この通路は200メートルほどの長さがあり、北と南に一つずつあるシャフト(縦穴)を繋いでいました。

ジェセル王のピラミッドの中心部を通っているのは北側のシャフトです。

ピラミッドの地下に2つのシャフトがあり、その間を水路が繋いでいる
ピラミッドの地下に2つのシャフトがあり、その間を水路が繋いでいる / Credit: Xavier Landreau et al., PLOS ONE(2024)

これらのシャフトには必要に応じて水を引き入れたり抜いたりするシステムが備わっており、それによって水圧を変えながら水の高さを自由にコントロールできたと考えられます。

そしてシャフト内に容器を浮かべておき、その上に石材を置くことでピラミッド内部をエレベーターのように昇降させられたというのです。

もしこの説が正しければ、当時の労働者にかかる負担を大幅に削減できたでしょう。

また研究主任のグザヴィエ・ランドロー(Xavier Landreau)氏は、この水圧エレベーターが本当に使われていたとしたら、古代エジプトの工学に関する従来の理解が劇的に変わるだろうと話しています。

反論の声が強い

しかしランドロー氏らの発表に対して、エジプト学(古代エジプトとその遺跡や遺物についての研究分野)の著名な学者たちの大方は強く反対しています。

エジプト学の大家であるザヒ・ハワス(Zahi Hawass)氏も「シャフトが水路として使われていたというなら、水が通った痕跡を見るべきですが、そんな証拠はまったくありません」と指摘。

加えて、「シャフトも水を通していた場所ではなく、ファラオを埋葬した玄室(石棺を収める場所)と考えるのが妥当です」と話します。

それから今日まで残っている史料を読んでも、ジェセル王のピラミッドの建設中にそのような水力を用いた施設が使われた記述はありません。

さらにエジプト第26王朝(BC664〜525年)の時代に、ピラミッド内部の玄室を修復した旨の記述がありますが、水力に関するものは一切ないと述べています。

水力を使った記録はない
水力を使った記録はない / Credit: canva

また、そもそも石材を上下に昇降するだけのために、ピラミッド周辺を含め、これだけ大規模な治水工事が必要なシステムは割りに合わないようにも思えます。

つまり、今回の説は理論的には興味深い主張ですが、物証は少なく可能性としては薄いと見られています。

ただ当のランドロー氏は「私たちの説を水力技術者に聞いてもらえれば、必ず同意してくれると信じています」と、まだ諦めていない様子です。

ピラミッド建設の謎を「ミニチュア版の再現」で解明しようとした男性

全ての画像を見る

参考文献

Researchers Claim Long-Lost Technology Used to Build Iconic Pyramid of Djoser
https://www.sciencealert.com/researchers-claim-long-lost-technology-used-to-build-iconic-pyramid-of-djoser

Did The Egyptians Really Build Their Oldest Pyramid With A Hydraulic Lift?
https://www.iflscience.com/did-the-egyptians-really-build-their-oldest-pyramid-with-a-hydraulic-lift-75417

元論文

On the possible use of hydraulic force to assist with building the step pyramid of saqqara
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0306690

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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