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【まるで魚人】二本足で海底を歩く奇妙な魚「レッドハンドフィッシュ」


赤色の皮膚に、ぼてっとした体、肉厚のヒレに、頭を飾るモヒカン。


これは「レッドハンドフィッシュ」と呼ばれるオーストラリア原産の魚です。


彼らは普通の魚ではありえないような生態を持っています。


それは「泳げないけど、歩いて移動できる」ことです。


レッドハンドフィッシュは2本の胸ビレを足のよう使って、海底を歩いて進んでいます。


しかし今、この愛らしい生き物は絶滅の危機に直面しており、残り100匹ほどしか存在していないというのです。




目次



  • 「浮き袋」がないので水中を泳げない
  • 熱波からレッドハンドフィッシュを守れ!

「浮き袋」がないので水中を泳げない


アンコウ目に属するレッドハンドフィッシュ(学名:Thymichthys politus)は1844年にオーストラリア・タスマニア沖で発見され、科学的に記載されました。


本種は世界の海の中でタスマニア沖にのみ分布しており、しかもそのうち、50メートル四方の2つの区画(サンゴ礁帯)にしか生息していないのです。


体長は大人でも約10センチほどと非常に小さいです。


餌は小型の甲殻類や海棲ワーム、小さな軟体動物などを食べています。


繁殖期に交尾をすませると、メスは8月〜10月にかけて海草の根元に産卵し、1つの塊につき30〜60個の卵を産みつけます。


それぞれの卵は互いに細い管でつながっており、ふ化するまで親が卵を守ります。


野生のレッドハンドフィッシュ
野生のレッドハンドフィッシュ / Credit: FAME –Foundation for Australia’s Most Endangered(youtube, 2023)

そしてレッドハンドフィッシュの大きな特徴の一つは、あらゆる魚に見られる「浮き袋」がないことです。


魚の体は周囲の海水より密度が大きいので、何もしなければ海底に沈んでしまいます。


そこで浮き袋の中に空気を溜めたり抜いたりすることで、自由自在に体の浮き沈みをコントロールしているのです。


しかしレッドハンドフィッシュには浮き袋がないので、海底に沈みっぱなしの状態で暮らさなければなりません。


そのため、彼らは肉厚の2本の胸ビレを用いて、海底をほふく前進するかのように歩いて移動するのです。


こちらが実際の映像。


胸ビレを腕のように使って移動する
胸ビレを腕のように使って移動する / Credit: Eaglehawk Dive Centre(youtube, 2014)

本当に魚のヒレには見えず、まるで腕のように使っているのがわかりますね。


ところが不幸にも、この愛らしい生き物はすでに絶滅寸前の危機に瀕しています。


野生個体は生息地である2つの区画に合わせて100匹ほどしか確認されていないのです。


またレッドハンドフィッシュはよちよち歩きしかできず、遠くに移住することができないため、環境破壊や土地開発の影響を受けやすくなっています。


レッドハンドフィッシュが生息するタスマニア沖
レッドハンドフィッシュが生息するタスマニア沖 / Credit: FAME –Foundation for Australia’s Most Endangered(youtube, 2023)

そこで豪タスマニア大学の海洋南極研究所(IMAS)が中心となって、レッドハンドフィッシュの積極的な保護活動を進めています。


同チームの海洋生物学者であるアンドリュー・トロッター (Andrew Trotter) 氏は「冗談ではなく、レッドハンドフィッシュは今や世界で最も希少な魚の一種となっている」と指摘。


「正確な生存数を知るのはとても難しいですが、私たちの知る限り、世界で最も絶滅の危機に瀕している魚種の一つであることに間違いありません」と続けています。


その中でチームは今年1月、オーストラリアを襲った熱波からレッドハンドフィッシュを守るために、一時的に海から取り出すという大胆な保護活動を行いました。


熱波からレッドハンドフィッシュを守れ!


IMASのチームは今年1月(※)、オーストラリアに到来した海洋熱波により種が全滅してしまうことを恐れて、既知の野生個体100匹のうち25匹を捕獲し、数カ月間だけ飼育下に移動させる試みを行いました。


(※ 南半球にあるオーストラリアは日本と季節が逆であり、12〜2月が夏で、6〜8月が冬になる)


慣れ親しんだ生息地から引き離すことにはリスクもありましたが、熟練した飼育者たちのおかげで、スムーズに新しい家に馴染ませることができました。


海洋熱波から守るためにれッドハンドフィッシュを一時的に保護
海洋熱波から守るためにれッドハンドフィッシュを一時的に保護 / Credit: IMAS –BACK TO THE WILD: RESCUED RED HANDFISH RETURNED TO THE SEA

トロッター氏は「移動させたレッドハンドフィッシュたちはその日のうちに餌もよく食べていました」と話しています。


また経験豊富なスタッフたちが週7日で魚の世話をし、何かあったときのために24時間体制で対応できるようにもしていたといいます。


それと並行して、チームは野生の生息地の回復にも着手しました。


具体的には、レッドハンドフィッシュの生息地に必要な海草を食べすぎている在来のウニを除去する取り組みを行っています。


海草を食べすぎるウニを除去
海草を食べすぎるウニを除去 / Credit: IMAS –BACK TO THE WILD: RESCUED RED HANDFISH RETURNED TO THE SEA

そうして数カ月の期間後、捕獲した25匹のうち18匹を無事に海へと帰すことに成功しました。


残念ながら、3匹のレッドハンドフィッシュは期間中に亡くなっています。


残りの4匹は種全体の保護活動に役立てるため、引き続き飼育下での繁殖プログラムに参加させているとのことです。


レッドハンドフィッシュ
レッドハンドフィッシュ / Credit: IMAS –BACK TO THE WILD: RESCUED RED HANDFISH RETURNED TO THE SEA

レッドハンドフィッシュたちはタスマニア沖の非常に狭い範囲に集中して生きているため、この海域の環境が土地開発や温暖化などによって急変すると、種が簡単に全滅してしまう恐れがあります。


研究チームは今後も、生息地の管理と回復を含めて、レッドハンドフィッシュを守る活動を続けていくとのこと。


この愛らしい魚たちが地球から消えてしまわないよう祈るばかりです。



全ての画像を見る

参考文献

Red handfish: A tiny, moody fish with hands for fins and an extravagant mohawk
https://www.livescience.com/animals/red-handfish-probably-in-the-rarest-handful-of-fish-in-the-world

BACK TO THE WILD: RESCUED RED HANDFISH RETURNED TO THE SEA
https://www.imas.utas.edu.au/news/news-items/back-to-the-wild-rescued-red-handfish-returned-to-the-sea

SCIENTISTS RESCUE RED HANDFISH IN HOT WATER THIS SUMMER
https://imas.utas.edu.au/news/news-items/scientists-rescue-red-handfish-in-hot-water-this-summer

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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