頭のよさを決めるのは遺伝子か、それとも育った環境か?
この「生まれか育ちか(nature vs nurture)」論争はこれまでに多くの関心を集めており、いまだに決着はついていません。
そんな中、米カリフォルニア州立大学フラトン校(CSUF)により、新たに議論を呼びそうな研究が報告されました。
この研究では、ある事情から別々の家庭環境で育てられた一卵性双生児のIQ(知能指数)の経時的な変化を追跡。
その結果、生き別れた双子は異なる環境で育ったにも関わらず、年齢が進むにつれて、互いのIQが近づく傾向にあると明らかになりました。
これは知能の決定的な要因に遺伝子が強く影響していることを示唆しています。
研究の詳細は2024年7月15日付で科学雑誌『Personality and Individual Differences』に掲載されています。
目次
- 人間の能力を決定するのは「遺伝」か? 「育った環境」か?
- 双子のIQは次第に似てくると判明
人間の能力を決定するのは「遺伝」か? 「育った環境」か?
「生まれか育ちか(nature vs nurture)」、この問いの答えを見つけるのは容易な道ではありません。
というのも私たちは1回きりの人生しか生きられないからです。
私たちが人生をもう一度やり直せるならその問いの答えに近づけるかもしれません。
例えば、1度目の人生では貧乏で本もまともに買えない家庭に育ち、2度目の人生では裕福で塾にも通える家庭で育った場合。
これでもし2度目の人生の方が頭がいいなら「育ち(=環境)」が大切であり、反対にどちらの人生でも知能に差がないなら「生まれ(=遺伝子)」が重要だと示唆されます。
SF的な装置でもないかぎり、私たちがこうした実験を行うことは無理があるでしょう。しかし遺伝的な要因が重要かどうかを確かめるには、1つだけ方法があります。
それが「双子研究」です。
一卵性双生児は互いの遺伝子がほぼ100%一致しているため、もし生まれたばかりの双子を別々の環境で育てれば、「生まれか育ちか」重要な要因を調べることができます。
とはいえ、そのために一卵性双生児を無理やり引き離して育てるわけにはいきません。
そこで研究者たちは、何らかの事情で出生後に生き別れて、別々の養父母のもとで育てられている一卵性双生児を見つけ出し、その能力差を調べることで遺伝子が人生に与える影響を調査するのです。
双子研究とは、そうした境遇の人々の理解と協力を得て実現しています。
そこで研究チームは今回、出生時に生き別れた一卵性双生児のペアを対象にして、経時的な知能の変化を追跡調査。
それによって、知能の決定には「生まれ(遺伝子)」と「育ち(環境)」のどちらがより強い影響を持つのかを探ってみました。
双子のIQは次第に似てくると判明
本研究には以下の3つの異なる双子グループが含まれていました。
・1つ目:一人っ子政策のために引き離された中国の一卵性双生児15組
・2つ目:家庭の事情のために出生後に引き離されたデンマークの一卵性双生児12組
・3つ目:血縁関係にない、養子として同じ家庭環境で育てられた同学年の兄弟(仮想双子:virtual twin)43組
まず1つ目の中国の双子ペア15組では、期間を置いた異なる時点で2回のIQテストを行っています。
1回目のテストにおける双子の平均年齢は10.69歳で、2回目のテストは平均4.18年後に行われ、双子の平均年齢は13.93歳でした。
2つ目のデンマークの双子ペア12組も同様のテストを実施していますが、こちらの方は双子の平均年齢を高く設定してあります。
1回目のテストにおける双子の平均年齢は51.42歳で、2回目のテストは平均約11.17カ月後に行われました。
そして3つ目の血縁関係のない同年齢の兄弟43組は、互いの出生時期が9カ月以内であり、1歳になるまでに養子となり、同じ学年で育っている義理の兄弟姉妹と定義されています。
彼らも同様のIQテストを受けており、1回目は約5.11歳のときに行われ、2回目は平均5.65年の期間を置いた約10.77歳のときに行われました。
データ分析の結果、遺伝子がほぼ100%一致している一卵性双生児では、経年ごとに互いのIQが似通ってくることがわかりました。
1つ目の中国の双子ペアでは、1回目のIQスコアの差が平均11.93点だったのに対し、2回目には平均7.93点にまで縮んでいます。
同様に2つ目のデンマークの双子ペアでも同じ傾向が見られ、時間の経過ごとにIQの類似性が増加していました。
しかしこれと対照的に、血縁関係のない仮想双子ペアではまったく違う傾向が見られています。
こちらは逆に時間の経過ごとにIQの類似性が低下していったのです。
1回目のIQスコアの差は平均10.74点だったのに対し、2回目には平均14.12点にまで増加していました。
以上の結果を簡潔にまとめますと、
・一卵性双生児(遺伝子が一致)は、まったく異なる家庭環境で育てられたにも関わらず、時間の経過ごとに互いのIQが似通ってきた
・血縁関係のない仮想双子(異なる遺伝子)は、まったく同じ家庭環境で育てられたにも関わらず、時間の経過ごとに互いのIQの差が開いていた
このことから「知能の決定には遺伝子の影響が強く影響しており、環境の影響は時間を経るごとに弱まっていくことを示唆している」と研究者は説明しました。
研究主任のナンシー・L・シーガル(Nancy L. Segal)氏は「若いときこそ、家庭環境が知能に与える影響は大きいようですが、歳をとるにつれて、遺伝的な影響力の方が大きくなるのかもしれません」と述べています。
今回の研究では、個々人の頭のよさには遺伝子が強く影響することが示されました。
学習能力や、知識獲得の効率に遺伝子が大きく影響する可能性は十分にありそうです。
この結果を聞くと「結局は遺伝子なのか」と思うかもしれませんが、この結果は育った環境要因が人生後半の知能に対して必ずしも決定要因ではない可能性も示唆しています。
親ガチャという言葉が一時期流行っていましたが、この言葉は主に育てられた環境、家庭の経済状況に対して使われていました。
しかし、知能面で見た場合に、育った環境の影響が時間経過とともに減少するのであれば、結局は本人の努力の影響が大きいと考えることができるかもしれません。
例え経済状況は悪くても、親の遺伝子は良いかもしれません。また遺伝子の影響を超える努力があれば、育った環境要因は抑え込めるとも言えるのです。
地頭がいいと言われるようなタイプは、やはり遺伝子が影響しているのかもしれませんが、私たちの人生を決めるのは結局本人の努力次第であり、それが結果を大きく変えることになるのでしょう。
参考文献
Groundbreaking study reveals the impact of genetics on IQ scores over time
https://www.psypost.org/groundbreaking-study-reveals-the-impact-of-genetics-on-iq-scores-over-time/
元論文
Developmental trends in intelligence revisited with novel kinships: Monozygotic twins reared apart v. same-age unrelated siblings reared together
https://doi.org/10.1016/j.paid.2024.112751
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部