ある時期から、しきりと暗号通貨という言葉をメディアでよく耳にするようになりました。
日本でも暗号通貨に早くから手を出して成功した人たちを「億り人」などと呼んで話題にしていましたが、正直多くの人たちはあんなものに手を出す人って、なんか普通と違うのでは? という思いを抱いていたのではないでしょうか?
実際、暗号資産(仮想通貨)にハマる人は、暗黒面に落ちやすい特性を持っているのかもしれません。
カナダ・トロント大学(University of Toronto)の研究チームが、暗号資産に投資した経験のある人の性格特性を調査した結果、これらの人たちには共通する特性が見られやすいと判明しました。
その特性とは、「ダークトライアド」として知られる社会的に問題となりやすい性格特性で、そのために彼らは過激な政治信念を持ったり、陰謀論を信じやすい傾向があるといいます。
研究の詳細は2024年7月3日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。
目次
- 暗号資産(仮想通貨)とは?
- 暗号資産にハマる人は「陰謀論」を信じやすい?
暗号資産(仮想通貨)とは?
暗号資産(仮想通貨)とは、インターネット上でやり取りされるデジタルなお金のことです。
お札やコインのような「モノ」としての形は持たず、電子的なデータとしてのみ存在しています。
暗号資産には多くの種類がありますが、最も有名なのは「ビットコイン(Bitcoin)」でしょう。
ビットコインは2008年に世界で最初に作られた仮想通貨であり、おそらく、暗号資産と聞くと多くの人がビットコインを最初に思い浮かべるはずです。
暗号資産はその名の通り、取引の安全性を保つために暗号技術が使われており、不正アクセスや改ざんを防止しています。
また中央銀行や政府といった特定の管理者が存在しておらず、すべての取り引きはネットワーク上に参加している多数のコンピューターによって分散的に記録されています。
こうした暗号資産に特有のデジタル情報の記録・管理技術を「ブロックチェーン」と呼びます。
暗号資産は銀行を介さないため、国境を越えた低コストかつスムーズな送金が可能です。
また特定の店舗やオンラインショップでの支払いにも利用されており、その利用者数は年々増加傾向にあります。
日本国内では2023年末の時点で500万人以上のユーザーが存在するとのことです。
その一方で、暗号資産にはデメリットや危険な点も数多くあります。
例えば、暗号資産は価格が短期間で変動しやすいため、予測が難しく、投資リスクが非常に大きいです。
それからセキュリティが万全ではなく、ハッキングや詐欺によってユーザーの資産が盗まれる被害が多発しています。
研究チームは今回、こうした投資リスクが高く、安全性に懸念点がある暗号資産を利用する人はどのような性格特性を持っているのかを調べてみました。
暗号資産にハマる人は「陰謀論」を信じやすい?
チームはこの問題を検証すべく、2022年にアメリカ在住の2001名の一般成人(男性900名・女性1101名・平均年齢48歳)を対象に調査を実施。
そのうち約30%は暗号資産を所有しているか、または過去に所有したことがあると答えていました。
この調査では、暗号資産の利用の有無と並行して、個々人の性格特性や政治的信念、経済状況などをアンケート調査で調べています。
そしてデータ分析の結果、暗号資産を所有しやすい人は、男性で高所得者であり、議論好きである傾向が強いことがわかりました。
さらに最も注目すべきは、これらの人々が「ダークトライアド」の性格特性と色濃く関連していたことです。
ダークトライアドとは
・自己愛症(ナルシシズム)
・権謀術数主義(マキャヴェリズム)
・精神病質(サイコパシー)
の3つの性格特性を指す総称です。
自己愛症(ナルシシズム)は、自己愛が強すぎるあまり、自尊心やエゴイズムが大きく、他者への共感の欠如があらわれる特性を指します。
権謀術数主義(マキャヴェリズム)は、どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果が良ければ許されるという考え方です。
この傾向が強い人は、自己中心的かつ冷淡で、他人を搾取したり操作することを好み、人を小馬鹿にしたような態度を取りやすくなります。
精神病質(サイコパシー)は、利己主義や衝動性、無反省の側面が強く、反社会的な行動を繰り返す特徴があります。
ダークトライアドが強い人々は、他者を苦しめたり、グループの秩序を乱したり、犯罪を犯す可能性が高く、暗黒面に陥りやすい人々です。
またこの3つに「加虐性欲(サディズム)」を加えて、ダークテトラッドとする場合もあります。
まさに暗号資産を利用する人たちは、ダークトライアドの傾向が強い状態にありました。
さらに調査によると、暗号資産の利用者は陰謀論を信じやすかったり、過激な政治信念を持っていたり、右派・左派以外のマイナーな政治的思考(例えば、キリスト教ナショナリズム※)を信奉しやすいことが示されています。
(※ キリスト教ナショナリズムとは、国家のアイデンティティと政治をキリスト教の価値観や教義に基づいて考える思想です。
この信奉者は、特定の国が神によって特別な使命を与えられていると信じ、その国の政治、法律、社会構造がキリスト教的な価値観に基づくべきだと主張します)
以上の結果から、暗号資産を利用する人は暗い性格特性を持ちやすく、反社会的な行動を取るリスクが高いことが示唆されました。
比較的小規模な調査とはいえ、こうした差が見られるのは興味深い結果と言えるでしょう。
暗号通貨と聞いて、「なんか怪しい」「どういう人がやってるの?」と漠然とした疑問を感じていた人達からすると、この結果は納得行くものかもしれません。
ただし研究者らは今回の調査について、対象者の数が限られていることや対象者が自己申告したデータのみに基づいており、客観的なデータを欠いている点で限界があると指摘します。
そのため、暗号資産を利用する全ての人がダークトライアドの持ち主であると考えるべきではないでしょう。
それでも研究者は「この調査は社会の新しい動きや流れにいち早く参加する人々がどのような特性の持ち主であるのかを理解する助けとなるでしょう」と話しています。
参考文献
What kind of person invests in cryptocurrencies?
https://www.scimex.org/newsfeed/what-kind-of-person-invested-in-cryptocurrency
元論文
The political, psychological, and social correlates of cryptocurrency ownership
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0305178
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部