埼玉大学で行われた研究により、ゼブラフィッシュやメダカなど魚の首の骨の数が明らかになりました。
魚にそもそも首があるのか?と疑問に思うかもしれませんが、私たちの手足の起源が魚のヒレにあり、また陸上動物の肺は魚の浮袋に起源があるなど、私たちの体のあらゆる部位は先祖である魚の一部が変化したものとなっています。
同様に私たちの首の骨の起源も、魚の背骨のどこかに存在すると考えられます。
研究内容の詳細は2024年6月28日に『Development』にて発表されました。
目次
- そもそも魚に首はあるのか?
- 魚の首の骨は1つしかない
そもそも魚に首はあるのか?
「首を長くする」「首が回らない」「首をかしげる」のように、日本は「首」という一つの言葉を多彩な慣用句に使用しています。
首は頭部と身体をつなぐ重要な部分であり、その動作を通じて人間は多様な表現が可能となります。
慣用句が多いのも、人類には首を使った表現を行うことが得意だからだと言えるでしょう。
また首の柔軟さは、感覚器官が集中している頭部を旋回させることを可能にし、環境からの情報の取得に貢献しています。
この柔軟さを支えているのが、首の骨の連なりです。
これまでの研究により、哺乳類の首の骨は7個存在していることが知られており、この7個の可動性に富んだ連なりによって、首の柔軟性と安定性のバランスを保っています。
あの首が長いことで知られるキリンも、海に生息する巨大なクジラも、人類と同じ7個の首の骨で頭部を支えています。
(※ナマケモノ(8~9個)やジュゴン(6個)といった一部の例外があります。)
また鳥類の首の骨は11~25個とかなり多く、ニワトリなど14個、首が長いことで知られる白鳥は22~25個であることが知られています。
さらに首長竜などは70個の首の骨があったことが化石から判明しました。
一方、カエルなどの両生類では首の骨が1個しかないことがわかっています。
そのためカエルたちが別の方向を見たい時には、哺乳類や鳥類のように首を回すのではなく、体全体の向きを変える必要があります。
では魚の首の骨はどうなのでしょうか?
1匹のサンマやイワシなどを食べたことがあるひとならば、魚たちにも頭蓋骨があり、中央部には肋骨を伴った「胸椎」が走っているのをみたことがあるはずです。
しかし魚類の多くは、人間や鳥の首ように頭部と体を繋げる「細い部分」としての首は存在しません。
ナマズのように全身が柔軟な魚類も存在しますが、哺乳類や鳥類のように頭部だけをクルリと回転させることは困難です。
魚に首の骨はあるのか、あるとしたら何個なのか?
もし無いのならば、哺乳類や鳥類などの首の骨はどこから来たのでしょうか?
単なる首の骨でも、その起源の探索は脊椎動物という背骨を持つ動物の進化を紐解く上で非常に重要だと言えるでしょう。
そこで今回、埼玉大学の研究者たちは、魚に首の骨の謎について調べることにしました。
魚の首の骨は1つしかない
脊椎動物では一般に頭蓋骨、首の骨、胸椎(肋骨がはえている骨)の順番で並んでいます。
そのため理論的には、背骨から胸椎以降を差し引けば、残ったものは首の骨であると言えます。
しかしこの単純な引き算の概念はすぐに行き詰りました。
「胸椎=肋骨がはえている骨」という公式が必ずしも成り立たない場合があるからです。
たとえば魚類の研究によく使用されるゼブラフィッシュでは、上の図のように頭蓋骨と肋骨が生えている胸椎の間に、4つの骨があることが知られています。
ですが、たとえば4番目の骨は実は元は胸椎だったものが、進化の過程で肋骨部分が短くなり、結果的に首の骨のように見えているだけ、という可能性もありました。
一番上側の胸椎が何処かがわからなければ、引き算を使って首の骨の個数を決定することはできません。
そこで研究者たちはマウスなどで前半の胸椎の位置を決めていることが知られている遺伝子「Hox6」を、ゼブラフィッシュで壊してみることにしました。
もし胸椎にかかわるHox6の破壊で、この4つの骨に変化が出るものが現れれば、その骨は首の骨のフリをしている胸椎である可能性があるからです。
すると、4個の骨のうち3番目と4番目の骨に異常が発生したことが判明します。
この結果から3番目と4番目の骨はもともとは胸椎であり、首の骨のフリをしているだけであることが示されました。
さらにHox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカを解析した結果、2番目も首の骨とは言い難く、1番目の骨だけが哺乳類などの「首の骨」と類似した性質を持つことが判明しました。
このことからゼブラフィッシュやメダカなどの魚の首の骨は「1個」であることが判明しました。
そのため研究者たちは「脊椎動物は陸上に進出したあと首の骨の数を増加させ、複雑な首の構造を発達させた」と結論しました。
今後も首の骨の進化を追跡することで、生物の適応戦略や環境に対する応答の仕組みを調べたり、再生医療の分野にも応用可能な知識を提供できるようになるでしょう。
参考文献
魚に首の骨(頸椎)はあるのか?―脊椎動物の共有形質 「背骨」の進化を探る―
https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2024/07/research-highlights_ja/pr20240628.html
元論文
Hox code responsible for the pattering of the anterior vertebrae in zebrafish
https://doi.org/10.1242/dev.202854
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部