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【大人の発達障害】ADHDの影に隠れた集中できない症候群


「やたらとボンヤリしてしまう」「作業に集中するのが難しい」「宙の一点見つめることが多くなった」

こうした自覚症状がある人は、「自分ってADHDなのかも」と思っているかもしれません。

確かにADHD(注意欠如・多動症)には、集中力が不安定とか、注意散漫といった症状があげられます。

ただしADHDの症状で指摘される、集中力の欠如とは集中自体ができないという意味ではなく、興味の対象が次々に移ってしまうことを指しています。つまり新しく目移りしたものに対してはきちんと集中できているのです。

しかし世の中には集中自体が出来ないという症状があります。

それが「認知的離脱症候群(cognitive disengagement syndrome:CDS)」です。

聞いているつもりなのに全然内容が頭に入ってこないという場合、こちらに該当している可能性があります。

これは一体どういう疾患で、ADHDとはどのように違うのでしょうか?

目次

  • 「集中できない」には2つの異なる症状がある
  • 「CDSの知名度が低い」ことが問題

「集中できない」には2つの異なる症状がある

「集中力の欠如」は社会生活を送る上で、不利になる場面が多く、問題にされることの多い症状です。

近年この「集中力の欠如」において、よくやり玉にあがるのがADHDです。

ADHD(注意欠如・多動症)は主に、不注意・多動性・衝動性の3つを特徴とする発達障害で、現在は成人期になってADHDと診断されるケースが多くなっています。

成人のADHDは、子供に見られるような多動性と衝動性は目立ちにくくなり、不注意の色合いが強くなるため、私生活での物忘れや遅刻、仕事中のうっかりミスや先延ばしが多くなります。

なぜADHDの症例数が世界的に急増しているのか?

 

 

そのため集中力がない人は、とりあえず「ADHDなんじゃない?」と言われがちで、当人も「自分はADHD傾向があるのかな」と考えてしまいがちです。

しかし、集中力の欠如にはADHDと似ているようでまるで異なる別の症状があるのです。

それがCDS(認知的離脱症候群)です。

ADHDとCDSはどちらも「集中力がない」と言われてしまう点は同じなのですが、大きな違いがあります。

それはADHDには集中力を発揮する力があるのに対し、CDSはそもそも集中力を発揮すること自体が難しくなっている点です。

ADHDの人には何かに強く集中する力があります。

ところが多動性や衝動性の問題から、興味の対象が他へ移りやすく、すぐ他のことが気になってしまうため、結果として注意散漫になって集中力が欠如した状態になってしまうのです。

なので集中力自体は常人よりも遥かに高い場合も多く、自分の好きなものであれば、集中力が不安定になるどころか、寝食を忘れて何時間でも没頭することがあります。

ADHDとCDSの違いとは?
ADHDとCDSの違いとは? / Credit: canva

対照的に、CDSの人は何らかの異常で、本来脳に備わっているはずの認知能力や処理速度が低下しています。

処理速度が遅いということは、情報を取り込んで理解し、応答するのに時間がかかることを意味します。

これはCDSが以前まで「鈍い認知テンポ(Sluggish Cognitive Tempo:SCT)」と呼ばれていたことからもよくわかります。

CDSの人は周りの人々に比べて、話の理解や情報の処理速度のテンポが遅いので、今問題となっていることについて行けないことが多々あります。

そうするとどうなるでしょうか?

話について行けないので、話を聞くことを放棄してしまい、自分の中だけで空想を楽しみ始めたり、一点見つめたままボーっとしてしまうのです。

このように、認知行動に追いつけなくなって離脱してしまうことから、現在この症状はCDS(認知的離脱症候群)と呼ばれるようになっています。

そしてCDSを持つ人たちもまた、日常生活の質や学業成績の低下、社会的交流において大きな困難に直面しやすくなっています。

さらにCDSが深刻な場合だと、活動力も低下し、何事にも無関心になって、引きこもりになるリスクもあるという。

社会生活を送る上では、ADHDとCDSはよく似た不利な特性があります。そのため混同されやすい面を持ちますが、症状としてはまるで異なります。

CDSにはADHDのように、自分の好きなことには過度な集中力を発揮できるということもないのです。

「CDSの知名度が低い」ことが問題

CDSがADHDと間違われやすい原因の1つは、CDSを定める公的な基準がまだ存在していないため、診断が困難な点があげられます。

一部の心理学者は、質問票と行動観察を組み合わせて、「頻繁な空想、頭の中がボンヤリする、処理速度が遅い」などの程度を評価することでCDSの診断を行っています。

しかしCDSと判断できても、症状をサポートして改善するための治療法も確立されていません。

認知行動療法によって最良の対処法を身につけたり、ADHDに使用されるのと同じ治療薬が有効との意見もありますが、まだエビデンスは得られていないといいます。

「CDSの認知度が低い」ことが問題
「CDSの認知度が低い」ことが問題 / Credit: canva

そして最大の問題は「CDSの知名度が非常に低いこと」と専門家は指摘します。

CDSはADHDに比べると社会的な認知度が低く、今回初めて聞いたという方も多いでしょう。

そのせいでCDSは他の症状と混同されて正しい治療がされなかったり、悩みが理解されずに「単にだらしないだけ」とか「努力が足りないからだ」と批判されやすいのです。

そこでCDSの病理を根本から理解し、原因の究明や治療法の開発を進めることが、症状に苦しんでいる人を支援する上で急務だと考えられています。

おそらく、CDSが一般に認知されていないために、隠れCDSの人が世界中にたくさんいるはずです。

専門家らは「CDSはもっと注目されるべき疾患であり、ADHDとは分けて考えるべきでしょう」と話しています。

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参考文献

Find It Hard to Focus? You May Have Cognitive Disengagement Syndrome
https://www.sciencealert.com/find-it-hard-to-focus-you-may-have-cognitive-disengagement-syndrome

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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